PTAは罰ゲーム!? ブラック組織!? オンライン化で改善した世田谷区の事例
PTAというと「活動負担が大きい」「ノルマ感、強制感が強い」などネガティブなイメージがつきまとうでしょう。「いっそのことなくてもいいのに」とチラリと思う反面、「保護者と学校、先生をつなぐ何かはあったほうがいいよね……」といった感情の狭間で、モヤモヤ感を抱いたことがある人も少なくないと思います。そんな中、PTAのオンライン化により、「やらされ感が強い」「前例踏襲」などのネガティブなイメージを改善した世田谷区の公立小学校PTAの事例を紹介します。
保護者アンケートでPTAの現状や会員の意識を調査
世田谷区に住む2児のパパ・トザキ ケイイチさん(IT系会社運営/共働き)も、そんな一人でした。公立小学校PTAで2年間、校外委員長として活動していた中、前任のPTA会長から「次期PTA会長に」と打診を受けたそうです。PTAの改善に向け、トザキさんはまず、保護者にPTAについての意識調査を行うことを提案しました。校外委員長時代を含め、2年間で計8回アンケートを実施した結果、「正直とまどいもありましたが、自分の中のモヤモヤと向き合いながらもPTA活動を見直す良い機会と前向きにとらえ、PTA会長を引き受けました」(トザキさん)
「PTA活動で大変だったこと、困ったこと」として
- 平日に活動にさかれる時間が多い
- 会員への連絡に手間がかかる
- 連絡ツールは紙がメインで、印刷、配布、回収が大変
- PTA役員間の情報共有や意見交換
- 各委員会メンバーの情報共有や意見交換
- PTA本部から会員への情報伝達やお手伝いなどの募集
- 学校に対する情報や意見交換を行えるような場作り
- 学年・地区班などのグループでの管理・配信
- 活動時間・場所の拘束を軽減やスピードアップ
PTAからの連絡は、学校から配信する「学校連絡メール」を利用しているPTAも多いようですが、「学校連絡メール」は災害時や緊急時、防犯、行事に関する配信が主目的で、一方通行の伝達ツールのため、PTA独自の双方向連絡システムを作ろうと考えられたようです。「学校連絡メールとは別にPTA独自の双方向な連絡システムを作ることで、PTA活動についての発信ができ、認知が広がると考えました」(トザキさん)
オンライン化をめざし、IT推進委員会を立ち上げ
オンライン化の実現に向け、臨時委員会として「IT推進委員会」を立ち上げ有志を募ったところ、8人のメンバーが集まったそうです。数あるオンラインツールの中からどのアプリを導入すべきか。委員会では10以上のアプリやサービスを候補に挙げた上で、「僕自身ITの仕事をしているため、やろうと思えば一人でサクサク進めることもできました。しかし、利用するのは保護者の皆さんです。多くの人が抵抗なく使えるツールを選び、スムーズに導入するためには、自分にはない視点が必要だと思いました。実際、『こんな操作はできない』『こんなことが知りたい』など、メンバーのママさんたちから寄せられた当事者目線の意見は、とても参考になりましたね」(トザキさん)
- 管理者を複数設定できるか
- IDとパスワードはあるか
- グループ機能はあるか
「ITにくわしい人」「周りを巻き込む力」でPTAオンライン化は実現可能
2020年2月、保護者に対して次年度計画としてIT推進プランの周知をしたと同時に、PTAのホームページを立ち上げました。しかし、保護者のBANDへの登録準備を始めた矢先に、新型コロナウイルス感染症拡大による突然の休校という緊急事態が発生。しかし、トザキさんの学校ではBANDとGoogle Formsを併用し、3月のPTA総会、運営委員会のオンライン開催が実現。学校からの協力もあり、BANDのライブ配信機能を使って卒業式の中継、撮影もできたそうです。4月は入学式が延期になり、PTA入会資料配布を行うこともできませんでしたが、PTAと学校のそれぞれのホームページ上で案内を掲示。新入生保護者のPTA入会やBAND加入にもスムーズに対応できたそうです。
さらに、休校期間中はBANDによる告知で、Zoomによるオンラインホームルーム実施に加え、BANDの参加者募集機能を利用しPTA委員の募集、個人情報漏えい補償の契約もできました。「突然の休校でバタバタのスタート。PTAのHPも突貫工事で作った感がありますが(笑)、学校、PTA役員さんや委員さん、会員の皆さんの理解と協力のおかげで何とかここまでくることができました。時間や手間はかかりましたが、PTAのオンライン化は、ITにくわしい保護者の存在と、周りをまきこむPTA本部のパワーがあれば、無理なく実現できると思います」(トザキさん)
オンライン化は、めざすPTAを実現するための“手段”
「ただし」と、トザキさんは続けます。「ノルマだから仕方なくやる」「去年そうだったから今年も同じ方法でやる」など、役員や委員が1年ごとに入れ替わることが多いPTA活動は、知識の集積が難しいのが現状です。「自分たちのPTAはなんのためにあるのか」「なにをめざすのか」という本来の目的やビジョンを共有し、それをふまえて具体的なアクションを起こすことが、「PTAの改善」につながるのではないでしょうか。「PTAのオンライン化は、これまでのPTA活動や運営方法を見直し、これからめざすPTAを実現するための“手段”のひとつにすぎません。
PTAはそもそも、強制されてやるものでも、前年度と同じことをやればいいというものではないはず。だからこそ『なぜオンライン化したのか』、その目的を忘れないことが大切だと思います」
トザキさんの小学校では、前述したアンケートの結果をふまえながら、「今の自分たちに見合ったPTAとは何か」について検討、提案、実現をめざす『やさしいPTA』プロジェクトをスタート。めざすPTAの形を明文化しました。
PTAのホームページには「めざすPTAの形」として、
- 家庭を守ることを躊躇させない、家庭優先を許容できる
- やりたいことができる、できることをやる
- 前向きに、楽しく、協力・参加できる
- 子供に誇れる、自分に誇れる
- 子供にやさしい、家庭にやさしい
今年度でPTA会長の任務を終えるトザキさんですが、BANDの運用をスムーズに継続させるため、来年度はIT推進委員会の委員として、また「前PTA会長」として本部の活動をサポートしていくそうです。オンライン化を足がかりに「めざすPTA」に向かって、組織や活動内容の見直しを進める姿は、現在の日本のPTAの在り方の課題を考えるための参考になるものが大きいですね。
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