漢字の「とめ・はね・はらい」はどこまで正確に書く必要があるのでしょうか。はじめに押さえておきたいのは、漢字の“正解の考え方”には2つの基準があるということ。一般的な漢字使用の目安である「常用漢字表」と、学校教育に使われる「学習指導要領」です。

この2つは正解の幅が異なっていて、漢字の正誤について悩む原因となっています。両者を比較しながら、漢字の正確さとは何か、採点の結果に悩んでしまったときの対応、家庭での丸つけなどについて考えていきましょう。国語教員・図書館司書を経て、現在は作文を始めとするライティングや情報リテラシー教育のアドバイザーとして活動する高橋真生が解説していきます。
 

常用漢字表では「とめ・はね・はらい」は正誤の基準にならない

文化庁による「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」では、漢字の正誤の基準について下記のように明言されています(※1)。

骨組みが過不足なく読み取れ、その文字であると判別できれば、誤りとはしません」

これは、「とめ・はね・はらい」は正誤の判断に含まれない、ということを意味しています。

例えばこちらは、指針で紹介されているさまざまな例のうちの一つ。第2章4-5の、はねるか、とめるかに関する書き表し方についての例です。
常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

「縦画の終筆をはねて書くことも、とめて書くこともある」の例(文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」)

どちらも「字体の判別の上で問題にならない」、すなわち誤りではないとされています。

また、「字体・字形に関するQ&A」のQ72では、「てへん」について取り上げ、はねる方が自然であり、はねる書き方が慣用として定着していることに触れながらも、「とめる書き方をしても誤りであるとまでは言えません」としています。

つまり、常用漢字表では、“文字の識別性”が重視されているのです。
 

漢字の「正しさ」と「美しさ」は視点が異なる

この考え方に違和感があったり、「子どものときに正しい漢字をしっかり教えておきたい」「きれいな文字が書けなくなる」と心配したりする人もいるでしょう。この点については、別の要素である「正しさ」と「きれいさ」をわけて考えるとスッキリします。

まず「正しさ」についてですが、そもそも漢字は伝統的に、同じ文字に複数の形があり、「とめ・はね・はらい」などの細部には“違い”があることが認められてきました。

公式なテストや書類記入で求められる楷書にも、実は、様々なバリエーションがあります。指針で紹介されているのは、虞世南の「孔子廟堂碑(こうしびょうどうのひ)」と欧陽詢の「九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんのめい)」ですが、とめやはねの形には異なる部分があります。けれど、いずれも楷書の傑作と呼ばれ、現在でも楷書のお手本とされています。

もちろん、字体(文字の骨組み)が誤りであれば、正しいとは言えません。「右」と「石」、「士」と「土」など少し違うだけで異なる漢字になってしまうものは、正確に書き分ける必要があります。「三」と「ミ」を書き分けたり、「校」が「木」「交」、「分」が「八」「刀」に見えないようにバランスを意識したりすることも大切です。

ただ、ポイントはあくまでも字体(骨組み)なのです。「とめ・はね・はらい」が再現できていないからといって、誤りとは言えませんし、教科書通りに「とめ・はね・はらい」を再現していても、「未」を「末」と書いてしまっては、字体が違うのですから、誤りです。
 
「とめ・はね・はらい」は筆文字の要素のため、毛筆を習ってからの方が理解しやすい

「とめ・はね・はらい」は筆文字の要素のため、毛筆を習ってからの方が理解しやすい

次に「美しさ」ですが、文字には様々な美しさがあることをご存じでしょうか。

先ほどの「孔子廟堂碑」や「九成宮醴泉銘」以外にも、力強いもの、優美なもの、伸びやかなものなど様々な楷書があります。小学生の漢字学習のお手本とするのは難しいでしょうが、自分の個性や好みに合う字があると知るのは楽しく、さらに書くことや文字文化への興味も育まれるでしょう。書道字典で自分の名前の文字を調べるのもおすすめです。

