年金額の改定の仕組みと今年度の年金額についてみていきましょう。
老後の家計においては、公的年金からの収入をベースとして、その上乗せ年金として、個人年金などの私的年金を組み合わせて自分の希望する生活がおくれるよう設計していくことが大切です。
公的年金は、社会保障制度のひとつです。社会全体の支え合いの仕組みであり、社会保険という名のとおり、公的年金は保険です。高齢になって働けなくなったときだけでなく、死亡時や障害状態になった時など万一の時の給付も行います。
この公的年金の給付は、現役世代の保険料によって支えられています。いわば、現役世代から受給世代への仕送り方式です。現役世代の賃金が下がってしまうと保険料収入も減少してしまいます。
したがって、年金額の改定の際には、現役世代の賃金の変動が反映されることになっています。しかし、今現在は、すでに年金をもらっている年金受給者については、購買力を維持するため、原則として物価の変動に応じて改定されることになっています。
さらに、もう1つ、少子高齢化による人口構造の変化に対応して年金額を改定・調整する仕組みがあります。公的年金制度の持続性と将来世代の給付水準を確保するため、現役人口の減少と平均余命の伸びに合わせて年金額を調整する仕組みで「マクロ経済スライド」と呼ばれています。発動のためには条件があり、これまでなかなか発動されていませんでしたが、今年度は、前年度分も合わせて発動されました。
では、年金額の改定の仕組みと今年度の年金額についてみていきましょう。
<INDEX>
■年金額の改定の仕組みの基本
■マクロ経済スライド発動
■キャリーオーバー分の調整
■2019年度の年金額の計算の仕組み
■事例紹介
年金額の改定の仕組みの基本
年金額改定の基本的な仕組みについては、賃金や物価の変動といった短期的な経済動向を年金額に反映させるため、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定者)は賃金の変動率によって改定し、すでに受給中の年金額(既裁定者)は物価の変動率によって改定されます。ただし、物価変動が賃金変動より大きい場合には、既裁定者も賃金変動率で改定したり、賃金変動率がマイナスの場合には年金額が据え置かれるなど各種の例外措置がとられています。
2019年度の年金額の改定は、年金額改定に用いる物価変動率(1.0%プラス)が名目手取り賃金変動率(0.6%プラス)よりも高いため、例外的に、新規裁定年金・既裁定年金ともに名目手取り賃金変動率(0.6%プラス)を用います。
ただし、これが2019年度の年金額の改定率にそのままなるわけではありません。今年度は、昨年度と異なり、さらなる調整がかかります。それは次にみていきましょう。
ちなみに、賃金・物価スライドについては、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付にするという観点から、賃金変動が物価変動を下回る場合に、これまでのような例外的な扱いは行わず、賃金変動に合わせて改定する仕組みが徹底されます(2021年施行)。
この年金額改定ルールの見直しは、仮に、現在の若年層の賃金が下がるような経済状況が起きた場合に、現在の年金額も若年層の賃金変化に合わせて改定することで、若い世代が将来受給する年金給付水準の低下を防止するものです。
マクロ経済スライド発動
マクロ経済スライドは、少子高齢化といった長期的な人口構造の変化に対応するため、時間をかけて年金給付水準を徐々に低下させることで、年金制度の持続可能性を確保し、将来世代の給付水準を確保しようとする世代間の分かち合いの仕組みです。つまり、このマクロ経済スライドの発動が遅ければ、将来の受給者の給付水準は想定しているより低くなってしまうことになります。
マクロ経済スライドについては2004年の改正で導入されており、この改正では年金財政の枠組みが大きく変更されました。保険料の上限が決められ、そこまでは保険料を引き上げるがそれ以降は保険料を固定し、固定された財源の範囲内で給付をまかなうことができるよう、年金の給付額を自動的に調整する仕組みが導入されたのです。これがマクロ経済スライドです。
なお、この時の改正によって、現役世代の保険料水準は2017年に上限に達し固定されています。
このように、マクロ経済スライドは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
ただし、前年度の年金の名目額を下回らないようにする名目下限措置がとられています。そのため、賃金変動率の低迷等が続いたことにより、昨年までのマクロ経済スライドの発動は2015年度のみとなっていましたが、今年度は4年ぶりにマクロ経済スライドが発動される条件が整ったわけです。
具体的には、賃金や物価による年金額の伸び(+0.6%)から、スライド調整率(▲0.2%)を差し引いて、年金額を改定します。
この2019年度のスライド調整率(▲0.2%)は、現役世代が減少していくことと平均余命が伸びていくことを考慮し、「公的年金全体の被保険者の変動率の実績(0.1%)」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(▲0.3%)」で計算されています。しかし、今年度は、法改正によってさらなる調整がかかります。それは次のページでみていきましょう。