Q. 認知症患者数を減らすことができた国があるって本当ですか?
平均寿命が延びているのに、認知症患者数が減っている国があるのはなぜ?
日本国内では認知症患者数の増加が問題になっていますが、海外では患者数を減らすことに成功している国があります。わかりやすく解説します。
Q. 「認知症患者数が減っている国があると聞きましたが本当でしょうか? 予防できるものなら認知症を予防したいです。どんなことをして認知症が減っているのか気になります」
A. 本当です。減少傾向の国から学べることを考えてみましょう
日本国内の認知症患者数は、増加の一途をたどっています。2023年現在、65歳以上の高齢者の認知症患者数は600万人を超え、このペースで推移すると2040年には約800万人、2060年には約850万人になると推定されています。さらには、認知症の発症と関連する糖尿病や高血圧などの基礎疾患患者数も増えていることを考慮すると、2040年には約950万人、2060年で1150万人に達するかもしれないというショッキングな予想もあります。また、認知症の最大リスクは「年齢」と言われています。厚生労働科学研究費補助金によって行われた認知症全国調査のでータでは、年齢階級別の認知症発症率は、70~74歳で4%、75~79歳で14%、80~84歳で22%、85~89歳で41%、90~94歳で61%、95歳以上で80%と報告されています。つまり、長生きすればするほど、認知症が起こりやすくなるのです。「認知症にならないためには早死にしたほうがいい」という笑い話があるくらい、年をとれば誰でも認知症になってしまうように思われます。
しかし、驚くべきことに、近年欧米諸国では認知症患者数が減っています。決して寿命が短くなっているわけではありません。国をあげての施策が功を奏した成果だと言われています。
2013年の国際的学術誌『Lancet』に、イギリスの75歳以上の高齢者に占める認知症の割合が、過去20年間で減少したというデータが発表されました。その20年間でイギリス国民の平均寿命はおよそ3年延びたにもかかわらずです。その理由を知ることができれば、日本でも認知症患者数を減らすことができるかもしれません。
イギリス政府は2007年に、“What's good for your heart is good for your head.”(あなたの心臓に良いことはあなたの頭に良い)というスローガンを掲げ、生活習慣の改善によって心血管系の病気を防ぎ、認知症のリスクを減らそうという国家戦略を進めたのです。特に、「禁煙」と「高血圧の管理」を推進したそうです。
イギリスではタバコが1箱1300円程度とかなり高価だったためか、喫煙する人の割合は日本と同程度でも、喫煙の本数は日本の3分の1程度と少なくなっています。
血圧のコントロールには、減塩が有効と考えられていますし、近年の研究から過剰な食塩摂取が認知症を引き起こすことが示唆されています。そこで、イギリス政府は国民に減塩を呼びかけるとともに、食品メーカーに働きかけて販売される食品の塩分含量を減らしたそうです。
また、イギリスは予防医学を推進しました。日本の医療では、病気になった人に治療を行うことで診療報酬が与えられますが、イギリスでは、血圧や血糖値等を定期的に測定し、病気を発症しないような予防的指導をした場合にも診療報酬が支払われる制度が導入されたそうです。
さらに、オランダ、アメリカ、スウェーデンなどからも認知症患者数が減少傾向にあるという同様の報告がなされています。すべての国に共通しているのは、生活習慣の改善に重点を置いたという点です。本当にそれが良かったのかどうかは不明ですが、事実として認知症患者数が減っているのですから、大いに参考にすべきでしょう。
治療薬の開発や介護制度の充実など、認知症になった後の対策だけでなく、イギリスをはじめとする諸外国のように、我が国も重点政策として認知症予防に本気で取り組むべきではないでしょうか。
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