一方で、「とめ・はね・はらい」を意識していても、美しいとは言い難い文字もありますね。

また、このような漢字の正しさや美しさとは別に、「丁寧に読みやすく書く」という観点もあります。これは、自分のためのメモではなく、他者に見てもらうことを前提としているテストやプリントなどでは、とても大切なことです。

バランスが多少悪くても、ていねいに書いていれば、読みやすさには影響はないはずです。逆に、可読性が低く、一文字ずつ解読が必要なものは、字体が曖昧という理由で誤りとされる可能性は否定できません。
 

「とめ・はね・はらい」が評価の対象となる小学校の漢字指導

漢字指導の基本的な考え方である「小学校学習指導要領」(平成29年、文部科学省)の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」には、「2(1)エ(エ)漢字の指導においては、学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること」と書かれています(※2)。

この「学年別漢字配当表」を元に各出版社が作った、小学校の教科書(主に国語)の本文の活字に使用されている書体が「教科書体」です(中学校からは、読みやすさに配慮した明朝体が多く使われます)。学校で教わり、現在「正解」とされるのは、この教科書体に即した書き方です。

また、「小学校学習指導要領解説 国語編」(平成29年、文部科学省)では、指針について触れながら、児童の文字を評価する場合は

「正しい字体であることを前提とした上で、柔軟に評価することが望ましい」

としていますが、一方で

「指導の場面や状況に応じて一定の字形を元に学習や評価が行われる場合もある」

とも述べています(※3)。

また、指針のQ&Aでは、教科書とは違うけれど「字体についての解説」で認められる字は正答とするかという問い(Q26)に次のように答えています。

「『児童生徒が書いた漢字の評価については、指導した字形以外の字形であっても、指導の場面や状況を踏まえつつ、柔軟に評価すること』とされています」

教科書体は「標準」であり、これ以外を誤りとするものではない、というように読めますが、この回答はさらに続きます。

「特に、小学校段階では、日常生活や学習活動に生かすことのできる書写の能力を育成するため、文字を一点一画、丁寧に書く指導なども行われており、指導の場面や状況に応じて、指導した字形に沿った評価が行われる場合もあることを十分に踏まえる必要があります」

ややこしいのですが、つまり、小学校での漢字指導では、「とめ・はね・はらい」が評価の対象とされることがある、ということですね。
 

小学校の漢字指導における「標準」の難しさ

小学校の授業の場合、子どもたちの混乱を避けるためにも、一つの標準を定めて「教える」ことは必要ですし、有効でしょう。子どもたちに正しく美しい文字を書けるようになってほしいという愛情や使命感で指導している先生も多いと思います。

ただ、前述のように、それは正誤の基準ではありませんから、「とめ・はね・はらい」が違っていても誤りとは言えないはずです。

テストは習ったことをどれだけ理解するかを確かめるものではありますが、問題文に「教科書体で書きましょう」「習った通りに書きましょう」と記していない限り、その単元やテストのねらいと外れていても、誤りとするのには違和感があります(書き取りの練習でお手本を見ながら書く場合や、書写はのぞきます)。

また、教科書体は、手書きの楷書の慣例を元に作られてはいますが、手書きの文字と完全には一致しません。
手書きの楷書と教科書体の例(常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告))

手書きの楷書と教科書体の例(「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」・文化庁)

今や子どもが目にする文字は、教科書体だけでないことは明らかです。インターネットはもちろん、教科書でもさまざまな書体(フォント)に触れています。けれど、文字を見るたびに「これがお手本にしていい文字か」というのは考えませんね。

ですから、手書きの文字と印刷(表示)された文字には違いがあると知ることは大切です。そう考えると、印刷された文字である教科書体は、あくまで「標準」であることもわかるでしょう。
漢字学習のゴールは、読める・書ける・使えること

漢字学習のゴールは、読める・書ける・使えること

漢字は、読めて書けるだけでなく、「使える」ようにしたいものです。苦労して漢字を書けるようになっても、習った単語でしか使えないのでは意味がありません。重要なのは、その漢字を用いて考えたり表現したりすることです。

「書く」ことにこだわりすぎて、漢字を嫌いにしてしまうのではなく、表意文字のおもしろさをしっかりと伝えつつ、漢字を生活の中でしっかりと活かせるよう、サポートしていきたいですね。
 

先生の採点基準が厳しいと感じたときは?

