海外にも「学歴フィルター」はあるけれど……? 日本の「学歴評価」の“合理性”と“イマイチさ”
学生側の立場としては「学歴だけで評価しないでほしい」という不満があると思うが、果たして企業の採用活動において学歴フィルターはどこまで「合理的」なのだろうか。それと同時に世間から毎年のように叩かれる「イマイチさ」はどこにあるのだろうか。
「出身大学」は、「相性の良い人材」を見つける1つの手段
企業の採用活動に携わってきた立場から言えることは、「学歴」のみを評価し採用を決める企業は存在しないということだ。企業に行われるアンケートで「採用時に重視する能力」のトップは毎年「コミュニケーション能力」であり、「学力」と答える企業は少ない。ただし大学名を見ていないかというとそんなことはなく、多くの企業で「ターゲット大学」というものは存在する。それだけで学生や世の中は「ほら!やはり学歴で人を選んでいるではないか!」と言いたくなるのだが、企業もそんな安易な選考をしているわけではない。
企業が求めているのは「学歴の高い人材」ではなく、その企業に入社してから仕事で「活躍できる人材」である。では「どんな人材が自社で活躍できる人材なのか?」というのは企業にとって永遠の問いなのだが、それは能力的にも性格的にもその企業と「相性の良い人材」だといえる。その「相性の良い人材」を見つける1つの手段が「出身大学を参考にする」ということなのだ。
採用の実態――大学の見方には「横軸」と「縦軸」がある
実は採用活動における大学の見方には、「横軸」と「縦軸」がある。「横軸」は地域や学部、その大学の校風などの「環境面」である。それは学生の「性格や人柄」に影響する。例えば関西圏の大学であれば、全体的に話し好きで人との距離感も近い学生が多かったり、看護系や心理系の学部は面倒見の良い学生が多かったりする。当然企業によっても社員の雰囲気や人柄は異なるため、大学を横軸で見ることで相性の良い人材を見つけるヒントになるのである。
「縦軸」は、世の中的な“学歴”という表現に近く完全に「偏差値」である。偏差値によって入学難易度と知名度が変わるので、偏差値の高い大学ほど難関大学であり有名大学であることが多い。そのため「有名大学であれば就活でより評価される」というイメージが持たれやすい。偏差値の高い大学に入学した実績を評価する企業も当然あり、その企業にとってはその学生が「相性の良い人材」ということになる。
ではなぜ偏差値の高い大学への入学は実績として評価されるのだろうか?
それは、「受験勉強」という1つの長期にわたる大変な仕事で成果を出したと認識されるからだ。受験勉強は本当に大変な作業だ。興味のある・なしに関わらず、指定された教科の膨大な情報を暗記、問題を解く力をつけて、それを本番のテストで点数という形で結果を出さなければいけない。そのためには自分で計画を立て、意志を持ってやり遂げる必要がある。
実は社会での仕事も同様で、与えられた仕事は自分の興味関心とは関係なくやり遂げなければいけないし、その期間は数週間のものもあれば年単位のものもある。偏差値の高い大学に入学した学生は、そのような能力や経験を受験を通じて培ってきたであろうと評価され、その評価はあながち間違ってはいない。スポーツでも勉強でも、努力して一定の成果を出したことは評価されるべきである。
では、そんな「企業と相性の良い人材」を見つける方法としてある程度機能している「学歴フィルター」は、なぜここまで毎年のように世間から叩かれるのだろうか?
それは日本の「学歴」に対する評価の仕方に、“イマイチな点”が多いからである。
「入ってしまえば卒業できる」日本の大学。海外との違いは?
厳しい受験競争を勝ち抜いて難易度の高い大学に入れたことは評価すべきだが、それは高校卒業時の18歳の能力と実績である。企業が学生を採用する22歳とは4年も差があり、その間の学力の向上はほとんど評価されないのが実態だ。現に企業の採用面接で、大学で学んだ授業や卒論、成績などについて質問されることは少ない。それは在学中、そこまで勉強で努力しなくても卒業できることを企業も分かっているので、学生の本業である勉強ではなく、アルバイトやサークルなどのそれ以外の課外活動に対する質問が中心になってしまう(学生自身もあまり勉強を頑張ったと言い切る学生は少ない)。
この、入学時の18歳の時の努力が評価対象(=入口評価)となりすぎているのが、日本の「学歴フィルター」の最もイマイチなところである。
海外の大学では全く状況が異なる。文部科学省が2014年に行った調査では、日本の大学の中退率が4年間で10.6%。対してアメリカ・ハーバード大学による調査では、入学後6年間で4年制大学を卒業できない学生の割合が56%。2人に1人は大学に入ったは良いものの卒業できないというのが実態だ(※2)。
海外の企業でも出身大学は当然評価対象にはなるが、それは「4年間かけてよく頑張って卒業できましたね!」というもの(=出口評価)で、日本の「高校時代に勉強頑張ったんですね!」とは違う。海外のように、大学時代の頑張りや能力向上で評価され、合否を決められるのであればある程度納得ができるが、日本の学歴フィルターの場合は高校卒業時の結果で合否を決められているように感じてしまうから、どうにも“イマイチさ”が残る。
重要なのは、「学歴プラスアルファの武器」を持つこと
ここまで読むと大学入学時で卒業後の人生が決まってしまうかのような印象を持ってしまうが、就活や採用活動はそんな単純なものではないから安心してほしい。企業がなぜ採用活動の中で、勉強以外のことを聞こうとしているのかというと、入学時だけではなく大学入学後の4年間で培った経験や能力を評価したいと思っているからだ。
それらを大学での研究や卒業論文で培う人もいるし、留学やアルバイトなどの課外活動に力を入れる人もいるだろう。実は学歴フィルターに文句を言う学生の多くは、大学生活で取り組んだ活動に自信がなく、入った大学も特に有名大学ではない。その状態で志望企業の選考に落ちた場合、あたかも「学歴」で落とされてしまったかのような印象を持っている人が多い。
学生の評価への大学名の影響は、ゼロではない。それは、その大学に入る上での努力は正当に評価されるべきだからだ。しかし、少しくらい名のある大学に入ったからといって安心しないでほしい。企業が本当に知りたいのは4年間での経験や培った能力であり、それがあれば大学名に関係なく評価して採用したいと思っている企業はたくさんあるのだから。
<参考>
※1:就活生が知っておきたい学歴フィルターとは|影響力について徹底解説(就活の未来)
※2:第74回 アメリカの大学における中退問題(US FrontLine)