鉄道/鉄道トリビア

【JR横須賀線のトリビア10選】起点はどこ? 京急線との関係、グリーン車の始まり

横須賀線というと、東京駅の地下から、品川、横浜を経由して鎌倉や逗子へ行く電車を思い浮かべる人が多いであろう。しかし、厳密にいうと、横須賀線というのは、大船駅から鎌倉、逗子、横須賀を経由して久里浜駅までの路線なのである。

野田 隆

執筆者:野田 隆

鉄道ガイド

横須賀線というと、東京駅丸の内側の地下ホームで、総武快速線から直通して、品川、武蔵小杉、横浜を経由し、鎌倉、逗子方面に向かう電車を思い浮かべる人が多いであろう。

しかし、厳密にいうと、東京駅から横浜駅を経て大船駅までは、東海道本線の一部(別線や貨物線)であり、本当の横須賀線は、大船駅から久里浜駅まで23.9kmの路線なのだ。そこで、本稿でも大船駅から久里浜駅までの路線に関するトリビアを10個選んでみた。
 

1. 横須賀線の起点・大船駅

大船駅

横須賀線の正式な起点は大船駅

路線の起点には、ゼロキロポストが立っている。ならば、大船駅には横須賀線のゼロキロポストがあるはず。普通ならホームの中ほどの線路際に立っているものだが、大船駅の場合は、横須賀線下り列車が発車する8番線ホーム久里浜寄りの先、信号機の足元にあると聞いた。ホームから身を乗り出すのは危険なので、お隣にある京浜東北線のホームから覗いてみた。
白い標柱

ゼロキロポストと思われる白い標柱

しかし、それらしき白い標柱は確認できるものの、雑草が生い茂っていて数字の「0」は判別できなかった。
 

2. 横須賀線の車体の色は青とクリームのツートンカラー

ストライプに「スカ色」を踏襲

現在の車両もストライプに「スカ色」を踏襲している

俗称「スカ色」として、横須賀線の車体は青とクリームのツートンカラーに塗られてきた。かつて、横須賀線と東海道本線は線路を共用していたので、誤乗防止のため、東海道本線(通称「湘南電車」)の緑とオレンジと区別してこの色が使われてきた。
しなの鉄道115系

往年の「スカ色」を復刻したしなの鉄道115系

海水浴場や逗子のマリンリゾート、横須賀の港が沿線にあるので、海を表現する青と砂浜をイメージするクリーム色がシンボルカラーになったといわれている。車両がステンレスになってからは、ストライプの色として残り、最新型E235系にも受け継がれている。
湘南カラーとスカ色

逗子駅に並ぶ湘南カラーの車両(左)とスカ色の車両(右)

現在、東海道本線と横須賀線は線路が完全に分離しているので誤乗の心配はないと思われるが、湘南新宿ラインが逗子まで乗り入れている。それゆえ、東京方面へ戻るときは、スカ色の横須賀線と湘南色の湘南新宿ラインの車両の帯色の違いは誤乗に役立っているといえよう。
 

3. 横須賀線とグリーン車

最新型E235系のグリーン車車内

最新型E235系のグリーン車

今でこそ、首都圏の中距離以上の普通列車には2階建てグリーン車が連結され、グリーン車はあたりまえになっているけれど、かつて首都圏の近郊区間を走る普通列車にグリーン車(古くは1等車)が連結されているのは、東海道本線と横須賀線だけであった。それは、沿線に富裕層が多く暮らしていること、横須賀線の場合は、それに加えて横須賀と東京を往復する軍部の関係者が利用するのに配慮したためといわれている。

1980年に横須賀線と総武快速線の直通運転が始まった当初は、総武線区間においてグリーン車利用者はほとんどいないのでは、と危惧する向きもあったようだが、遠距離通勤者が増えるにともないグリーン車利用は順調に増え続けている。
 

4. 北鎌倉駅付近の第一円覚寺踏切は、境内の中にある

円覚寺の参道を横切る横須賀線

円覚寺の参道を横切る横須賀線

久里浜方面へ向かう電車が北鎌倉駅を出てまもなく、横須賀線は円覚寺への参道を横切る。これが第一円覚寺踏切と呼ばれているもので、線路が円覚寺の境内の中を走っているのだ。軍港横須賀へのアクセス鉄道として鉄道建設に関して軍の強力な要請があったため、円覚寺側は境内の通過を容認せざるを得なかったようである。

東京や横浜から北鎌倉に到着すると、踏切を渡らずに線路に沿って進めば円覚寺への入り口にあたる階段下に到着できる。よって、参拝客がこの踏切を利用することは、それほど多くないであろう。もっとも、円覚寺と縁切寺で有名な東慶寺を行き来するときは、横須賀線の踏切を渡ることとなる。
 

5. 逗子駅のはずれにある総合車両製作所横浜事業所専用鉄道

専用線を走るディーゼル機関車

専用線を走るディーゼル機関車。新造車両を牽引している

逗子駅から先の区間は利用者が激減している。それで、逗子で折り返す電車が多く、逗子と久里浜の区間運転の電車は4両というミニ編成だ。こうした横須賀線の途中にある要ともいえる逗子駅構内は広く、車両が何編成も待機している。その脇を単線非電化の線路が1本左へ曲がり、横須賀線を高架で跨ぐ京急逗子線に寄り添うようにしてトンネルの中へ消えていく。

