「ジョブ型雇用」とは……昇進・昇給のための考え方
「ジョブ型雇用」とは? 「解雇されやすくなる」は誤解
<目次>
「ジョブ型雇用」とは? 「日本型雇用」との違い
企業の視点で、日本型雇用とジョブ型雇用の現実と向き合ってみよう。ジョブ型雇用とは、社員の仕事の役割と責任をより明確にするために、職務内容を明文化することで、それに基づいて必要な人材を採用する制度である。海外企業ではジョブ型雇用が一般的であり、国内でも外資系企業の多くが主に中途採用でジョブ型雇用を実施している。反面、職務内容を定めないまま新卒社員を一括採用する日本型雇用(メンバーシップ型ということもある)は、日本独自のシステムである。社員の仕事の役割と責任を明確にしたうえでの採用でないため、定期的な異動や昇進がしやすくなる。もちろん職務内容に関する経験や専門性が配属で重視されないわけではないが、その仕事の経験や知識がなくても配属転換を行い、昇進が行われることもある点で、日本型雇用は世界的な水準から見れば、かなりユニークな制度である。終身雇用や年功序列などの考え方との相性もいい。
会社にとって日本型雇用のメリットは大きかった
実際日本型雇用にはメリットも多かった。社員の長期雇用は企業に安定をもたらし、人材やノウハウの社外への流出をとどめることになったからだ。特に20代、30代の若手社員を雇用することに関しては、会社側のメリットが大きい。若手社員は給与テーブルの最低ラインから始まり、それがゆっくり上昇する間、スキルと経験を意欲的に積んで会社に貢献できるように育つ。賃金とスキルの伸びに相関性がある時期であり、伸び盛りの優秀な人材を安い賃金で雇うことができる日本型雇用は、これまでの日本経済発展を支えてきたともいえる。
さらに、会社は組織の事情を優先させて、社員を柔軟に配属転換や転勤させることもできた。これは、雇用した時点で社員の仕事の役割と責任を明確にしていない日本型雇用の特徴であり、会社にとって好都合であった。新しい職場に異動した人が、「まだ右も左もわかりませんが、頑張りますのでよろしくお願いします」とあいさつする光景は、まさに日本的であり、ジョブ型雇用の下、即戦力採用が原則である海外の会社では、あまり見ることはない。
なぜ日本型雇用からジョブ型雇用にシフトするのか
ジョブ型雇用のメリットは、社員の仕事の役割と責任が明確で、スキルと経験のある社員が業務にあたっているため管理がしやすく、時間の経過とともに社員の専門性も高まることだ。常に即戦力の社員が業務にあたるから、社員育成の時間や労力、コストなどをあまりかけなくてもいい。日本型雇用のように、年功序列的に給料を上げていく必要もあまりない。自分が取り組む仕事に対してその対価として給料が決まっているため、同じ仕事をして貢献度も安定していれば、給料はあまり上がらないが、下がることもない。少なくとも、理屈ではそういうことになる。
日本型雇用の企業が多い現状では、40~50代の中高年社員の給料は、20~30代などの若手から中堅社員と比べれば高いことが多く、賃金とスキルの伸びに相関性が薄くなっている。別の言い方をすれば、会社への貢献度に比べて、中高年社員の給料は高くなりすぎていることが多く、会社の負担が大きいのである。日本型雇用からジョブ型雇用にシフトする会社の中には、社員の高齢化やそれに伴う人件費の高騰に耐えられなくなっているケースが少なくないのである。
ジョブ型雇用の職場では、社員の昇進や退職によってポストが空けば、社内公募でそのポストを埋めるか、それができなければ社外から採用する。社員の専門性は高まり、昇給や昇進には、会社への貢献度が高いことが求められる。人材の流動性があることを前提とした制度である。社員からしてみれば、年功序列で給料が上がらないことにはなるが、会社にとっては貢献度の低い社員の給料高騰は起きにくくなる。
コロナ禍で在宅勤務をはじめとした働き方の多様化が進み、社員の仕事の役割と責任をより明確に定義するようになったため、ジョブ型雇用を導入しやすい環境が整ってきた。テレワークが常態化したことでオフィスのスペースも縮小し、副業規定や労働時間、休暇の見直しなども進み、社員の流動化がますます進むことを想定されている。
このような背景により、日本型雇用からジョブ型雇用へのシフトする企業が増えてきているのである。
ジョブ型雇用は人を幸せにするか
ジョブ型雇用には2つの誤解が伴うことが多い。1つ目は、「ジョブ型雇用は成果主義である」という誤解だ。成果主義とは、一定期間内の目標達成度で成果を評価し、それを給与や昇進に反映させる形態のことであるが、これは日本型雇用でもジョブ型雇用でもありうる人事管理の考え方である。2つ目の誤解は、会社への貢献度が低ければ解雇されるのではないかということだ。海外の会社の中には、その国の慣習で会社が社員の解雇をしやすい場合がある。これが原因で、日本でも同様のことが起きるのではないかと考える人がいるかもしれないが、日本の法律では会社による解雇の濫用が禁じられており、そう簡単には解雇されることはない。
仕事の役割と責任が明確であるジョブ型雇用で仕事をする社員の多くは、自分がすべき仕事を理解していることから、会社に対して一定の貢献をしている人も多い。ジョブ型雇用が雇用の安定を脅かすというのは正しくないのである。
ジョブ型雇用は、仕事の役割と責任を明確にして、原則は即戦力となる人材を採用し関連部署に配属する。社員のスキルや経験を長期的に活かしやすくなり、会社の意向による異動や転勤もない。よって社員は、自分の人生設計やキャリア設計をしやすくなる。昇進や昇給のチャンスをつかむためには、ポストが空いたときにそれに応募することになり、その際にもしかしたら異動や転勤が伴うこともあるかもしれないが、それは自分の自由意思で応募しているのでストレスは少ない。
ジョブ型雇用を導入した会社で働く場合、自分の専門性を高め、経験や実績をアピールできれば、社内公募でチャンスを掴んだり、転職したりとキャリアアップもしやすくなるだろう。これらや上記誤解への正しい理解があれば、ジョブ型雇用は人を幸せにできるシステムになるのではないだろうか。
ジョブ型雇用の会社で働くために必要な発想転換のポイント
あなたが働く日本型雇用の会社が、今後ジョブ型雇用にシフトするとしたら、あなたは具体的に何を変えなければならないのか、整理しよう。雇用の安定や長期雇用を心配する必要はないが、長く働けば自動的に昇給や昇進が実現することはないと思っておいた方がいいだろう。役割と責任が明確な仕事をやりながら、自分のスキルアップを実現し、経験を積んでアピールできるような実績を重ね、昇進や昇給にチャレンジする意識を持とう。昇給や昇進を実現するためには、転職という選択肢も持つことが必要である。会社任せのキャリアは成り立たないということだ。
自らの人生に対して感じる充実度や豊かさには、今後人によって大きな格差が広がる可能性もある。自己実現や収入面の充実なども含め、誰もが自身のキャリア戦略に主体的に取り組む必要がある。今の時代、過去のどの時代と比べても事業環境の変化が早く、大企業であっても企業存続の不確実性は高まる一方である。
ジョブ型雇用をきっかけに、社員個人が自分自身の市場価値向上のために専門性を高め、人脈を広げるなど、総合的なバリューアップに向けた日常的な取り組みが必要になる。
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