2021年度教科書改訂により、小・中学校の英語学習ギャップが深刻に
2021年度から中学校の学習指導要領が変わり、教科書も新しくなります。中でも、英語は単語数が2倍、英文も2倍、高校英語から文法事項も前倒しとなり、他の教科と比べて激変します。新しい中学英語は、小学生のうちに基礎的な英語力が身に付いていることが前提で授業が進められる、いわば「ロケットスタート」となります。今後と比較すれば、これまでは「スロースタート」だったということですが、それでも中学1年生の2学期には英語に苦手意識をもつ子が7割近くにのぼるというデータもありました。
今回の改定により、中学1年生の1学期の時点ですでに英語嫌いの子が増えることが懸念されます。中学英語の変更点を整理した上で、つまずかないための対策を考えてみました。
変更点1:英単語数が1200語から2500語と約2倍に!
これまでの学習指導要領で目標とする英単語数は、中学校で1200語、高校で1800語、高校卒業時で計3000語でした。新しい学習指導要領では、小学校で600語~700語、中学校で1600語~1800語、高校で1800語~2500語、高校卒業時で計4000語~5000語と、最大で2000語も増えることになります。中学校で習う英単語数は約1.5倍ですが、厳密にいえば小学校で習う600語~700語を加えると、中学卒業までに2200語~2500語を学ぶ計算になります。中には「elephant(ゾウ)」や「cartoonist(漫画家)」など日常的に使う単語も含まれますが、中学3年生で「establish(設立する)」や「curious(好奇心の強い)」を習うなど(「ニューホライズン」東京書籍)、これまで高校で扱われていたレベルのうち数十~数百語を中学校で学ぶことにもなるのです。
さらに、中学1年生の英語の教科書では、数字や月・曜日などを体系的に学ぶページがなくなっています(「ニューホライズン」東京書籍)。これは小学校でこれらの読み書きができることが前提で中学英語の授業が進められることを意味するということでしょう。気になったので2020年度から使用されている小学5・6年生の英語の教科書(「ニューホライズンエレメンタリー」東京書籍)を調べてみたところ、「When’s your birthday?」という文を扱うページで月と日付が取り上げられていますが、「January(1月)」から「December(12月)」までの一覧が載っているというわけではありませんでした。
新しい小学英語の指針によると、5・6年生の英語では「段階的に読む・書くことを加える」とされています。「段階的に」というのは、3・4年生は英語が週1コマしかなく、聞く・話すが中心の授業のため、原則、読み書きを教えないことになっているからです。しかし教科となった5・6年生でも授業数は2年間で「70×2=140コマ」しかありません。140コマで600語~700語を学ぶことを計算すると、段階的に取り入れるとしても正直大変しんどいのではないかと思います。
ちなみに筆者の塾の生徒に英語で月や曜日が書けるかどうか聞いてみたところ、ほとんどの子が話すことはできても書くことはできませんでした。中には書くことまで教えてもらった子もいましたが、どうやら学校によってまちまちのようです。
変更点2:中学校教科書の英文は一気に倍増!
単語数の増加にともなって、教科書の英文の量も大幅に増えました。英文の単語数を新旧の教科で比べてみたところ、次の通りになりました。【2020年度まで(中1*)】
- Unit1 Part1(be動詞)……14語
- Unit2 Part1(be動詞)……18語
- Unit3 Part1(一般動詞)……30語
- Unit11 Part1(一般動詞の過去形)……58語
【2021年度から(中1*)】
- Unit1 Part1(be動詞、一般動詞)……26語
- Unit2 Part1(be動詞、一般動詞)……61語
- Unit3 Part1(疑問詞)……54語
- Unit11 Story1(過去形、過去進行形)……79語
Unitの構成が異なるため単純に比較できませんが、1ページあたりの単語数が倍増していることがわかります。しかも、これはあくまでも1年生のこと、3年生になると100語を超える長文も出現してきます。
これだけの英文を読むとなると、音読や速読などそれなりの練習をしていないと授業についていけない子が続出するのではないかと思います。
変更点3:文法事項が前倒しされ、中学3年生で高校英語の一部を
変更点は単語や英文の量だけではありません。高校英語で扱う文法事項のいくつかも前倒しされ、これまで中学3年間+高校1年生の一部で学んだ内容を、中学の3年間で学習することになるのです。「ニューホライズン」(東京書籍)の場合、これまでは中学1年生でbe動詞、一般動詞、三人称単数現在形、(代)名詞、現在進行形、疑問詞、一般動詞の過去形を学ぶことになっていました。
しかし2021年度から使う新しい教科書では、be動詞と一般動詞が一つの単元に集約され、その後、名詞、疑問詞、三人称単数現在形、代名詞、現在進行形、過去形、過去進行形と学びます。
最初の単元から一般動詞とbe動詞が混在する英文を学ぶだけでも、かなりの困難が予想されます。 中学生が苦手とする単元のひとつである過去形(時制)については、これまで2年生で学んでいたbe動詞の過去形と過去進行形が1年生に前倒しされています。また、これまで高校で扱っていた現在完了進行形や原形不定詞、仮定法が中学3年生に前倒しもされています。
「フォニックス」のマスターと「速読」「対訳音読」で対策を
英語を使ったゲームや歌など活動型授業が中心の小学英語、そして読み書きの文法を重視する中学英語との学習ギャップは、これまでも問題視されてきました。今回の教科書改訂により中学英語がさらに難しくなったため、事態が深刻化してしまわぬよう十分な対策が必要です。まずは何といっても読み書きです。小学生のうちから、アルファベット、ローマ字の読み書きを完璧にマスターしておきましょう。英単語の中には「piano(ピアノ)」のようにローマ字だけで読み書きできるものもあり、英語を学ぶのに必要な基礎となります。
次に「フォニックス」と呼ばれる英語独特の読み書きのルールをマスターしましょう。例えば、nameは「a」の部分をアルファベットの読み方と同じく「エイ」、appleは「a」の部分を「ア」、dayは「ay」の部分を「エイ」と読みます。このように、neimではなくname、deiではなくdayとローマ字のように書かないのは、フォニックスと呼ばれる英語独特の読み書きのルールがあるからです。
フォニックスに基づいて英文を正しく読めるようになるには、まずは「音読」の練習がおすすめです。最初はゆっくり丁寧に、慣れてきたらストップウォッチでタイムを計りながら「速読」してみましょう。教科書の英文を何秒で読めるか、タイムトライアルするのもよいでしょう。
速読ができるようになったら、英文を読んでその日本語訳を言ってみる「対訳音読」をやってみましょう。例えば、「I study math every day.=私は毎日数学を勉強します」「What club do you want to join?=あなたは何部に入りたいですか」というように、英文を読んだら必ず日本語に訳してみるのです。 意味(和訳)のわからない英文を読んでも頭に入らないためです。余裕のある人は、和訳を英文にする「逆対訳」もおすすめです。
英語の勉強というと、とにかく単語や英文をノートに書きまくるといった物量主義をイメージする人が少なくありません。しかし、フォニックスをマスターすれば、知らない単語でも読み方や書き方を推測することができます。また、音読だけでなく「速読」を意識することで、英文を速く読めるようになります。
そうなると、英語の勉強が格段に楽になります。こうしたひと工夫を加えることで、中学英語でつまずくことが少なくなります。いまのうちから効果的な対策をしておきましょう。
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