「ワインの国」ドイツ! 初心者向けドイツワイン完全ガイド
ドイツの飲み物といえば、ほとんどの人が最初にビールを思い浮かべることでしょう。それほどドイツビールのおいしさは有名ですが、じつはワインも世界のトップレベル。ドイツは年間1000以上ものワイン祭りが開催され、ワインの消費量世界4位、スパークリングワイン(ゼクト、セッコなど)の消費量は世界チャンピオンという「ワインの国」でもあるのです。 ここではドイツワインの歴史、種類・等級、生産地域などの基礎知識、人気銘柄やおすすめワイナリーまで、ドイツワインがまるごとわかるガイドをお届けします。初めての人でもこれを読めばドイツワイン通。ドイツで、日本で、「進化し続ける」ドイツワインをぜひお試しください!<目次>
ドイツワインの今
日本ではドイツワインというと甘口のイメージが強いですが、ドイツで普段飲まれているのは辛口が多く、アイスワインなど極甘口のワインは高価で特別なもの。この10数年、ドイツワインは目覚ましく進化し高品質のワインを生み出す醸造所が増加中。国内外のコンテストで快挙を成し遂げワイン界の注目を浴びています。ドイツワインが飛躍的に美味しくなった理由の1つは、若手の醸造家が増えたこと。グリーンハーべスト(間引き)の実践や新しい品種の栽培、ビオワインの生産、モダンでおしゃれなエチケット(ラベル)やヴィノテーク(ワインの試飲販売所)といった「改革」が行われ、ドイツワインの新時代を築いています。
食生活の変化も大きな理由です。ドイツでは近年、食への関心が高まり、グルメ雑誌やテレビの料理番組が急増してスターシェフが大活躍。自宅で料理とワインを楽しむことがトレンドとなっています。それに温暖化の影響も大。以前よりぶどうが完熟しやすくなったことから高品質な辛口ワインが主流となりました。
ドイツワインの歴史
ドイツワインの歴史が始まったのは紀元前のこと。ドイツを征服したローマ人によって、モーゼル地方、そしてライン地方にぶどうがもたらされました。330年にはトリアに最古のワインケラー「ホスピチエン連合醸造所」が誕生。
800年頃になると、西ヨーロッパを支配していたフランスのカール大帝によって修道院でのワイン造りが発展。インゲルハイム滞在中のカール大帝が、ライン川対岸の地がぶどう栽培に適していることに気づいて作付けを命じたことは伝説となっています。
30年戦争(1618~1648年)前には史上最大規模だったドイツのぶどう畑もこの戦争で荒廃。北部や東部など多くの生産地が栽培を断念することになりました。
1775年、ラインガウ地方への収穫許可を伝える騎馬伝令が遅れたために腐敗(貴腐化)したぶどうからシュペートレーゼ(遅摘みぶどうから造るワイン)が誕生。
1787年、トリアの選帝侯がワインの品質向上のためリースリング種への植え替えを命じ、世界最大規模のリースリング栽培地域が誕生。
1830年、放置されたまま凍ってしまったぶどうを試しに圧縮したことからアイスワインが誕生。
1949年、ドイツワインの広報機関「ドイツ・ワインインスティトゥート(DWI)」設立。
同年、初の「ドイツワインの女王」を選出。
1971年、ワイン法の制定。生産地域や畑の名称、品質等級などがラベルに明記されるようになりドイツワインの基礎を築きました。
1990年、東西ドイツの再統一後、ワインの生産地域は13地域に。
2001年、ドイツ人のワインへの出費がビールへの出費を上回るという歴史的事件が勃発! 現在ではその差はますます開いています。
白が主流! ドイツワインの特徴や代表的な品種
ドイツはワイン生産地のなかでは最北に位置し、涼しい気候。ぶどうがじっくりと熟すため、多くのアロマ成分が形成されニュアンス深い味わいになります。香り豊かでフルーティ、いきいきとした酸とミネラル感、繊細で洗練された味わいがドイツワインの特徴といえるでしょう。ドイツで栽培されているぶどうは1980年以前は白ワイン品種が約9割を占めていましたが、気候の変化や赤ワインブームの影響で現在は赤ワイン品種の割合が3割を超えています。
