最初は“純粋なラブストーリー”の予定だった
Netflixシリーズ『離婚しようよ』はNetflixとTBSがタッグを組んだ作品。プロデューサーは『池袋ウエストゲートパーク』『ごめんね青春!』などの磯山晶(TBS)さん。脚本は宮藤官九郎さんと大石静さんが担当しています。磯山さんは公式インタビューで、最初は純粋なラブストーリーにしようとしていましたが宮藤さんから「Netflixの映画『マリッジ・ストーリー』(2019/スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー主演作)のような仲の悪い夫婦の物語にしたい」と言われ、離婚を目指す夫婦のドラマになったと語っています。
失言、不倫で人気失墜の議員と国民的女優の仮面夫婦
亡くなった大臣の父親の政治地盤を引き継いで愛媛県で初当選した東海林大志(松坂桃李)は、国会や応援演説での数々の失言に加え、女子アナの三俣桜子(織田梨沙)との不倫で人気を失ってしまう。一方、大志の妻・黒澤ゆい(仲里依紗)は国民的な人気女優。ふたりはSNSの「YUIチャンネル」生配信で仲のいいところを見せていますが、実は仮面夫婦。大志の浮気に加え、姑(竹下景子)に「早く世継ぎを!」としつこく迫られ、ゆいはうんざり……。大志への愛情も冷め切っており、ふたりとも口を開けばケンカばかり。そしてついに「離婚」を決意します。
そんなとき、解散総選挙で大志が愛媛から立候補することになり、地元で人気のある女優、ゆいとの離婚ができなくなります。
「じゃあ、選挙が終わったら離婚しよう」ということになり、夫婦で最後の選挙活動をスタートさせるのですが……。
おもしろポイント1:登場人物全員がクセ強めの濃厚キャラクター
とにかくこのドラマのキーポイントは登場人物の「キャラクターの濃さ」。それでもキャラが渋滞を起こすことなくスマートに描かれているのが特徴です。では主なキャラクターをご紹介。東海林大志(松坂桃李)
女子アナとの不倫、国会での失言など、失敗ばかりのポンコツ議員。とはいえ「愛媛のために!」という地元愛は強い。純粋でまっすぐな性格。
黒澤ゆい(仲里依紗)
ドラマ『巫女ちゃん』でブレイクした国民的女優。大志と結婚しても人気は衰え知らず。大志の不倫に怒りながらも、その後、ゆいも浮気することに。
加納恭二(錦戸亮)
ゆいの浮気相手。パチンコで生計を立てながら謎のオブジェを制作しているアーティスト。東大中退。“色気がダダ漏れのパチアーティスト”。
石原ヘンリーK(古田新太)
ゆいの担当弁護士。東大法学部出身。人当たりはいいが、うさんくさい。
印田薫(板谷由夏)
大志の担当弁護士。テキパキとしており早口が特徴。頼りない大志に呆れながらも面倒見はいい。
他にも大志の秘書・早乙女(尾美としのり)、大志の母(竹下景子)、ゆいの母(高島礼子)、ゆいの所属事務所の社長(池田成志)、大志のライバル・想田豪(山本耕史)など、ユニークな人物が次々登場!
