60代から準備する? 自分が認知症になったときのこと
認知症の親のお世話をしている人の話を聞くと不要な日用品を買ったり、食べきれないほどたくさんの食料品を買い込んだりと、気の休まる暇もないと聞くことがあります。介護にもお金がかかります。食事の宅配サービスや介護用品のレンタルサービスを利用する、もしくは自宅をバリアフリーにする、介護施設へ入所するということがありますが、本人の希望で介護施設へ入所する時にも、認知症になる前の事前の準備が必要なのです。認知症になるとお金まわりのことは今までのように、できなくなります
たとえば、認知症を患った人の銀行口座は凍結されてしまい、預金を引き出すことができません。不動産などさまざまな契約手続きもできなくなってしまいます。
60代になると認知症は他人ごとではなく自分ごととなります。今回は、自分が認知症になるとできなくなること、認知症になる前に事前に準備しておくことについて解説します。
認知症って何?
認知機能に障害が起き、日常生活・社会生活が困難になる総称のことです。認知症の症状には、「もの忘れ」といった記憶障害や、認知症の周辺症状と呼ばれる「徘徊(はいかい)」などがあります。認知症を患い、意思能力や判断能力が衰えてくると、本人はもちろんのこと、家族が代行して契約をすることもできません。具体的には次のようなことができなくなります。どれも、老後に必要なことばかりではないでしょうか。
【1】不動産の売却……空き家になる前に自宅を売却するときに困る
【2】不動産賃貸……住まなくなった自宅を賃貸したいときに困る
【3】介護施設の入所契約……介護施設へ入所するときに困る
【4】預金の引き出しや解約……まわりの人が認知症を患った本人に変わって解約して介護費用にあてたいときに困る
【5】遺言書の作成など……終活のひとつとして自分の想いを伝えるときに困る
介護で必要なお金を、本人が自分の口座から引き出すことができない、本人が希望する介護施設に入所することもできなくなってしまうのです。お金まわりの重要なことが、ほぼできなくなってしまうと考えていいでしょう。
認知症になる前に、準備することで、必要な介護を受けることができる
自分が認知症になる前に、準備をしておくことが大事です。自分の意思がはっきりしているうちに、自分が希望すること、今後認知症になったらしてほしいことを、身近な人、家族に伝えておくことです。エンディングノートを使って伝えることもできますね。もし認知症になったとき、自分に変わって手続きしてもらう事前の準備には次の2つの方法があります。任意後見契約と民事信託(家族信託)です。
任意後見契約とは
自分の判断能力がはっきりしているうちに、「認知症になったら具体的にしてほしいこと」を、あらかじめ自分が信頼できる人に頼む契約をすることです。将来も自分が希望するライフスタイルを維持することができます。
民事信託(家族信託)とは
資産を持っている人(本人)が、信頼できる人(家族や身近な人)に自分の資産管理・活用を委託して、その資産から得られた収益を受け取る人(例えば子どもや孫)に残すことができるしくみです。自分が持っている資産を子どもや孫に受け渡すことができます。民事信託は、認知症になる前でも委託することができます。「任意後見制度」では資産を増やすという運用ができませんが、「民事信託」は、本人の希望であれば資産を運用することもできます。任意後見と民事信託。どのように選択したらいいの?
任意後見と民事信託には次のような大きな違いがあります。自分が望むライフプランを目的とする場合は「任意後見契約」を、自分の資産を有効活用してその収益を後世に残すことを目的とする場合は「民事信託契約」ということがポイントになるでしょう。任意後見契約……財産管理だけでなく、施設への入所手続き等の代理手続きを依頼でき、自分が希望するライフスタイルを維持することができます。代理目録、つまり認知症になったらやってほしいことは具体的に記載しましょう。任意後見契約には、報酬等のランニングコストがかかります。
民事信託契約……自分の資産を有効活用して、相続対策や自分以外の人に収益を受け渡すことができます。契約するときに費用を決めてしまえば、それ以外の費用は発生しません。
私たち誰しもが認知症を患う可能性はあります。長寿社会になり認知症を患う人も年々増加しています。認知症になる前の事前の準備はますます必要になることでしょう。
できることなら誰しも認知症にならないにこしたことはありません。高齢になる前、若いうちから認知症にならないためのトレーニングもあるようです。認知症を予防できる可能性があるのであればぜひ試みてはいかがでしょうか。
監修・文/深川弘恵(ファイナンシャルプランナー)
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