労務管理

残業代が出ない?削減されても適法となる制度とは

残業したはずなのに残業代が支払われていないかも?と思ったら、労働契約書を確認してみましょう。「1日8時間・1週40時間」の原則と異なる特別なルールで残業代の計算がされる場合があります。例外的な残業時間数のカウント方法を解説します。

小西 道代

執筆者:小西 道代

労務管理ガイド

残業代は、1日8時間・1週40時間を超えたときに支払われる

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残業代をしっかりもらえるか


労働契約書には、「勤務時間」として「9時~18時」のように始業時刻と終業時刻が明記されています。この時間を超えて働くと「残業」となり、残業代(割増賃金)が支払われることになります。しかし、会社によっては「9時~17時」の7時間勤務という場合もあり、勤務時間を超えて働くと「残業」にはなりますが、残業代の支払いは17時~18時までの1時間と18時以降の時間について、割増率が変わります。

労働基準法では、

「1日8時間、1週40時間」を超えて働かせたときに、会社は割増賃金を支払いなさい

と定めています。よって、会社の勤務時間が7時間であっても、8時間を超えるまでは通常の賃金を支払うだけで、割増賃金の支払いまでは不要ということになります。残業代(割増賃金)は、労働契約書に記載された勤務時間に関わらず、「1日8時間、1週40時間」を超えたときに支払われるという基本ルールを押さえておきましょう。
 

労働契約書に「変形労働時間制」の文字があれば、特別ルールが適用される

残業代(割増賃金)の特別ルールとして、変形労働時間制があります。最もよく使われる変形労働時間制は「1ヶ月単位の変形労働時間制」であり、他に「1年単位の変形労働時間制」や「フレックスタイム制」があります。
 
変形労働時間制とは、

一定期間の労働時間を平均して1週間あたり40時間を超えないときは、「1日8時間、1週40時間」を超えても残業代(割増賃金)を支払わない

という制度です。会社が変形労働時間制を使うときは、就業規則に「変形労働時間制」の決まりが記載されているうえ、従業員に公表されている必要があります。また、変形労働時間制を適用する従業員の労働契約書には「変形労働時間制を適用する」と記載しておかなければなりません。

1日8時間を超えて働いた日があったのに、残業代が支払われていない!というときは、就業規則と労働契約書を確認してみましょう。変形労働時間制が適用される場合、1日10時間働いたとしても、適法に残業代の支払いは不要となるのです。
 

月の労働時間数を平均して「1週間あたり40時間」に収まっていることが要件

1ヶ月のうちに、忙しい時期とヒマな時期がある業務で使いやすい制度が「1ヶ月単位の変形労働時間制」です。例えば、経理業務は月末に締め作業があり、月末に近くなるほど残業が続いてしまうが、それ以外の日は定時に帰ることができるという場合、1ヶ月の勤務時間について以下のシフトを組むことができます。
 
  • 第1週目:9時~16時(勤務時間:6時間)×5日
  • 第2・3週目:9時~18時(勤務時間:8時間)×5日
  • 第4週目:9時~20時(勤務時間:10時間)×5日

実際は曜日の並びによって多少前後しますが、上記の例だと、「1ヶ月」という一定期間内の労働時間を合計して平均すると「1週間あたり40時間」となり、シフト通り働いた時間は残業代が支払われないことになります。

1ヶ月単位の変形労働時間制は1日の労働時間に上限がないため、10時間でも12時間でも設定することができます。ただし、「1週間あたり40時間」に収まる必要があるため、他の日に4時間や6時間の勤務となっていたり、休日が週3日ある等のシフトとなっているはずです。シフト表をもらったら確認しておきましょう。
 

1ヶ月単位の変形労働時間制では、月ごとのシフトは変えられない

「1週間当たり40時間」に収まるシフトを事前に作成し、そのシフト通りに働いたときに限り、1日8時間を超えても残業代は支払われないというルールが変形労働時間制です。事前に決定されたシフトを変更することはできません。飲食店などのサービス業で使われることが多い1ヶ月単位の変形労働時間制ですが、頻繁にシフト変更が行われた結果、「1週間あたり40時間」に収まらない例もあるようです。
 
また、シフト表は1ヶ月単位で作成しなければならず、月の後半の予定が分からないからと言って前半だけのシフトを作成することや、そもそもシフト表自体を作成せずに適用させることはできません。
 
法定の要件を守らない変形労働時間制は無効となります。1ヶ月単位の変形労働時間制を適用されているのであれば、自らシフト表を確認することはもちろんですが、正しく運用されていないと認められるときには、「1日8時間、1週40時間」の基本ルールで残業代を計算し直して支払うよう会社に求めることができます。
 

「〇時間分の残業代は〇〇手当に含まれます」と注釈がつく手当があるとき

変形労働時間制の適用はないのに、残業代が支払われていない!というときは「固定残業代制」を確認してみましょう。法律で決められた制度ではないため、「固定残業代制」「みなし残業代制」「定額残業代制」など様々な名前で呼ばれています。
 
実際の残業時間数に関わらず、一定の残業時間数分の残業代を手当として支払う制度です。多くの裁判例が積み重ねられた結果、以下の要件を満たしている場合に限り、正しい制度と認められます。
 
1.固定残業代を除く賃金額が明記されていること
例:基本給〇〇円、固定残業代〇〇円

2.固定残業代部分に、何時間分の残業代が含まれているかが明記されていること
例:〇〇手当(または固定残業代)には、〇時間分の残業代を含む
※休日労働分や深夜労働分の割増賃金を含めている場合は、それぞれの時間数を記載

3.残業時間が2で定める時間数を超えたときは、別に残業代(割増賃金)を支払う旨が明記されていること
例:〇時間を超える残業時間数の残業代は、追加で支給する
 
固定残業代として10時間分の残業代が支払われているのであれば、11時間の残業をした時に初めて、追加で残業代が1時間分支払われることになります。しかし、2時間しか残業しなかった月でも全額の固定残業代が支払われるため、残業時間数を減らすよう工夫すれば、従業員にとってもお得な制度といえます。
 

労働時間を正しく報告する

会社は、従業員が働いた労働時間を管理する義務があります。仕事を始めるときと終わるとき、タイムカードやICカードで始業時刻と終業時刻を記録するよう指示されるのは、このためです。
 
他に、手書きの出勤簿や自身でエクセルに打ち込むなどの方法もありますが、つい上司の目が気になって、残業しているのに定時で記録してしまいがちです。残業は上司が指示をして行うものであり、指示があった残業は確実に記録しておきましょう。万一、過労によって倒れたときなど、長時間労働を証明するものがなくなってしまいます。

会社はムダな残業代の支払いを押さえるため、様々な制度を活用しています。1ヶ月単位の変形労働時間制も固定残業代制も、適正に運用されている限り、ムダな残業を減らし、業務の効率化UPにつながるものといえます。同じ業務を行ううえで、時間をかける人よりも効率的に短い時間でこなす人が重用される傾向にあります。
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