少女漫画の性描写などが心配! 子どもに読ませたくない親心……
小学生に読ませたくないマンガを禁止せず、判断力やメディアリテラシーを育むには? まずは、親がよく考えること!
有害と思われるものから子どもを守りたい・守るべき、もっとよいものを読んでほしいという気持ちが湧いてきてしまうのは、ひとえに親心、子どもの幸せを願うからでしょう。
とはいえ、子育ての目標は「子どもの自立」ともいえます。また、そもそも子どもであっても、本人の好みや希望は尊重されるべきものです。
そう考えると必要なのは、子どもからマンガを遠ざけることではなく、その内容や表現について子ども自身がその是非を判断できるようになることのはずです。
では、そのために親のできることは何なのか? 親が読ませたくないと思うような描写についてどう考えるのか? ――などについて、考えてみましょう。
<目次>
漠然と「まだ早い」と感じたときこそ、親はよく考えてから話す
あるマンガについて「小学生にはまだ早い」と感じたとします。その理由は何でしょうか? 理由によって、子どもに「どうしてほしいのか」が変わるはずです。ですから、子どもと話す前に具体的に言語化することが大切です。たとえば、暴力的なシーンのあるマンガという例で考えてみます。
「まだ幼くて判断力がなく、自分の意見を力づくで通すことができると思ってしまいそう」「現実との区別があまりついていないから、マンガのまねをしてしまうかも」という理由であれば、「暴力は許されない」と伝えることも、「〇歳になるまで待ってほしい」と制限することもできます。
あるいは、「複雑なストーリーがまだ理解できないから、暴力的な印象だけが残ってしまいそう」という理由であれば、「〇歳になるまで」と制限しても、後から感想を聞いてフォローするという選択でもよいでしょう。
さらに、どんなものに刺激を受けやすいかという個人差に配慮して、子どもと相談することもできます。たとえば、子どもに絵・ことば・音(音楽)などで、特に影響を受けやすいものがあれば、マンガ・ノベライズ・アニメなど、メディアの特性と合わせて考え、心身への負担の軽いものを選ぶとよいですね。
親の愛情を“空回り”させないためにはロジカルに話す
マンガの内容や描写が気になるという方は、マンガそのものを禁止しようとしているわけではなく、むしろ、マンガを読みたいという子どもの気持ちに沿おうとしていることが多いものです。けれども、あれこれと心配する中、つい語調がきつくなってしまい、お子さんにその愛情や理解が伝わらないこともあります。マンガの過剰な描写を偶然目撃して、驚き、頭に血が上った勢いで話をしてしまうようなことも、きっとありますよね。
ただ、子どもにとって「今読みたいのに読めない」というのは、その欲求が強ければ強いほど、心底残念で悔しいもの。特に、流行っているものや仲の良い子が読んでいるものであれば、なおさらでしょう。好きなものを認めてもらえないことへの悲しみが、反発として表現されることもあります。
ですから、子どもの好み(作品それ自体)、ましてや子ども本人を決して否定せず、ていねいでロジカルなやりとりを心がけるとよいですね。
では、ここからは「親が読ませたくない」と感じるようなマンガについて、テーマごとに考えていきましょう。
恋愛観・性描写・ジェンダーバイアスについての問題点
今は、小学生でも「付き合う」ことがめずらしくありませんから、子どもがターゲットのマンガで恋愛がテーマになるのは自然なことといえます。親には幼く見えていても、子どもには子どもの世界があるのです。ただ、性についての知識のない子どもが読むものですから、あまりにも性描写が露骨なものや、性差別につながりそうな描写の多いマンガは、適切とはいえません。
また、意外かもしれませんが、ふわふわとしたかわいらしい雰囲気のマンガにも、注意が必要なことがあります。「好きなら(付き合ったら)キスするのが当たり前」と(いう思い込みで)行動したり、性暴力やデートDV(※)とも思われるような行為が幸せとして描かれていたりする作品があるからです。これらは、子どもに誤ったメッセージを伝えてしまいます。
また「同じクラスの異性」「修学旅行」など、設定が現実的であればあるほど、また子どもが低年齢であるほど、その内容が誇張されたり、誤ったりしているということに気づけず、リアルに受け止めてしまうことになります。
※デートDVは、今は中高生には身近な問題です。自治体によっては、小学生の保護者向けにデートDV予防教育を行ったり、小学生向けの資料を作ったりもしています。
性についての正しい知識を身に着けるきっかけに
恋愛や性がテーマのマンガで、親が「間違っている」「まだ早い」と感じる表現が多いような描写が多いときは、「壁ドンは、現実では性暴力なんだよ」など性教育の一環としてきちんと説明するか、「きちんとした知識が身につくまで、読むのは待ってほしい」などと伝えることをおすすめします。大人には取るに足らない、問題だらけのように感じられる作品も、子どもにとっては、キラキラした夢のつまった世界かもしれません。その世界を否定する言い方をしないこと、子どもの気持ちを尊重することをお忘れなく
