アナザーエデンのガチャ確率操作問題
多くの基本無料ゲームには、「ガチャ」と総称される、ランダムでキャラクターやアイテムなどを得ることのできるくじ引き方式の課金システムがありますが、グリーがモバイル端末向けに配信しているゲームアプリ『アナザーエデン 時空を超える猫(以下アナザーエデン)』のキャラクターを得ることができるガチャ『夢見』において、1年以上もの間不正に確率を操作していた事実が発覚し、大きな問題となりました。グリーは2018年10月26日に開催した決算説明会で、この問題について改めて状況を説明しました。アナザーエデンで行われた確率操作は、現状で発覚している事実から考える限りは、ユーザーに損をさせてグリーが大きく儲けるために悪意を持って行ったとは考えにくく、むしろこのような状態を1年以上も放置していたことは、グリーにとってリスクでしかなく、痛恨の極みだったことでしょう。とはいえ、グリーが確率操作によって大儲けしていないのであればいいのか、悪意がなければいいのかと言えば、もちろんそんなことはありません。アナザーエデンのガチャ確率操作について、何が起きていたのかを整理して、どこに大きな問題があるのか、考えてみたいと思います。
極端な結果を修正するプログラム
グリーが行っていた不正な確率操作とは、ガチャによって手に入れることのできるキャラクターのレアリティ、希少度についての操作でした。アナザーエデンのキャラクターは★の数でレアリティが表現され、★は3~5があり、★3が最低ランク、★5が最高レアリティということになります。具体的な確率操作の方法は、10連ガチャと呼ばれる、10回連続で一気にガチャを行う仕組みにおいて、「同じ仲間(同一ID)が4体以上含まれる場合」「★5クラスの仲間が4体以上含まれる場合」のどちらかの場合に、再抽選が行われるプログラムが組み込まれていたと説明されています。どちらも極めて稀に起こる状況ですが、前者は同じキャラクターばかりが出てしまってすごくユーザーが損をしたように感じる場面、後者は最高レアリティのキャラクターがたくさん手に入り、ユーザーが大変に幸運に喜ぶ場面です。
グリーは、このプログラムを導入した経緯として、最低ランクである★3クラスの、同じキャラクターが極端に重複して排出されるという問い合わせに対して、確率的に起こり得ることではあるものの、ユーザーの不利益につながるとして、同じキャラクターが4体以上排出された場合に再抽選するプログラムを導入、さらに、★5クラスのキャラクターが大量に排出されるという問い合わせに対して、原因特定に至らず、ゲームの公平感を維持するために★5クラスのキャラクターが4体以上排出された場合に再抽選するプログラムを導入していた、と説明しています。
ユーザーによって発覚
このプログラムの存在にユーザーが気がつくのは大変に困難です。そもそも、同じキャラクターや、あるいは最高レアリティのキャラクターが、一度に4体以上も出るということ自体が極めて稀であるので、そういったことが起こらないということは何ら不自然ではないのです。しかし、ある不具合から事態が急変します。2018年9月13日、ユーザーの大量アクセスによるサーバーの高負荷が原因で、ガチャに不具合が起こります。不具合の内容は、ガチャで排出されるキャラクターの中から、上限が★3のキャラクターと★4のキャラクターが排除されるというものでした。こういったゲームをあまりやらない人には少しわかりにくいのですが、多くのゲームはガチャによって手に入ったレアリティをユーザーがプレイすることによって育てて、上げることができます。レアリティはガチャによって手に入る希少度の他に、キャラクターの強さのランクを表す場合も多く、成長させることでランクを上げて強化することができます。
アナザーエデンにおいても、キャラクターを育てることによって★の数を増やすことができます。その増やすことのできる上限が、★3までのキャラクターと、★4までのキャラクターがガチャから登場しなくなりました。簡単に言えば、本来はたくさん排出されるはずの弱いキャラクターが、一切出なくなったということです。
結果的に、ガチャの結果は大きく偏り、★5のキャラクターが大量に排出されることとなります。何も知らないユーザーは大変な幸運に恵まれたと感じて、Twitterなどにガチャの結果を表示したスクリーンショットが多数投稿されました。その際、不自然なことに気がつきます。それは、どのスクリーンショットも、★5のキャラクターが3体までしか出ていないことです。