この線路は、京急逗子線の起点・金沢八景駅に隣接した総合車両製作所横浜事業所で製造された鉄道車両を全国各地へ運ぶためのもので、ディーゼル機関車に牽引された新型車両が逗子駅に現れ、ここから全国各地へ輸送されるのだ。ちなみに、京急の線路幅は新幹線と同じ1435mmとJR在来線よりも広いので、神武寺駅と金沢八景駅間の上り線は、どちらの車両も走れるように3線軌条となっている。
 

6. ライバル京急線と交差するも駅はない

京急線との交差地点

横須賀線車内から見た京急線との交差地点

横須賀線と京急線は強力なライバル関係にある。もっとも、横浜と横須賀間においては、京急が運賃、所要時間において圧倒的に優位である。横須賀の駅も京急の横須賀中央駅が繁華街にあり利便性でも勝っている。

そんな両者は、横浜駅より先では、双方で乗り換えができるような考慮を全くと言っていいほどしていない。とくに、横須賀線の東逗子~田浦間、京急本線の京急田浦~安針塚はともに駅間が離れているにもかかわらず、山間部ということもあってか交差するだけで駅はない。

もうひとつは、横須賀線の横須賀~衣笠間と京急本線の逸見~汐入間でどちらもトンネルの中で交差していて、もちろん駅はない。2カ所とも京急線が上で、横須賀線は下となって交差している。
 

7. 田浦駅のドアカット

先頭車はトンネルの中、2両目の端のドアは閉じたままだ

先頭車はトンネルの中、2両目の端のドアは閉じたままだ

田浦駅は山間部にあり、トンネルに挟まれた場所にホームがある。ホームの長さは電車10両分にちょっとだけ足りないほどだ。一方、横須賀線の都心を直通する電車は、逗子駅で15両のうち4両を切り離しても11両編成だ。したがって、田浦駅のホームに11両編成の電車は停まることができない。
ドアの開閉についての案内

ドアの開閉についての案内

それで、上下の電車ともに先頭車と2両目の先頭車よりのドアのみ閉めたままの状態で停車し、利用者はほかのドアから乗り降りすることになる。何も知らないで先頭車から降りようとするとドアが開かず慌てることになるから要注意だ。もっとも、都心から久里浜方面へ行く電車は、昼間は1時間に1本しかなく、あとは逗子と久里浜の間を折り返す4両編成なので、こちらはすべてのドアが開閉している。
 

8. 目の前は港、市街地からは遠い横須賀駅

横須賀駅

横須賀駅の風格ある駅舎

街の中心部は京急の横須賀中央駅であり、横須賀線の横須賀駅は、港には近いものの駅前にあるのはヴェルニー公園くらいで静かなたたずまいだ。駅は関東の駅百選に認定されているが、その理由は「階段が一つもない平坦な、人にやさしい駅」というものである。
段差のない横須賀駅構内

段差のない横須賀駅構内

1番線は草ぼうぼうで痕跡を留めるのみ、2番線は行き止まりの横須賀駅が始終着となる列車用、3番線が久里浜行きと逗子や東京方面へ向かう列車用で、昼間は実質3番線のみを使用し、列車の行き違いはできない単線の駅だ。よって階段や跨線橋、地下道は不要でバリアフリー構造となっている。

風格のある駅舎は、1940年に新築された3代目で、1914年に改築された建物の面影をよくとどめている貴重なものだ。
 

9. 単線区間にある衣笠駅

衣笠駅を発車して単線区間に入る電車

衣笠駅を発車して単線区間に入る電車

都心付近では、昼間でも1時間に数本の長編成の電車が行き交う「幹線」である横須賀線も逗子を過ぎると過疎区間となり、横須賀駅と久里浜駅の間は単線区間に変わり果ててしまう。1時間あたり1往復の都心直通電車をのぞけば、4両編成の電車がのんびり走るローカル線だ。

単線区間にある衣笠駅では、上下列車の行き違いが行われ、電車が発車してしまうと人気がなくなりホームには静寂が訪れる。
 

10. 終点・久里浜駅の引き上げ線

久里浜駅

終点・久里浜駅

横須賀線の終点は久里浜駅。1面しかないホームに電車が到着し、時間になると折り返していく。ホームの脇には線路が何本も並んではいるが、一番奥に訓練センター用の車両が停まっているのみだ。
引き上げ線

久里浜駅の先まで延びる引き上げ線

しかし、終着駅にもかかわらず、単線の線路が駅からさらに南へ向かって延びている。京急久里浜駅前を通る道を進むと、交差する県道を横切る八幡第一踏切がある。警報機と遮断機がある立派な踏切だ。その南には警報器も遮断機もない八幡第二踏切があり、踏切のすぐ先に車止めがあり、そこで線路は途切れている。さらに線路用地は続き、草ぼうぼうで架線のみ張られているものの、100mも行かないあたりで行き止まりとなり、ゴミ捨て場が行く手をふさいでいる。
横須賀線の正真正銘の終点

ここが横須賀線の正真正銘の終点だ

久里浜駅ホーム脇の留置線に電車を停めるには、この引き上げ線を進み、バックして入るしか方法がないので、早朝深夜に使われている。八幡第一踏切は交通量も多いので、昼間に電車が走ることはない模様だ。何とも不思議な横須賀線の線路の終点である。
 
鎌倉あたりを走っている横須賀線とは別の一面が多々あり、知る人ぞ知るトリビアは誠に興味深い。

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