転職のノウハウ

「転職」を決断するための処方箋―「若手世代」と「ベテラン世代」が転職で得るもの、失うもの(2ページ目)

自分は転職を決断できるのか、そこに自信を持てない人は意外に多い。転職で得るもの、失うもの、維持できるもの、その実態をどのように整理するか、転職を決断する人の思考法について人材コンサルタントの小松俊明が解説する。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

40代や50代の「ベテラン世代」の転職リスクとは

次にキャリアの中盤から後半に差しかかる中堅からベテラン世代にとっての、転職の持つ意味を考えてみよう。この世代には、すでに20代や30代の頃に転職経験がある人もいれば、全く初めての人もいる。若い世代と比較して、転職に求めるもの(仕事内容、やりがい、肩書、年収等)のレベルも高くなる。

転職市場に存在するベテラン層向けの求人案件数は、若い世代のものよりも圧倒的に数が少ないのが特徴だ。また求人要件も厳しいため、転職(採用)が成立する難易度も高い。転職者と採用企業の期待値が相互に高い分、どちらかが相手の期待に応えられなかったときは転職(採用)が失敗に終わってしまう。その見極めも、若手の転職よりも早いのが通常である。このような事情から、ベテラン世代の転職は失敗しやすいともいえるのだ。

ベテラン世代には、即戦力として確かな業務経験と実績が期待される。残された年数も、若い世代より少ない。責任範囲が広いため、本人のパフォーマンスが高く転職が成功したときの影響は大きいが、その逆に振れたときの傷は深くなる。

つまり、ベテラン世代の転職の場合、転職の失敗は経歴に与える傷が深く、次の転職に与える影響も若い世代よりも格段に大きいのである。転職のリスクが高いだけでなく、求人数も少ないのでやり直しのチャンスも減る。また実際、40代・50代で転職が成功している人は、若い頃から転職を始め、即戦力として実績を積み重ね、失敗を乗り越えてきた人が多い。

以上のことから、長年一つの会社に勤めあげてきた40代・50代の人がキャリアのピークを迎えた後に初めての転職をする場合は、転職リスクがかなり高いため、細心の注意と覚悟が必要である。特に、大手企業1社で長年勤めあげてきた40代・50代の転職は、その環境変化に順応することの難易度がかなり高いことから注意が必要である。
 

自分に必要なタイミングで、転職を決断するために必要な考え方

20代・30代の若手世代と40代・50代のベテラン世代の転職で、得られるもの、失うもの、そして転職リスクについて整理した。いざという時に自分にとってメリットの大きい転職を決断できるようになるためには、それぞれの世代における転職市場の競争状況や採用企業の期待値、そして自分にとっての転職に求めるもの・犠牲にしてもいいことの優先順位などを整理することが大切である。

何から何まで得られることはない。もちろんすべてを失うようなこともない。その世代の転職に必要なこと、優先度が高いことは何か、改めてよく考えてみることが大切だ。キャリアのショートカットを求め、他人よりもできるだけ高い給料を稼ぎたいという思いはわからなくもないが、目先の改善だけ見ていては中長期的な失敗を招いてしまう。

キャリアの積み重ね方、実績の積み方、そして本人の人格や存在の希少性が転職市場における市場評価のポイントである。やるべきことをやるべきタイミングで躊躇なく実施しておくことが、将来自分の市場価値を上げるということを改めてここで指摘しておきたい。理にかなわないことを見逃し、解決すべきことを無駄に先延ばしすることもやめるべきだろう。そうすれば、いつかチャンスと出会った時に迷うことはなくなる。その時が自分にとってベストで唯一のタイミングであることが納得でき、転職の判断に迷うことはないはずだ。

人生は一度きりである。転職という選択肢を排除する必要はないし、もちろん無理に転職しなくてもいい。大事なことは、自分で決断できる状況を常に作っておくことなのである。


<参考>
※1:「転職動向調査 2021年版(2020年実績)」(マイナビ)
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