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研修医も新型コロナ集団感染?クラスター発生への思いと今考えたいこと

【眼科医が解説】新型コロナウイルス感染症の拡大が続いています。各地で発生するクラスター対策が進められていますが、そんな中、出身校の医学部で、研修医による懇親会がクラスターになってしまったという報道を目にしました。今回は一人の医師、眼科医として、またコロナの感染拡大を止めたい一人の人間として、研修医のクラスター・集団感染問題から思うことをお伝えできればと思います。

大高 功

執筆者:大高 功

眼科医 / 目の病気ガイド

広がる新型コロナウイルス感染症……感染対策に励む日々

医師グループ

命を守る医師たちにとっても、新型コロナウイルス感染対策はとても重要です

現在、新型コロナウイルス感染症の拡大が世界的に深刻な問題になっており、日本でも外出自粛要請やクラスター対策などが進められています。みんなで頑張って早く収束させないと、多くの人命に関わってしまいます。経済的にも、自粛が長期化すると大変です。誰でも、行きつけのお店屋さんがたくさん倒産してしまった未来を迎えるのは嫌ですよね。もちろん病院も倒産の危機にさらされます。感染を止めるためなら、私はなんでも頑張りますよ。そんな中、出身校でもある大学で研修医による懇親会でクラスターが発生し、新型コロナ集団感染が起きた……という報道を目にし、衝撃を受けたりもしています。

私は横浜で開業している眼科の専門医で、1日150人ほどの患者さん(他の医師の診療分も含めると院全体で250人くらいの患者さん)を日々診療しています。目の病気でも非常に感染力の強いウイルスとの戦いが常にありますから、院内感染対策には日ごろから神経をとがらせています。

呼吸器感染症の専門医ではありませんが、今回は一人の医師として、眼科医として、そしてコロナの感染拡大を止めたい人間として、研修医の集団感染報道から思うことを中心に、ざっくばらんにお話しできればと思います。とにかく今は少しでも多くの人ができることを考えていくことが大事な時期です。今回は思うところをあまり遠慮せずに書かせてもらいたいと思いますので、言い回しなどで気になる部分があるかもしれませんが、あまりうるさく思わずに読んでいただければなぁと思います。
 

医師も他人事ではないクラスター問題……研修医の集団感染報道を見て

慶應義塾大学病院で起きた、研修医の懇親会によるクラスター発生(集団感染)問題ですが、これについては医療者としても様々な思いがあります。

一般的に、医師は会食や接待の機会が多いのではないか?と思われるかもしれませんが、製薬会社などによるいわゆる接待的なものは禁止されていますので、現代では全くありません。医療職だからクラスターができやすい会食機会が多いということはないでしょう。大小さまざまな学会や、それに伴う情報交換の場としての立食パーティーなどは通常はありますが(現在は多くが自粛)、日常的な医師同士の飲み会自体、昔ほどしなくなった印象です。勤務医はチーム医療ですから、飲みに行く機会は少し多くなるかもしれませんが、それでも他の職種に比べて多いものではないでしょう。

今回の研修医の集団感染については、まず、病院長の先生から厳重に宴会禁止のお触れが出ていたにもかかわらず、あのタイミングで大宴会をやるという行為が、そもそも正常ではありませんし、やはり許されないと感じます。一方で、病院長の先生に監督責任はないと思っています。禁止のお触れをしっかりと出しているのに、若い者がこっそり大宴会をやるのを、どうやって監督は阻止できるというのか……。
 
報道のタイトルで注目されたこととは少し異なり、集まりを主催したのは慶應大学医学部出身者ではない者が中心のグループだったようですが、実際に出身者も含まれていたわけですから、組織として非難されるのも仕方がない面があるでしょう。

(また、完全に余談ですが、「慶應大学医学部の医局」には、「慶應大学医学部」出身者以外でも、医師免許を獲得すれば、比較的簡単に入れます。慶應に限らず、例えば「早稲田大学付属○○研究所」には「早稲田大学」出身者でなくとも入れますよね。それと同じです。

「医局」とは、平たく言うと人材派遣会社のようなもので、そこから慶應病院や、いろんな関連病院に医師が派遣されています。どこも慢性的に人手不足なので、他大学出身でも通常簡単に入ることができるのが実情です。もう一つつけ加えると、他大学出身者でも、慶應大学医学部出身者以上に優秀で人間的にも素晴らしい人はたくさんいますし、他の大学出身者を差別するようなことはもちろんありません)。
 
よく、「若い者はバカなことをする」とか言われますが、それは正しくありません。そのへんの大人よりもずっと分別のある賢い若者もたくさんいるでしょう。ですが一人の人間の人生においては、通常は、若いころは一般常識に関する知識や経験が少なく、徐々に習得して賢くなっていき、さらに高齢になると緩やかに下り線をたどっていく……というものだと思います。それゆえ、やや乱暴に集団で括ると、「40歳の集団より20歳の集団は(一般常識の知識が少なく)バカなことをする」という見られ方になるのでしょう(ちなみに大高が若いときは、間違いなく本当にバカでした。じゃぁ今は賢いかと言われると……要はそこまでバカできる元気がないんですね(笑))。
 