性については、年齢があがるほどどうしても話をしづらくなりますから、子どもの偏見が少ないうちに日常的に伝えていきたいですね。マンガそのものを禁止するよりも、正しい知識を身につけることの方が、子どもの心と身体を守ることにつながるはず。マンガは、そのよいきっかけになるかもしれません。
暴力・残虐なシーンの悪影響
暴力や残虐な場面の多いマンガも、子どもに見せてもいいのか迷うことが多いでしょう。絵による具体性、つまり「わかりやすさ」がマンガの魅力ではありますが、その分、不必要に強いインパクトを与えてしまう可能性があります。特に、子どものストーリーの理解が不十分な場合、その暴力性だけが印象に残ってしまうこともあるでしょう。
マンガを読む前後にしっかりとしたフォローを
注意したい描写には、暴力だけでなく、いじめ・自殺・他殺などの陰惨な行為や場面も含まれます。そういった描写があるとわかっている場合、事前に子どもに知らせてあげましょう。特に小学校低学年は、まだそれらに免疫のない子もいるので、気を付けるとよいですね。たとえば、「名探偵コナン」。学習マンガでコナンに親しんでいる小学生が、本編(コミックス)を読んで、殺人の場面にショックを受けてしまうこともあります。 また、気をつけたいのが、子ども向けのサイトです。掲載されているマンガの中にあまり見せたくないような作品が含まれているかもしれません。
たとえば、小学校低学年の子にも人気の少女コミック誌『ちゃお』は、公式サイト『ちゃおランド』も本誌同様、おしゃれでかわいらしい雰囲気なのですが、大人でもゾクッとするような、異常性が際立つホラー作品も掲載されています。全部をチェックすることは不可能ですが、「大人でもこわいのがあったよ」と言うだけでも、子どもの心構えが違うと思います。
次にマンガを読んだ後ですが、子どもが暴力的なふるまいをし、マンガのまねだと言った場合、「現実では、暴力は決して認められない」とキッパリと伝えてください。マンガでは必然として描かれていたものが、現実で問題であるケースは決して珍しくありません。
「マンガではこう書いてあるけど、本当はこうだよ」「私はこう思うよ」と、シンプルに感想や意見を伝える形であれば、子どもが「自分を否定された」と思わずに済むでしょう。
恋愛や性についてもいえることですが、マンガの誤った描写について話すことは、精神的・身体的暴力を使わなくても、自分の意見を伝えたり良好な人間関係を育めたりするのだという理解へもつながります。
「内容がくだらない」と思っても、“有害ではない”ことを理解する
有害ではないけれど、親から見ると「もう少しためになるものを読んでほしい」と思うような作品を、子どもが好んで読むということもありますね。けれども、それは単なる好みや価値観の違い。親が好きではないからとそれを否定せずに子どもの気持ちを優先すべきではないでしょうか。そもそもマンガを読む理由は「楽しいから」でよいのです。楽しみや息抜き、また、役に立たなくても単純なおもしろさを味わったり、ただただかわいいものを見たりして、心が満たされるということもあるのです。
自由だからこそ、頭も心もやわらかで、よい刺激を受け取れることもあります。気軽に読んだマンガが、読書や学びへつながることは少なくありません。
子どもの好みの変化は速いことも多いので、しばらく見守ってみてはいかがでしょうか。
なお、マンガを読んでばかりで何かに支障が出ている場合、マンガの内容や質ではなく、読み方の問題ですので、付き合い方を考えることをおすすめします。
絶対の正解はないから…… 親子で話したい子どもの「リアル」
子どもが小学生であれば、マンガだけでなく、スマートフォンやゲームなどについても、どう利用するのか考える機会というのは、これからもたくさんあるでしょう。実際には、親子だけでなく、夫婦でも意見が食い違うこともあるかもしれません。家族でも別の人間なのですから、考え方が違うのは当たり前のこと。けれども、会話を通じてさまざまな考え方があるということを示せます。
自己肯定感・自制心・判断力・協調性などの非認知能力も育まれるでしょう。
何より、親子で話すことを続けるうちに、何か問題にぶつかっても話せるという信頼で結ばれた、お互いを尊重できる人間関係ができていくように思います。
その上で、子どもがそのマンガを読んでどう感じたかを聞きたいですね。悲惨な戦闘シーンのあるマンガでも、登場人物の思いに感動はしても、暴力そのものはフィクションの単なる「形式」として受け止めている子もいます。
同じマンガを読んでも、何をどう受け取るかは読み手次第。だからこそ親としては難しいのですが、その子の「リアル」を、ぜひ聞いてみてください。
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