予防接種・ワクチン

がん・不妊症リスク、遺伝子変異は?将来的なワクチン副反応の考え方

【医師が解説】新型コロナウイルスワクチンの長期的な副反応や人体への影響が心配で、接種すべきか悩んでいる方へ。「卵巣にワクチンの成分が蓄積して不妊症になる」「精子が減る」「遺伝子が書き換わる」といったリスクは実際にあるのでしょうか? 現状の調査報告からワクチンの安全性・危険性についてわかっていること、中長期的なリスクの考え方について解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

新型コロナワクチン接種前の不安……将来的な人体への影響は大丈夫?

新型コロナワクチンを接種する女性のイメージ

「将来不妊症になることはない?」 ワクチンへの不安感と未接種のリスクは、どう考えるべきでしょうか

2020年から開発が始まり、すでに世界的に接種が進む新型コロナウイルスのワクチン。ワクチン接種後、実際に年月を経たデータはまだ存在しませんので、ワクチンに中長期的な影響がないかを心配している方もいるようです。よくある「不活化ワクチン」「生ワクチン」に比べて聞きなれない「mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)」である点も、漠然とした不安感につながっているのかもしれません。

しかしmRNAは、これまでがん治療などでも使われており、決して新しく奇抜なものではありません。mRNAワクチンである新型コロナワクチンの中長期的な副反応やリスクについてどう考えるべきか、解説します。
 

ワクチンの副作用・副反応……中長期的なものではなく短期的がほとんど

そもそもワクチンの副作用が中長期的な時間を経て起こることはあるのでしょうか? ワクチンの長い歴史から見てみましょう。

ワクチンの副反応の恐れがある期間は、意外と長くありません。種類により少し異なりますが、今まで日本で承認されているワクチンのほとんどは「接種後28日まで」は副反応が出ないか観察が必要とされています。BCGのみ長く「最長2年」観察期間を行います。逆に言うと、その期間以降に注意して観察すべき副反応が起こった例はないということです。現在、新型コロナワクチンは約1カ月までの副反応報告がされています。
 

mRNAワクチンで中長期的に遺伝子が書き換えられる心配は?

mRNAワクチンの説明をするときに「遺伝子」という言葉が出てくるためか、遺伝子を打たれたら自分の遺伝子が書き換えられてしまうのではないかという説をネット上で見かけることがありますが、これは完全に誤りです。

そもそもmRNAは、核の中に入りません。人の細胞内でRNAからDNAに変わることはありませんし、もちろんヒトの遺伝子DNAに組み込まれることもありません。mRNAは細胞に取り込まれてから20秒から20分で分解されます。そして作られたタンパク質も10日以内には分解されてしまいます。体内に蓄積したり、長期的に残ることはできないのです。

「細胞と長く共存するウイルス」としてはヘルペスウイルスが挙げられますが、これはDNAウイルスです。どのような事柄でも、「絶対確実に可能性はゼロである」と断言することは科学的に難しいのですが、RNAウイルス感染が長期的に遺伝子を変化させるといった可能性は皆無に等しいといえます。まして、mRNAワクチンは「ウイルスの一部のみ」です。ウイルスそのものでも遺伝子を変化させる可能性がほぼ皆無なのであれば、ウイルスの一部のみではその可能性を心配する必要がないことがお分かりいただけるかと思います。
 

「精子が死ぬ」「卵巣に溜まる」? ワクチンで不妊症になる可能性は?

特にこれから妊娠・出産を考えている若年層にとっては、ワクチンによる不妊リスクは気になることだと思います。 「ワクチンの成分で精子が死ぬ」「卵巣や子宮にワクチンの遺伝子情報が蓄積される」といった誤情報も見られます。

まず、精子や卵子がワクチンの影響を受けるかという点ですが、前述の通り、新型コロナワクチンに含まれるウイルスのmRNAは核の中に入れません。仮にヒトの精子や卵子の細胞に入ったとしてもDNAになることはできません。精子や卵子に入って遺伝子の書き換えは起こることももちろんありません。

新型コロナウイルス感染症にかかってしまった場合、精子数が減少することが報告されていますが、アメリカの調査によると新型コロナワクチンの接種によっても精子数は減少しなかったことがすでに報告されています。