普段は★5のキャラクターが4体も出ることは極めて稀なので、目にしなくても不思議はありません。しかし、確率が大きく偏り、これだけたくさんの★5のキャラクターが並んでいるのに、その全てが3体までで、4体出ている場面が1度もないというのは明らかに不自然です。そこでユーザーが、★5のキャラクターの排出上限が3体までに設定されているのでは、と気がつきます。
グリーが提案する防止策
ユーザーが不正に気がついたことで、ゲームの提供元であるグリーが調査、前述した確率を不正に操作するプログラムの存在が明るみにでました。あわせて、このプログラムが存在したことで、ゲーム上で表記しているキャラクターの排出率とどのくらい乖離が起きているかの調査も行われ、全体の確率に大きな違いはないことが確認されました。冒頭ご紹介した10月26日の決算説明会において、グリーにはゲーム開発部門から独立した組織としてガチャの確率や、表記等について検査をする部門があるものの、今回のケースに関しては、バグの修正という形でプログラムが導入され、検査の機能を通らずに実施されてしまったことが原因だと説明。今後は、テキストの変更といった細かなことも検査を通るようにプロセスを改善するとのことです。また、消費者庁からの問い合わせに対して、対応していることも話されました。
さて、グリーの主張を信じれば、確率操作によって、ユーザーの結果に大きな違いはなかったことになります。では、アナザーエデンの確率操作は何が問題なのでしょうか?
失墜し続けるゲーム業界の信用
直接のユーザーはもちろん、その家族がどう思うか、そういった社会全体からの信用が失われ続けています(イラスト 橋本モチチ)
仮に、サーバーの不具合によってユーザーが気がつくということが無かった場合、グリーはこの、不正に確率を操作するプログラムの存在をユーザーに明かしたでしょうか。あるいは、きっと明かしたであろうと、ユーザーはグリーを信じることができるでしょうか。いかがでしょう、これを読んでいるみなさんは、ユーザーが気がつかなかったとしても公明正大に問題について説明してくれると信じきれるでしょうか。ガイドは、相当難しいのではないかと思います。
さらに言えば、そのゲームを遊んでいるユーザーの家族はどうでしょう。息子がゲームを遊んでいて、お金を払ってくじ引きのようなものをしているのに、その確率が操作されていたらしい、というニュースを目にした両親は、ゲームメーカーの言い分を信じてくれるでしょうか。他のゲームも似たようなもので、お金をだまし取られていると疑ったりはされないでしょうか。
ガチャが流行して以来、ゲームメーカーの不正問題は後を絶たず、ゲーム業界の信頼は失墜しきっているとガイドは感じています。ゲーム業界団体の一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)による「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」には「6. 検証に関する事項」として「(1) 有料ガチャの運営を担当する部門から独立した部門によって、ガチャの仕様の検証を行う」と記載されています。グリーも開発部門とは独立した部門が検査していると説明していますが、それでも今回の事件は起こりました。
再発防止策として、検査プロセスの強化は謳ってはいますが、それはあくまで社内の再発防止策であって、これをもって社会側から信用を勝ち得るということは難しいでしょう。ユーザーは気がつかないけれど実は確率が操作されているかもしれないという疑いはどうやったら払しょくできるのでしょうか。安心、安全、公正な運営がされていると、社会に認めてもらうためにはどうしたらいいでしょうか。今後長期に渡って運営に問題が発覚しなかったからといって、信じられるというものですらなくなっているように思います。これはグリーやアナザーエデンに限った話ではありませんが、もはや、信頼できる第三者機関による調査無くしては、透明性を確保してユーザーに安心を提供することはかなわない、そういったところまで来ているかもしれません。
ガチャというものがなんとなく信用はできないと思いつつ、ゲームが好きだという理由でお金を使っているユーザーも少なからずいることでしょう。ユーザーとそんな関係になってはいけないことは、ガイドが言うまでもないはずです。ゲーム業界が失っている信用は、取り戻すどころか、今も現在進行形で失われていく一方です。なんとか、立ち止まらなければいけません。
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