アドバイス1 「中学から私立」も「クルマの買い替え」も可能
ともあれ試算をしてみましょう。今後2年間は時短勤務とすると、その間に貯蓄できるのは、月4万5000円とボーナス全額ですから年間94万円×2年で188万円。フル勤務に復帰後、増額となった5万円も貯蓄に回すとすれば、年間154万円。このとき36歳ですから、定年までの24年間で3696万円。手持資金と合わせて、約4300万円となります。
ここから教育費を差し引きます。中学から私立を希望とのことですから、高校、大学も私立と想定しますと、かかる教育費の目安は中学で400万円、高校で300万円。大学は進路によって異なりますが一応500万円と考えます。これで、計1200万円。先の試算では、教育費6万円を生活費にずっと計上していますので、あめさん47歳(お子さん中学入学時)から60歳までの13年分、約900万円を差し引くと、実際は試算結果(約4300万円)から300万円程度の捻出で済む計算になります。
また、「幼児教育・保育の無償化」により、3歳から保育園費用は原則無償化(送迎費、食料費などは対象外)となりますし、実際に小学校は公立であれば、習い事や学習塾の費用を加えても、一般には月6万円もいかないでしょう。
したがって、この間はもっと貯蓄率はアップすることになります。ただし、一方でお子さんの成長につれ、世帯の生活費そのものが増えますから、アップ分はそれにより相殺されると考えます。
同様に、あめさんの奨学金は10年後に完済されますが、児童手当を受給できるのはお子さんが15歳まで。これも収支は相殺されるとします。
また、教育費とともに大きな支出となるのが自動車の買い替え。6年以内に買い替え予定で予算は150万円。以降、10年ごとに買い替えるとして、60歳までに3回、計450万円を計上すると、先の教育費と合わせて、60歳のとき、手元に残るのは3550万円。これにご主人の退職金を加算すれば3700万円前後、それが老後資金となります。
アドバイス2 住宅ローンの繰上返済は「早め」がメリット多し
この老後資金を踏まえて、希望されている「50代の完済」のための繰上返済を行った場合はどうでしょうか?住宅ローンの内容から試算して、おそらく50歳のとき、ローン残高は1250万円前後、55歳のときは850万円程度だと思われます。つまり、このタイミングで一括返済すれば、そこでローンは完済となりますし、現在の貯蓄ペースが継続されれば、それができる家計的余力もあります。
さらに言えば、変動金利で借りているということは、将来の金利上昇リスクがあるわけですが、一方で現状は金利が低い。したがって、早めの繰上返済がリスク回避にもなり、支払い金利の削減にも有効です。
例えば、5年後に貯蓄は1000万円超になっているはず。そこで半分の500万円を繰上返済すると、返済期間は6年8カ月短縮され、支払利息は88万円ほど軽減されます(※)。そもそもの完済が65歳のときですから、この時点で「50代の完済」は達成できます。また、さらにその5年後に同様に500万円を繰上返済すれば、完済が52歳にまで短縮されます。
1000万円を繰上返済すると、先に示した老後資金はその分を差し引かなくてはなりませんが、53歳から住宅ローンがなくなります。月7万3000円×7年間=約600万円、これを全額貯蓄に回すとすれば、実際の老後資金は3300万円となります。
老後資金はそれで足りるかどうかは、現時点では明確にはわかりません。ただし、あめさんの勤務先が定年65歳であること。夫婦とも厚生年金に加入し、さらに65歳満期の養老保険もあります。ご主人には定年後も働くことが望ましいですが、ともあれ老後が一般的な支出で済むなら、長生きリスクを踏まえても、資金的に大きく困ることはないでしょう。
(※)2015年1月にローン開始、2025年1月に繰上返済した場合。
アドバイス3 40歳になったらiDeCoを始めてもいい
最後に家計管理について。感心するのは、一般にボーナスから捻出する固定資産税や車検費用など、毎月の生活費以外の支出をあらかじめ予算に組んで、毎月の家計に計上していること。結果、ボーナスが全額貯蓄に回るとともに、仮にボーナスが減額になっても貯蓄を取り崩す、あるいは毎月の貯蓄額が下がるということはありません。
一方、貯蓄ペースは決して低くはないですが、言われるように、お子さんの関連費用(保育料、雑費など)や食費は家族構成から考えて、確かに多めです。それでも、そういう自覚、認識があるのですから、大丈夫でしょう。家計全体を節約する必要があれば、そこを削ればいいのですから。今はまだお子さんも0歳で大変でしょうが、そのうちもっとコストを抑えることもできるはずです。
それと老後はまだ意識はする必要はありませんが、40歳になったらiDeCoを始めてもいいと思います。掛金が引き出せるのは原則60歳以降ですが、マネープランとしては余裕がありますから、そう問題はありません。また、節税効果の恩恵は確実に受けられますので、そのメリットを20年間(税制改正後は25年間)得られるのは大きな利点。投資リスクを取りたくなければ、元本保証の商品も選択できます。投資商品(投資信託)を選ぶのなら、広く世界に投資している商品を選ぶといいと思います。
相談者「あめ」さんから寄せられた感想
子どもができて、はじめて地域の雰囲気から私立進学もありえると分かり焦っていましたが、今の収入を維持できれば自分達の老後含めなんとかなりそうなので、安心しました。まずは5年後の繰上返済を目標に、子ども関連の支出は見直しつつ、仕事と育児を頑張ります。貴重なアドバイスをいただき、本当にありがとうございました。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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