今回は、会社員として働きながら副業している方や、フリーランスの方の視点でインボイス制度を解説してみます。
《目次》
・インボイス制度とは?
・仕入れ税額控除とインボイスの関係とは
・消費税の課税事業者になるということは?
・インボイス制度で企業側はどう動く?
・インボイス制度で副業をしている人はどうすればいい?
・まとめ
インボイス制度とは?
インボイス制度とは、企業などが消費税に関して「仕入れ税額控除」を受ける際、現行の「区分記載請求書」に加え「登録番号」「適用税率」「消費税額」の書かれたインボイス(適格請求書)を保存しなければならない制度です。インボイス(適格請求書)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」として登録している、消費税の課税事業者でなければなりません。端的にまとめたつもりですが、なんのことやら理解できませんよね。そこでペンダントを作り企業に納品する方と、納品されたペンダントを商品として売る企業(*)を例にとって説明します。
*企業は、消費税の課税事業者かつ基準期間の課税売上高が5000万円超の前提
ペンダントを作り納品する方に対し、企業は仕入れ代金として本体価格に加え消費税を支払います。企業が消費税を支払う理由は、作る方からするとペンダントは商品であり、企業は商品の買い手だからです。皆さんがお店で商品を買う際に消費税を支払うのと同じです。
そして企業は、納品されたペンダントを消費者に販売する際、商品代に加えて消費税を受け取り、税務申告時は受け取った「消費税」を国に納めます。その際ペンダント制作者に支払った消費税分は差し引くことができ、これを「仕入れ税額控除」といいます。
仕入れ税額控除とインボイスの関係とは
これまで企業が「仕入れ税額控除」を受けるには、ペンダント制作者が発行する簡単な記載の「区分記載請求書」の保存でよかったのですが、令和5年10月からは、正確な「適用税率」や「消費税額」、発行した方の「登録番号」などが記載されているインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要があります。しかしながらペンダント制作者が、インボイス(適格請求書)を発行するには「適格請求書発行事業者」としての登録が必要であり、そもそも「消費税の課税事業者」でなければなりません。
企業からすると「仕入れ税額控除」を受けるために、ペンダント制作者にはインボイス(適格請求書)を発行してほしいと思うでしょう。一方でペンダント制作者からすると「適格請求書発行事業者」への登録はよいとしても、「消費税の課税事業者」にもなってしまうデメリットを考えてしまうわけです。
消費税の課税事業者になるということは?
消費税の課税事業者になるというのは、消費税を国に納める必要が出てくるということです。消費税には「免税事業者」という区分があり、課税売上1000万円以下(個人の場合前々年の売上が基準)であれば、消費税の申告と納税が免除されます。かなり手広く事業を行っている方であれば別ですが、ペンダント制作で1000万円超を売り上げる個人はおられないでしょうから、この方の場合はこれまで「免税業者」として企業から預かった消費税を、国に納めることなく利益(益税)にできていました。しかしながら課税事業者になってしまうと消費税を納税する義務が生じるため利益が減ってしまうわけです。
消費税が3%や5%の頃であれば免税事業者の「益税」は気にされなかったかもしれませんが、8%、10%となるとそれなりの額ですし、課税事業者からの不公平感もあり、国も免税事業者の「益税」問題を放っておくわけにはいかなくなったのかと思います。
国がインボイス制度を導入するそもそもの理由は、免税事業者への「益税」つぶしだといえるでしょう。
インボイス制度で企業側はどう動く?
インボイス制度が導入されることで、企業側はどのように動くのでしょうか。東京商工リサーチが5292社に行った、免税業者との取引を今後どうするかについてのアンケートによると、「これまで通り41.2%」「免税事業者とは取引しない9.8%」「取引価格を引き下げる2.1%」となっており、約1割の企業が何らかの対応を取ると答えています。
「取引価格の引き下げ」とは、具体的には「仕入れ税額控除」を受けられないのであれば「消費税」分の値引きを求めるとの意向ではないかと推察されます。なお「検討中」と答えた企業は46.7%であり、約半数の企業が現在も迷っている状況がうかがえます。
《参考》東京商工リサーチ
インボイス制度で副業をしている人はどうすればいい?
項目を「副業をしている人」としましたが、副業に限らず、個人事業主、フリーランスの方などで現在「消費税の免税事業者」に該当する方が取るべき行動と考えてください。まず、副業でも対価が「給与」として支払われている方は何もする必要はありません。インボイスは消費税に関わる制度であり「給与」に消費税はかからないからです。
また、取引先の企業の課税売上高(前々事業年度の売上)が5000万円以下で「簡易課税制度」を選択している場合も対応は不要です。その企業は、仕入れに関わる消費税を「みなし仕入れ率」を使って計算し、正確な消費税の計算やインボイスの保存が必要ないからです。
それ以外の場合は、前項で示したように約4割の企業が免税業者との取引を「これまで通り」、約1割の企業は何らかの対応策を考えていますので、まずは現在の取引先の意向を確認することが必要かと思います。
取引先が「これまで通り」の取引を続けてくれるのであれば、あえてインボイスに対応し「適格請求書発行事業者(課税事業者)」になる必要はないでしょうし、取引先が何らかの対応を取る意向であればインボイスに対応し「適格請求書発行事業者(課税事業者)」になる必要があるかと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はインボイス制度を、副業している方やフリーランスの方の視点で解説してみました。インボイス制度自体は令和5年10月から開始されますが、それに間に合わせるには、令和5年3月末までに、副業している方やフリーランスの方は「適格請求書発行事業者」への登録を申請する必要があります。企業(課税事業者)と取引をされている方はインボイス制度を知らなかったでは済まされません。取引先から確認され慌てることがないよう、ご自身の方向性を早めに決めておく必要があります。
なお、記事中ではインボイス発行事業者への登録方法などには触れていませんので、詳しくは国税庁ホームページを確認ください。
《参考》国税庁/インボイス特集