また、アメリカでは2021年2月時点ですでに約3万5000人の女性が妊娠中にワクチンを接種しています。妊娠中にワクチン接種をした集団と、ワクチンを接種しなかった集団とを比較したところ、流産や早産、先天奇形の発生率に差はなかったことが報告されています。あわせて、妊娠中・授乳中にワクチンを接種した場合、新型コロナウイルスの「抗体」が胎盤の血液や母乳を介して胎児・乳児に移行されたという報告もあります。

これらの報告も踏まえ、生殖能力へのワクチンの影響を考えてみるのがよいのではないかと思います。 
 

将来がんや不妊症になった場合、ワクチンと因果関係なしと言い切れるか

では、今回新型コロナウイルスワクチンを接種した人が、将来がんや不妊症になった場合、ワクチンとの因果関係はどう考えればよいでしょうか。「過去に新型コロナウイルスワクチンを接種したから、がんになってしまったのではないか」と考える方もいるかもしれません。

これは非常に因果関係の証明が難しい問題です。多くの病気は単一の原因だけに依らずに自然発生するからです。現在2人に1人ががんになるといわれる時代ですが、ワクチン接種から数年後、数十年後にがんを発症しても、ワクチンとの因果関係が「ある」と証明することはもちろん、「ない」と証明することも、現実的には難しいでしょう。不妊症は現在でも原因がはっきりしないことも多く、妊娠中の流産などのトラブルも母体に何ら持病や事故などの問題がなくても一定の割合で自然に起こります。

ワクチンの安全性として報告されているデータを全て使っても、現在でも自然発生数の多い疾病の将来的な因果関係をはっきりさせることは困難です。100%安心できる証拠を示すことが不可能ですので、何となく不安だからワクチンは打たずに様子を見るという方もいるのでしょう。

「確実性」が不確かで判断に悩む場合、現状で明らかなリスクを天秤にかけて、冷静に検討することが大切です。

例えば、病気を予防できずにウイルス感染症にかかった場合、病原体ウイルスが持続的に感染するケースがあります。例えば「遅発性ウイルス感染症」は、通常のウイルス感染症の感染とは異なり、ウイルス罹患後、数年の長い潜伏期間をもって発症し、特定の臓器に限定して亜急性の進行性の経過をとる特異な感染症です。麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎と、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)がこれに当たります。以前はこの亜急性硬化性全脳炎がワクチンが原因で起こるのではないかと言われたことがありましたが、野生株とワクチン株の遺伝子比較や疫学調査によって、ワクチンによって亜急性硬化性全脳炎が起こったことはなく、むしろワクチンの普及によって減少したことが分かりました。

新型コロナウイルス感染症の場合も、感染直後の症状だけではなく、長期にわたる様々な後遺症が報告されています。精子数が減少などもその一つです。すでに多くの報告があるウイルス感染後の後遺症と天秤にかけて、リスクとメリットを考えてみるのがよいかもしれません。
 

ワクチンを接種すべきか迷っている方へ

医学的にも誠実にお話しする以上、実際のデータがない現段階で「長期的な副反応が将来も100%絶対にない」と言いきることはできません。

しかし、新型コロナウイルス感染症が終息しない今、ワクチン接種率は今後の状況を左右することは明らかです。

ワクチン接種が進まなければ、感染流行はこのまま長期化し、変異株も生まれ続けるでしょう。現在は90%以上という高い有効率のワクチンが効きにくい変異株が広がれば、さらに終息は遠のき、長期的に新型コロナウイルス感染症と共存していくことになるでしょう。

ワクチンがウイルスに高い効果があるうちに接種率を上げれば、全体の感染者を減らし、今後の厄介な変異株の発生を抑えられる可能性が上がります。天然痘ワクチンも副反応の報告が多かったようですが、もしワクチン接種を進めなければ、天然痘の脅威は現在もあったでしょう。SARSや天然痘、ポリオのように、地球上からほぼなくすことに成功した感染症もあるのです。

感染しても軽症な世代でも、人に感染させるリスクはあり、感染が繰り返されることでさらに対策しにくい変異株が生まれていけば、いずれ軽症では済まなくなるリスクもあるのです。この悪循環を止める方法が、今目指している集団免疫です。今回の情報が、副反応のリスク、ワクチンのメリットとデメリットについて、それぞれの方が判断する一助となれば幸いです。
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