前置きが長くなりすぎましたが、今回の研修医による集団感染は、「医療者としての自覚」といった点を始め、様々な点でお叱りや批判を受けると思います。率直に言ってしまえば、医療者として、研修医として……ということ以前に、若くて一般常識のまだ乏しい集団が、判断を誤って起こしてしまったこと(さらに遠慮なく関西弁で言わせてもらうと、“めちゃくちゃアホなやつらがやらかしてしまったこと”)だと感じます。
 

医療者からのクラスター発生……社会の憤りと一医師として思うこと

コロナ拡大で世の中的にもピリピリとした空気になっている中、多くの方が今回の報道を見て、憤りを感じられたことと思います。そしてその憤りの内容は、大体次の2つではないかと思います。

1. 「こんなドクター(研修医)が組織に守られて、これからもぬくぬくと医者をやっていくというのは許しがたい」
2. 「病院長は宴会をやっていた事実をなぜもっと早くに公表しなかったのか」

この辺りについて、同じ医学部出身者として思うところを述べさせていただければと思います。

まず1つめの「組織に守られて……」という点についてですが、みなさん、慶應医学はそんなに甘いところではありません(慶應以外もそうです)。関係者は、恐らくみなさんの1000倍ぐらい激怒されています(当たり前ですよね……)。その意味で、このドクターたちは、必ず何らかの報いを受けることになると思います。内容についてはこの場では割愛させていただきますが、ともかくも、誰かがやらなければならないけれど誰もがあまりやりたくない仕事を延々させられる……といったことはあるわけです。後で述べますが、私が彼ら彼女らに提言したいのは、「そういった報いを受けて、かつ汚れたレッテルをはられて一生生きるなら、自分からヒーローになれ」ということなのです。

そして2つ目の「病院長が早く公表しなかった」点について。ここは、ちょっと冷静に考えていただきたいです。新型コロナが流行る前であれば、初期研修が終わったタイミングで研修医たちが自発的な飲み会をすることは、ただの飲み会以上の意味があり、よいことだと考えられていました。病院長にも「そうか、研修医みんなで集まって大宴会したのか。これからいろんな病院やいろんな科に散らばる医師同士、横のつながりを強化しておくのは良いことだ」と誉められたと思います。医師同士の横のつながりがしっかりしていることは、患者さんたちにとっても、とてもメリットの大きいことからです。

そんな飲み会が、今回突然「法律には触れないけれど、今一番やってはいけないこと」になってしまいました。

もし「感染者が出た」ということを病院側が隠したとしたらもちろん絶対にダメですが、そこはすぐに発表されています。その前の時点で、どこまで公表すべきだったのかということです。このタイミングで、「部下達が飲み会をやって感染が広がったようだ」ということは、「身内の恥中の恥」でしょう。それを感染者が出た報告と一緒に公表しないといけないのかどうか……、この基準と言うものは非常に難しいのではないかと思います。

法律に反したことを組織が隠ぺいすることは、あってはなりません。しかし、法律的な義務の範囲外の「身内の恥ずかしいこと」を、人様にわざわざ言わないということは、組織でも個々人でも当然ある心理かと思います。ぐっとレベルを落とした話になりますが、もし遠い実家で自分の親が「ごみやしきおばさん」として有名になってしまっていたら……普通はそれを友達に知られたくないと思うはずです。

今回の件は、後から見れば、世間のみなさんに「もっと早く公表すべきだった」と思われても仕方ない案件だったとは思います。しかし当時の現場では公表すべきかどうか、判断のしようがなかったことをご理解いただければ……とも思います。

慶應の上の先生方は、研修医がごっそりいなくなって、ほんとうにコロナの前に過労死してしまうのではないかと心配になるほど頑張っていらっしゃいます。上の先生方が新型コロナへの対応に集中できるよう、この件に関しては、皆さん色々思われることはあるでしょうが、とりあえず休戦にしておいていただければ、外部の一人のOB医師としても嬉しく思います。
 

新型コロナウイルス感染症拡大を止めるために、それぞれにできること

感染した医師たちは、今後この失敗をもちろん隠しながら職務にあたっていくのでしょうが、バカなことをしてこの大事な時期に新型コロナに感染してしまった、という十字架は一生背負っていかなければなりません。それはそうですよね。
 
新型コロナに関することはまだわからないことが多いですが、集団感染した彼らは新型コロナの免疫を獲得している可能性もあります。しかも皆若い。抗体がある期間や再感染の恐れなど、考えなくてはならないことはあるでしょうが、全く免疫を持っていない普通の医師に比べれば、新型コロナに関してははるかに条件が良いことは明白なのではないかと思います。
 
個人的な思いですが、感染した若い先生方、もしこの記事を見たら、しっかり体を治した上で、ぜひ最前線へ立候補してもらえませんでしょうか……。もしそうしてくれたら、日本中、いや、世界中の人たちから、最強のコロナ戦士として称賛され、今回の件の名誉挽回にもなるかもしれません。

みなさんも、この新型コロナウイルスの拡大を止めるべく、それぞれができる方法で、しっかりと適切な感染予防をしていただければと思います。そしてもし報道された医師たちが今後活躍する場面があれば、一度は失敗経験がある若い医師たちの働きぶりを応援し、よい結果についてはぜひ誉めていただきたいと思っております。
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