予防接種・ワクチン

子の予防接種拒否で親権喪失?ワクチンの重要性

乳児への予防接種を拒否したことなどを理由に、親権喪失の申し立てが認められるケースが報告されました。今回の背景にはネグレクトなどの事情があるようですが、司法が判断した予防接種の重要性についても、今一度考えてみる必要があります。親としてワクチンを受けさせることの重要性と、副作用などのデメリットについて解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

子どもの予防接種拒否で「親権喪失」?

予防接種を受ける子供

子どもの予防接種を拒否したために親権喪失?その背景と、司法が判断した予防接種の重要性を考えてみましょう

共同通信社の報道によると、乳児への予防接種を拒否したことなどを理由に、九州地方の家庭裁判所が3月、児童相談所による母親の「親権喪失」申し立てを認めていたことがわかりました。

未成年者への予防接種には、親権者の同意が必要です。予防接種の問診票の「同意する」に親権者が○をつけないと、医師はワクチン接種をすることができません。

今回のケースではネグレクトされていた乳児を児童相談所が保護し、里親委託のために必要な予防接種を行おうとしたところ、母親が予防接種に同意しなかったために、家庭裁判所が親権喪失を認めることになったようです。

「親権喪失」とは、民法に定められているもので、虐待などの子どもの利益を害する行為について、2年以内に改善が見込めない場合、親権が無くなる状態が無期限に認められることを指します。今回のケースでは長期にわたってネグレクトが改善されず深刻な状態だと判断されたのだと推定されます。「予防接種で~」と報じられたためセンセーショナルな司法の判断のようにも思われたかもしれませんが、もちろん予防接種を拒否したことだけでを利用に親権が喪失してしまったわけではありません。ただ、今回の判断によって、子どもに予防接種を受けさせることは重要であると司法が判断したことも無視してはいけないことだと思います。

受ける・受けないは自由?義務? 予防接種の必要性とは

予防接種は、病気にならないための手段の1つです。したがって、病気になってから予防接種を受けても予防の意味はありません。現代でも治療の方法のない病気は数多く存在し、子供の場合は重症化するものも少なくありません。

特に感染症は、自分だけでなく、周りの人も病気のリスクにさらしてしまうことになります。いつ感染するかわからず、かかると重症化することがあり、後遺症が残ったり死亡するリスクがあるもや、非常に感染力が強いものは、適切な予防を行うことが大切です。

もちろん、どんなにワクチンで防ぎたくてもワクチンがない病気もあります。その意味ではワクチンによって防ぐことができることは、非常にありがたいことでもあります。記憶に新しいエボラ熱も、もしワクチンがあれば、世界的な流行や死亡者数はずっと減らせたはずです。

予防接種のデメリット・受けない選択をする人がいるのはなぜか

とはいえ、今回の虐待のケースだけでなく、子どもに予防接種を受けさせるかどうかで悩む親御さんが多いのも事実です。一番気になされているのはワクチンによる副反応でしょう。

予防接種には病気予防のメリットもある一方、ごく稀ですが、後遺症や死亡などの重篤な副作用が発生するケースがあります。数としては非常に少ないとはいえ、ある程度の確率でこれらの副作用が起こりうるのもまた事実です。ただ、予防接種との因果関係を明らかにするのが難しいことも問題として挙げられています。

とはいえ、皆が受けるべきとされている予防接種においては、社会的に見ても病気にかかるリスクの恐ろしさよりも、予防接種をうつことのリスクの方がずっと小さいことが明らかだと判断されているものです。万が一のときの副作用の確率と、受けることによって避けられる病気の後遺症や死亡リスクの大きさを、冷静に比べて判断することが大切です。また、感染症拡大を防ぐことは社会的な責任でもあるので、上に述べた予防接種による副作用による障害が起きた場合は、しっかりと国による補償がされるべきでしょう。

感染症にかかるかどうかは運? 病気を避けられることのメリット

中には、「予防接種を受けるより、病気にかかった方が安上がり」という考えをする方もいるようです。かかっても運よく何の後遺症もなく治ったのなら、そう言えるかもしれません。しかし、感染症にかかって後遺症が残ったり死亡に至ってしまった場合でも、そこは運に任せた方が良いと言えるでしょうか? さらに、自分が感染症の発端者となり、自分が感染させてしまった身近な人が後遺症や死亡してしまうリスクまで負ってしまうかもしれないのです。それでもかかった方が良いと言えるでしょうか?

予防接種には、個人の健康と社会の健康を守る役割があります。

ワクチンによって起こる病状は、かかった時の病状よりは非常に軽く、死亡率も後遺症率も少なく、病気を予防する効果が副作用を上回っているので、医薬品として承認されているのです。子どもが健やかに育つためには、予防接種は必要になります。

現代では予防接種が一般的な「麻疹」ひとつを例に見ても、史実としても多くの死亡例が確認できます。例えば1824年にはハワイ王国のカメハメハ大王の子どもであるカメハメハ2世とカママル王妃が英国旅行時に麻疹にかかっており、2人とも英国で亡くなっています。徳川綱吉も麻疹にかかり、1週間で亡くなりました。日本でも2007年に、ワクチンを接種していない人と1回しか接種していない10~20歳代の人を中心に、麻疹が全国的に流行しました。以降、2回接種を徹底させたことで、2015年3月27日に、WHO西太平洋事務局(WPRO)は「過去3年間にわたって日本国内には土着の麻疹ウイルスは存在していない」として日本が「麻疹の排除状態にある」ことを認定しました。

麻疹ワクチンがなければ、この状態になることはなかったと考えられます。しかし、天然痘のように麻疹は地球から撲滅されたわけでないので、予防接種は続けていく必要があります。

天然痘は、予防接種によってこの地球上から無くなった感染症です。もし、予防接種という方法がなければ、今でも天然痘で亡くなる人は後を絶たなかったでしょう。

繰り返しになりますが、感染症対策は社会全体で行う必要があるのです。今回の報道もきっかけに、予防接種を受けることの重要性について、さらに多くの人が考えていただければと思います。
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