おもしろポイント2:離婚を通して成長していく夫婦
ネガティブにも捉えられがちな離婚ですが、このドラマでは大志もゆいも、それぞれ人生を前向きに歩んでいるところが魅力。だから『離婚しようよ』なんですね。そして全9話を通して、主人公のふたりが成長していく姿を描いているところもポイント。コメディー要素だけでなく、夫婦、結婚、離婚について大切なことも描かれています。
【大志の成長】 大志はポンコツ三世議員で、勉強不足による失敗ばかりしていましたが、総選挙でライバル・想田豪と闘う中、地元の支援者たちから大切なことを教えてもらいます。
ゆいのサポートに対しても、周囲が人気女優のゆいばかりにチヤホヤするので、妻に嫉妬していましたが、次第にゆいの努力に対して感謝をし、夫婦の二人三脚がうまくいくように。また不倫相手を懸命に生きるひとりの女性として捉えるようになるなど、確実に成長していきます。
【ゆいの変化】 一方、ゆいは大志の不倫と彼の悪びれない態度に怒りを爆発させますが、選挙が終わってから「離婚」することに話がまとまると、大志のサポートを懸命にこなします。
同時に恭二という愛人との仲も深めていきますが、ミステリアスな恭二への見方が次第に変わっていくと同時に、選挙活動を通して大志への冷め切っていた愛にも変化が表れます。ここに恋愛のリアリティーがあり、ゆいの恋愛エピソードはひとつの見どころです。
おもしろポイント3:政治と選挙の仕組みをポップに見せる
大志の選挙活動が始まると舞台は選挙区の愛媛へ。支援者との関係、自転車で回る選挙活動、スピーチ、家族の協力など、選挙の裏側をコミカルに見せていきます。国会答弁のシーンや政治に関するセリフには政権に対する辛口エピソードも! 大志VS想田豪の選挙バトルなど、政治や選挙をポップにわかりやすく見せることで「選挙」に興味を持つ人もいそう。
おもしろポイント4:キャスティング最高、全員ハマり役!
とにかく主演から脇役までキャスティングがばっちりハマっていました。主演の松坂桃李と仲里依紗は初共演とは思えないほど息の合ったお芝居。ふたりのシーンは半分以上ケンカしていますが、こんな丁々発止のやりとり、うまい役者じゃないとできません。頼りないポンコツ男をかわいく、かつ、ツッコミどころ満載のキャラとして魅力的に見せる松坂さん。ゆいに怒られると目が泳いだり、空気が読めずに場違いなコメントで周囲を凍らせたり、間の取り方も含め芝居が丁寧! 改めて素晴らしい俳優だと思いました。
仲さんは女優の顔、大志の妻の顔、そして恭二といるときの顔などいくつもの顔を使い分けていますが、緩急をつけた芝居で感情のアップダウンを自然に表現。大志とのケンカのシーンでも、ガミガミうるさく感じないのはちゃんと感情が乗っているから説得力があるんです。
助演では、ゆいの不倫相手の恭二を演じる錦戸亮さんの「狙ってないのに、漏れてくる色気」が良かったし、大志の秘書・早乙女を演じた尾美としのりさんもいい! 東海林家に忠誠を誓い、ポンコツ大志の尻拭いに奔走する姿をユーモラスに見せていてさすがでした。
おもしろポイント5:クドカンと大石静の共同脚本がサイコー
このドラマは宮藤さんと大石さんが各話の脚本を交換日記のようにやりとりしながら書き上げたそうです。俳優たちは「このセリフは宮藤さんかな」などと想像しながら演じていたとのことですが、ドラマを見る私たちも「このシーンはクドカンぽい!」「ここは大石さんのパートかな」と想像しながら見るという新しいドラマの見方を提示してくれました。
宮藤さんと大石さんの相性が良く、人気脚本家ふたりのいいとこ取りをした脚本。だからこそ面白く、一度見始めたら全9話一気に見たくなること必至です。
だから『離婚しようよ』は面白い!
Netflix配信ドラマとしてスタートしてから国内1位、世界10位を獲得した週もあり、レビューも好評。何度もおかわりしたくなるドラマです。何より「離婚」によって、大志とゆいが、夫婦の関係や自分の人生を見つめ直し、自らの選択で生き方を決めていく展開や、キャラクター全員がそれぞれの人生をしっかり歩んでいる姿が見られるのが良い。“キャラクターが立っている”というのは、人物の背景がちゃんと描かれているということ。このドラマはそれが完璧なんです。
「人生って面白い」と思わせてくれるドラマ『離婚しようよ』。ぜひお楽しみください。
Netflixシリーズ『離婚しようよ』(Netflix全世界独占配信中 全9話)
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)プロデューサー:磯山晶、勝野逸未
監督:金子文紀、福田亮介、坂上卓哉
脚本:宮藤官九郎、大石静
出演:松坂桃李、仲里依紗、錦戸亮、板谷由夏、織田梨沙、神尾楓珠、少路勇介、矢沢心、守屋麗奈、高岸宏行、前原滉、尾美としのり、池田成志、山本耕史、高島礼子、竹下景子、古田新太