同じ学校でも先生によって採点に差が出ることはあります。「とめ・はね・はらい」を重視する先生がいれば、正解とする幅が広い先生もいます。

基本的には、採点基準が厳しくても、ストレスなく先生に合わせられる子ならそのままでも問題ないでしょう。細やかな指導により文字は整いますし、丁寧に書く習慣ができる子もいます。

ただ、それが難しい場合や指導が行き過ぎだと感じる場合は、「自信をなくしている」「なかなか〇がもらえず苦手意識が強くなっているので、どのようにしたらいいか教えてほしい」など、お子さんの様子を元に話をしてみてはいかがでしょうか。

指針などを根拠にして採点基準を問いただしてしまうと、先生との関係が悪くなってしまうこともあります。
 

「とめ・はね・はらい」を身につけさせたい場合は?

担任の先生が変わり採点基準が厳しくなった、中学入試を控えている、親の方針で「とめ・はね・はらい」を意識した文字を書かせたい、など教科書体を身につけさせたいというケースもあるでしょう。

その場合、「教科書の文字と同じ書き方をするといいという考え方もあるんだよ」「中学入試の基準に合わせよう」など、教科書体に沿った文字を書かせたい理由をお子さんに説明しましょう。はじめは不満を持つかもしれませんが、それを続けることでバツがついたり減点されたりすることが続けば、子どももだんだんと状況を理解していきます。

ポイントは、先生の採点を否定しないこと。子どもの学校への不信感にもつながりませんし、混乱もしづらいと思います。

また、タブレットなどデジタル教材での学習が合っている子もいますから、試してみてもよいかもしれません。

ただ、「とめ・はね・はらい」は筆文字の要素ですから、毛筆を習ってからの方が理解しやすいでしょう。一生懸命になるあまりに、教科書体の太さの変化まで鉛筆で表現しようとして、ひどく苦労してしまう子もいますから、特に低学年のうちは、注意が必要です。
 

家庭での丸付けはどうすればいい?

家庭での漢字の丸付けのコツは、頑張りを認めること!

一点一画丁寧に書くのは、大人でも難しいことです。お子さんが、読みやすい字やていねいな字で書いていたら、ぜひほめてください。

テストなどを見て、先生の採点基準とそろえると子どもにはわかりやすいのですが、基本的には、文字の形を正しく理解しているのがわかれば○として問題ありません。

大人としては、自分が〇と判断したものを学校で×にされてしまうと複雑な気持ちになるかもしれませんが、細部は先生にお任せしてかまいません。

特に、読みやすい字やていねいな字で書いてあったら、ぜひほめてください。常に一点一画丁寧に書くのは、大人でも難しいことです。お子さんのがんばりをしっかり認めてあげましょう。
 

入試や検定試験の「とめ・はね・はらい」の基準は?

指針では、不特定多数の人を対象とした入学試験や採用試験・検定試験については、字形の違いを正誤の判断基準にしないという考え方に基づいた評価を求めています。教科書体は出版社によって微妙に異なりますから、これは自然なことでしょう。また、採点者ごとに採点基準が異なる曖昧さを回避することもできます。

漢字検定でも、字体(骨組み)が読み取れれば、漢字の細部の書き方によって不正解になることはありません。学習で迷ったときのお手本としては、教科書体をすすめています(※4)。

ただし今のところ、中学入試では、漢字の「とめ・はね・はらい」の基準は、学校によって異なるようです。「常用漢字表に則る」という学校もありますし、「とめ・はね・はらい」をきちんとチェックするとホームページで公表している学校もあります。採点基準は非公表の学校もありますが、気になる場合は問い合わせをしてみてもよいでしょう。

基準が今後どう変わっていくかはわかりませんが、どのように採点されてもよいように、今のところ、教科書に近い形で書くこと、字体がわかるようていねいに書くことは大切です。
  ※引用した文章中の「,」は「、」としています。

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