演劇を“いじりまくる⁈”ミュージカル・コメディ『サムシング・ロッテン』
12月17~30日=東京国際フォーラムホールC、2019年1月11~14日=オリックス劇場『サムシング・ロッテン』の見どころ 2015年のトニー賞で9部門にノミネートされ、1部門で受賞した話題作がついに日本上陸。”何かが腐っている”という意味の表題は『ハムレット』からの一節で、エリザベス朝の英国を舞台に、スランプ中の劇作家ニック(中川晃教さん)と売れっ子劇作家シェイクスピア(西川貴教さん)の、怪しい預言者ノストラダムス(橋本さとしさん)らを巻き込んだ執筆騒動を描きます。
時代劇……と思いきや、シェイクスピア作品のみならず、『コーラスライン』『アニー』『レ・ミゼラブル』等、20世紀の名作ミュージカルのネタが多数織り込まれ、舞台ファンには堪らない一作。日本では『Spamalot』以降、ミュージカル演出でも快進撃を続けている福田雄一さんが演出とあって、さらに多くのネタが盛り込まれる予感も⁈ 中川さん、西川さんをはじめとする華やかな実力派キャストの“大真面目なはじけっぷり”にも、大いに期待できそうです。(福田雄一さんへの『シティ・オブ・エンジェルス』でのインタビューはこちら)
観劇レポート:演劇愛が溢れすぎ⁈ 笑いの絶えないミュージカル・コメディ 吟遊詩人(ミンストレル)をはじめとする中世の人々が“ウェルカム・トゥ・ルネサ~ンス”と歌い、牧歌的に舞台はスタート。売れない劇作家兄弟のニック(中川晃教さん)とナイジェル(平方元基さん)はなかなか新作が書けず、劇団運営にも行き詰まる日々を過ごしています。 家に帰れば愛妻ビー(瀬奈じゅんさん)は“それなら自分が働く!”と張りきり(この場面で、男なみに働けることを証明するため、ビーは某有名演目を独演。瀬名さんが思い切りよく演じるまさかのパロディに、場内は大いに沸きます)、立つ瀬がないニックは予言者、ノストラダムス(橋本さとしさん)のもとへ。“次にヒットするもの”を尋ね、“ミュージカル”という答えを得ます。 16世紀の英国にはもちろんまだミュージカルは存在せず、ここでノストラダムスがミュージカルとは何ぞや、を語るビッグ・ナンバー「ミュージカル」が展開。“歌ってる役者なんて誰が観たいんだ、でも意外とそうは思わないんだな”と、理屈を超えたミュージカルの楽しさを、橋本さとしさんが突然、現代の衣裳で現れるダンサーたちとともに賑々しく、スケール感たっぷりに描き出します。
乗りやすい(?)ニックは“よし、世界初のミュージカルを書こう”と意気込みますが、ことはそう簡単ではありません。行き詰まった彼は再びノストラダムスを訪ね、ライバル、シェイクスピア(西川貴教さん)の未来の傑作は?と問いかけます。そのアイディアを頂戴してしまおう、というのです。(『ハムレット』ならぬ)『オムレット』という答えを得たニックは、卵のミュージカルを書くべく悪戦苦闘するのですが……。 いっぽう、シェイクスピアはシェイクスピアで人気絶頂、わが春を謳歌しているように見えて、実はスランプ中。以前からその文才に目をつけていたナイジェルからアイディアを盗むべく、変装して二人の劇団に紛れ込みます。清教徒の娘ポーシャ(清水くるみさん)と出会ったナイジェルは、彼女との禁じられた恋から新たなインスピレーションを得ていましたが、執筆中の物語をシェイクスピアの目に触れさせてしまい…‥。
核にあるのは“芸術の生みの苦しみ” 芸術が生まれるまでの“生みの苦しみ”を柱として、演劇人たちの右往左往が生き生きと描かれた物語。ブロードウェイ版でも『コーラスライン』『アニー』をはじめ多数のミュージカルやシェイクスピア戯曲の台詞が引用され、いじられ、“演劇愛が半端ない”と話題を呼びましたが、今回の日本版はそれらに加え、演出・台本の福田雄一さんが日本における人気演目や演劇界事情ネタをふんだんに投入。演劇ファンであれば3分に一度は笑わずにはいられない、あるいはいったい何十本の作品が言及されたか、カウントせずにはいられない作品でしょう。いっぽうでこれらの元ネタを知らずとも、福田ワールドならではの、稚気に富んだ俳優たちの丁丁発止が大いに楽しめ、幅広い層にアピールする舞台となっています。 ニック役の中川晃教さんはコメディという大前提をよく心得、賢く見えてちょっと間抜けな部分もある主人公を、適度に肩の力を抜いて体現。中盤、“いけない”行動に走ってしまうキャラクターもどこか憎めない、かわいい男として存在させています。タップなど、フィジカルな見せ場でも大奮闘。 対するシェイクスピア役の西川貴教さんは人気絶頂の劇作家としてロックスターになぞらえられた役どころにぴったり。人々の熱狂に応えるライブシーンでは水を得た魚のように輝き、後に変装して劇団に潜り込むくだりでは、いかにも怪しい声色を出し、観客を楽しませます。
ニックの妻ビー役の瀬奈じゅんさんは、『シティ・オブ・エンジェルス』の悪女役から一転、今回は“心身ともに頼もしい”妻役。実は当時の男尊女卑を痛烈に皮肉った役どころでもありますが、ご自身の明るさと宝塚の男役トップスター経験を生かした表現力で、後半の重要なパートも見事にこなしています。 ナイジェル役の平方元基さんは、気はいいが兄にも輪をかけて(?)抜けたところのある役どころ。単なる二枚目よりもどこか可愛げのある青年役で本領を発揮する方だけに、今回も“いい味”を出しています。またナイジェルと禁断の恋に落ちるポーシャ役の清水くるみさんには現代的な“芯”があり、歌声もしっかり。今後様々な舞台での活躍が期待されます。
そしてノストラダムス……といっても“あの”歴史上の人物の甥っ子だというノストラダムス役を演じる橋本さとしさんは、演じようによっては“無責任かつ迷惑な人”にも見えかねないノストラダムスに人間臭さを漂わせ、登場シーンでは常に大きな存在感を放出。彼が登場するたび観客のわくわく感を掻き立ててくれています。 大騒動の果てに、驚きの結末が待っている本作。そうかこれはウェストエンドではなく、ブロードウェイ・ミュージカルだったのだ、と思い出し、納得される方も多いことでしょう。何とも無邪気な“アメリカ讃歌”でもある作品です。
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