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反抗期、情緒不安定な「思春期」の子育てを乗り切る心得・対処法
常識的な大人から見ると理解不可能な言動をする思春期は、脳の特殊な発達段階を通っている
毎日のように夜更かしするため、朝はゾンビのよう。それでも「今日は近所中、走り回るぐらい元気にあふれているな」と見える日もあり、そうかと思えば、翌日には一日中やる気がなくベッドの上でスマホを眺めてグダグダしていたりする――。
こうした思春期の子の反抗的な態度や理解不可能な言動の数々に「あの素直な笑顔にあふれた可愛らしいわが子は、一体どこへいってしまったのだろう」と思わずため息が出てしまうこともあるかもしれません。幼かった頃の写真を眺めて思い出に浸りたくもなるでしょう。
思春期に見られるこうした困った様子は、脳の特殊な発達段階を知り理解することで対応のヒントが見えてきます。
思春期の脳って何がどう特殊なの?
思春期の脳をMRIで調べてみると”特殊な状態にある脳”ということが分かっています。子どもの脳でも、大人の脳でもないその特殊性は、「大脳辺縁系(Limbic region)」と「前頭前野(Prefrontal region)」の発達のギャップからくるとされています。情動や意欲など自律神経活動に関わる「大脳辺縁系」は、第2次性徴が始まる10~12歳時に劇的に発達するといいます。それに対し、過去と未来を分析して理性的判断や決断をくだすといった実行機能に関わる「前頭前野」は25歳ごろに完成するといわれます。
つまり思春期は、情動面が著しく発達して豊かに研ぎ澄まされた感性にあふれ、意欲も非常に高く、それに見合う身体的エネルギーもマックスの状態。それでも、こうした状態を良い加減に制御し調整してくれるはずの理性を司る脳の機能が、あまりにも未熟であるというわけです。
そこで、常識的な大人から見ると、理解不可能な言動の数々をしてしまうことになります。
また脳の成長とは、ネットワーク回路が増えて充実することを意味しますが、思春期はそうしたネットワークが最も活発に築かれる時期といわれます。脳のネットワーク形成の鍵となる「ミエリン鞘」が活発に働き、ネットワーク回路の劇的な変化が見られるのです。
そこでそれまであまり使われなかった脳の回路は刈り込まれ、より使われた回路が深められていきます。つまり得意分野やアイデンティティーが、よりはっきりと形成される時期でもあるのです。
思春期の子の脳の特殊性は、生物学的な理にもかなっている
情動に関わる大脳辺縁系の発達は、それまで慣れ親しんだ家族の外へと飛び出していく力にもなるといわれます。生まれ育った家から少しずつ離れていくことで、血縁のより遠い配偶者を見つけ、健やかな子孫を残すという生物学的見地からも理にかなっているというわけです。
また思春期は身体的にも最も健康的な時期であり、免疫力や抵抗力、寒さや暑さに耐える力も高いといいます。そうしてこれまで守られていた家庭から、意欲満々で健やかな身体力とともに離れていくことができるというわけです。
ところが不慣れな環境へ飛び込みながらも、リスクを吟味し理性的に判断をくだすことが未熟なため、トラブルの可能性も大きくなります。
思春期の子育てで心がけたい7つのポイント
アップダウンが激しく難しい時を通るからこそユーモアでほぐしていきましょう。
1. 思春期の脳の特殊性を理解し、本人とも話し合う
思春期の脳の特殊性を理解することにより、理解不能な一挙一動に過度に反応せずにより落ち着いて対応できるようになるでしょう。本人とも脳の特殊性について話してみることをおすすめします。
例えば、「大脳辺縁系と前頭前野の発達のギャップが、ときに不安定だったり周りがびっくりするような言動を促すことがある。だからときどき立ち止まって、リスクやルールなどを省みながら、理性的な判断をくだすことにも意識を向けてみるといいね」と話すことができるでしょう。ときに立ち止まってひと呼吸おき、自らの言動を見つめることを励ましていきましょう。
2. 小さな反抗的態度を逐一とがめない
ため息や舌打ちなどに対して、状況によっては動じずやり過ごしましょう。「何、その態度!」などと逐一とがめていたら親も疲れてしまいますし、子どもも批判ばかりされているように感じて反抗的態度を長引かせることもあるでしょう。
3. 行き過ぎた言葉や態度には「私」を主語にしてメッセージを伝える
しかし同時に「行き過ぎかな」という言葉や態度は、はっきりと「それはおかしいと思う」「それは好きじゃない」と伝えることも大切です。その際、「それはいい/悪い」というような伝え方は、何か絶対的な善悪を突き付けられているように受け止められてしまうでしょう。
「私はこう思う」「私はこう感じる」と伝えた方が、親子の関係における個人的な感覚や好みの問題と感じられるため、その子の心に届きやすくなります。例えば、「『うるせえ』なんて言葉を使うのはよくない」というより、「『うるせえ』という言葉は好きじゃないからやめてほしい」と話してみましょう。
4. 親子の間に「事実」や「第三の意見」をはさむ
親が子どもに直接向き合って説教をするという形より、記事や論文などの「事実」や「第三の意見」を間にはさみ、それらについて意見を言い合うようにすると、子どもも自ら考えて納得することが多いでしょう。
例えば、アルコールやドラッグが人体に与える影響や10代の妊娠などについて、科学的な記事や社会的な調査をもとに話し合ってみましょう。「こういう状況があるんだね、どう思う? 私はこう思うよ」と尋ねてみます。人生や社会や歴史についての資料をもとに「自由や権利は、責任や義務を伴うことで初めて成り立つ」といった話し合いをしてみるのもよいでしょう。
5. 機嫌が悪いときは距離をおく
心身ともに大変化を駆け抜けている思春期には、気持ちもアンバラスになりがちです。機嫌が悪いときは少し距離をおき、一人になれるようにするのもよいでしょう。
そうして様子を見ながら、例えばさりげなく好物のフルーツなどを部屋に差し入れたりして「離れつつも、そばにいるよ」という姿勢でいると、しばらくして向こうから寄ってくることもあるでしょう。「何かおいしいもの食べようか?」と何気なく声をかけ、一緒にお茶を飲んだりおやつを食べたりするのもいいでしょう。
6. その子の興味を軸に他者と交わる環境を整える
多感で自分が誰なのかといったアイデンティティーを形成する思春期は、最も周りの影響に感化されやすい時期でもあります。家庭から外へ出て家族以外の他者と交わり、勉強、課外活動、スポーツ、趣味などその子の興味を深めて広げていくことができるようなコミュニティーを見つけていきましょう。
7. ユーモアを親子関係の潤滑油に
ユーモアはときに難しい状況を通る思春期の親子関係にとって潤滑油になります。ぶつかりそうな状況でもぷっと吹き出すことで、関係がスムーズに回っていくこともあるでしょう。さりげないジョークや遊び心を日常に散りばめていきましょう。
思春期にいったん失われてしまったかのように見える親子の絆ですが、それはそれまでともに歩いてきた積み重ねによって確実に築かれています。一人で何でもできる大人のように振る舞いながらも、ときに親の温もりに包まれて甘えたがる子どものような顔を見せることもある思春期。
そんな時期にある子が、いつでも戻りほっとできる環境を整えたいですね。思春期の溢れる情動に圧倒されつつも、未熟な理性をできる範囲で補い、我が子の劇的な変化のときをサポートしていきましょう。
【参考資料】
'The Amazing Teen Brain' May 2015 Scientific American
'Instruction for Pediatric Patients' 1999 WB Saunders Company
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