思春期を救ってくれた日本のドラマ
――キャリアについてお伺いしたいのですが、宮沢さんはアメリカ留学後、日本の大学在学中からモデルデビュー、そして俳優業へと進んでいますが、アメリカで俳優の道に進むという選択肢はなかったのでしょうか?宮沢:まったく考えていなかったですね。日本のエンターテインメント業界は、誰にでも可能性があるからこそ夢が見られる世界。モデル出身の人やミュージシャン出身の俳優もいたりして、どんな職業の人にも可能性があるじゃないですか。僕が挑戦するには、この道しかない。そこに賭けてみようと思って帰国しました。
――そもそも俳優になりたいと思ったのは、何かきっかけになる作品や俳優さんがいたのでしょうか?
宮沢:子どもの頃からドラマが大好きだったんです。僕の学生時代は『プロポーズ大作戦』(2007/フジテレビ)『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(2007/フジテレビ)『山田太郎ものがたり』(2007/TBS)『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(2010/TBS)など面白いドラマがたくさんあって、小学校、中学校時代、勉強でつまずいたり、学校で嫌なことがあったりしてモヤモヤした時、僕はドラマを見て現実逃避していました。ドラマを見ている時間は幸せだったんです。 ――ドラマ好きが高じて俳優になりたいと思うようになったのですね。
宮沢:でも僕の場合、「お芝居がやりたい」ではなく、当時は「あのキラキラした世界に自分も入りたい!」と思っていました。自分がいる日常とはまったく異なる世界にすごく憧れていましたね。
――実際に俳優になって、お芝居の面白さや演じる喜びなどありますか?
宮沢:いろいろな職業を経験できるのが俳優の魅力です。警官になったり、犯罪者になったり、医者になったり……。それが面白くて仕方がないのですが、その反面、すごく疲れることもあります(笑)。
皆さんもそうだと思うのですが、やはり家から一歩出たら、学校や会社など、その人が所属する場所に合わせて生活していますよね。パブリックな顔というか、自分の別バージョンを演じている感じです。俳優はそれプラス別の人間も演じているので、すごくエネルギーを消費します。
でも、そうやって頑張って作り上げた作品が公開された時は本当にうれしい。どんなに撮影が大変でもきれいに払拭されますし、ひとつひとつの出演作が残っていきますから。『はざまに生きる、春』もその1本。宝物がまたひとつ増えた気持ちです。 ――将来はどう考えていらっしゃいますか? 宮沢さんは英語も堪能なので海外での活躍も期待してしまうのですが。
宮沢:以前から英語を使ってお仕事をしたいと思っていたのですが、先日『エゴイスト』で、第16回アジア・フィルム・アワードで助演男優賞をいただいて、ますます「日本映画はもっと海外へ出ていくべきだ」と思いました。
活躍の場はハリウッドだけじゃない。韓国映画をはじめ、アジアの映画界も盛り上がっているので、自分が求められる作品があったら挑戦したい。自分の俳優活動の環境をどんどん変えていきたいと思っています。
撮影・取材・文/斎藤 香
宮沢氷魚(みやざわ・ひお)さんのプロフィール
1994年4月24日生まれ。アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ出身。2015年、第30回「メンズノンノ」専属モデルオーディションでグランプリを受賞してモデルデビュー。2017年ドラマ『コウノドリ』(2017/TBS)で俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台と活躍の場を広げている。主な出演作は、NHK連続テレビ小説『エール』(2020)『ちむどんどん』(2022)、映画『his』(2020)『騙し絵の牙』(2021)『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022)『エゴイスト』(2023)『レジェンド&バタフライ』(2023)など。近作はドラマ『ラストマンー全盲の捜査官ー』(2023/TBS)『ドラフトキング』(2023/WOWOW)。また2023年6月5日より舞台、COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』に出演する。『はざまに生きる、春』(2023年5月26日公開)
出版社で雑誌編集者として働く小向春(小西桜子)は、仕事も恋もうまくいかずに悩んでいました。そんな中、青い絵しか描かない画家の屋内透(宮沢氷魚)と出会います。発達障害のある透は常にまっすぐで嘘のつけない人。周囲をうかがって空気を読んでばかりいた春は、そんな透に惹かれていくのですが……。監督・脚本:葛里華
出演:宮沢氷魚、小西桜子、細田善彦、平井亜門、葉丸あすか、芦那すみれ、田中穂先、鈴木浩文、タカハシシンノスケ、椎名香織、黒川大聖、斉藤千穂、小倉百代、渡辺潤、ボブ鈴木/戸田昌宏