ドイツを代表する白ワイン品種といえば、世界でも高く評価されているリースリング。全世界の栽培面積の60%をドイツが占めています。次に多いのがミュラー・トゥルガウ。その他ジルヴァーナー、グラウブルグンダー(ピノグリ)、ヴァイスブルグンダー(ピノブラン)など多彩な品種が栽培されています。
赤ワイン品種ではシュペートブルグンダー(ピノノワール)が一番多く、世界3位の栽培面積。最近はシュペートブルグンダーから白ワインを造る「ブラン・デ・ノワール」もトレンドとなっています。
ドイツならではのこんなワインも
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ドイツワインの等級と格付け、甘口や辛口など味覚の表記
ドイツワインの品質等級は大きく分けて4つ。最上級のプレディカーツワインは果汁糖度や収穫方法によってさらに6つに分けられ、エチケット(ラベル)に表示されます。
1.プレディカーツワイン(生産地限定格付上級ワイン)
厳密な規定をクリアした最上級ワイン。次の6ランクに分類されます。
- カビネット:軽やかな低アルコールワイン。
- シュペートレーゼ:遅摘みぶどうから造る。エレガントで力強いワイン。
- アウスレーゼ:完熟ぶどうから造る。通常は甘口ワイン。
- ベーレンアウスレーゼ:完熟し貴腐菌がついたぶどうから造る高貴な甘口ワイン。
- トロッケンベーレンアウスレーゼ:貴腐菌がつき干しぶどうのようになったぶどうから造る、蜜のような甘口ワイン。
- アイスワイン:ぶどうが凍った状態で収穫・圧搾して造る、自然な甘みが凝縮されたワイン。
ドイツで一番多く生産されている品質等級。検査に合格した番号をエチケットに表記。
3.ラントワイン(地元産ワイン)
各地方の特徴が出ているシンプルなワイン。辛口か中辛口に限定。
4.ドイチャーワイン(ドイツ産ワイン)
産地表記は不要。ドイツではこのランクのワインはほとんど生産されていません。
この他の表記に、クラシック(各地方の典型的ぶどうから造られた辛口クヴァリテーツワイン)、エアステス・ゲヴェックス/グロース・ゲヴェックス(一級畑から造られるトップクラスワイン)などがあります。
味覚の表記はトロッケンTrocken(辛口)、ハルプトロッケン Halbtrocken(中辛口)、リープリッヒ Lieblich(やや甘口)、ズュース Süß(甘口)に分けられます。
ドイツワインの生産地域と人気の銘柄
ドイツには13のワイン生産地域があり、地域のなかのさらに小さい地区単位をべライヒ(通常は複数の畑の集合体)といいます。上の分布図を見ると南西部のライン川沿岸に集中していることが分かりますね。それぞれの特徴をみてみましょう。●アール地方/ボンの南約40kmのあたりに流れるアール川流域。
ドイツで最も小さなワイン生産地域のひとつで、他の生産地と異なり85%を赤ワインが占めています。
●モーゼル地方/トリアなどを流れるモーゼル川流域。
ドイツ最古のワイン生産地域。川沿いの斜面に広がるテラス状の畑から高品質のリースリングが生産されます。最優良畑「ドクター」は世界的に有名。「シュヴァルツェ・カッツ(黒猫)」は日本で人気の銘柄です。
黒猫のチケットが目印の「シュヴァルツェ・カッツ」。画像はAmazonより:http://amzn.asia/d/8vtsL6w
●ナーエ地方/バート・クロイツナハなどを流れるナーエ川流域。
多様な土壌から幅広い種類のワインが生産されます。宝石用原石採掘の中心地イーダー・オーダーシュタインでは宝石付きボトルワインを毎年リリース。かつて聖女ヒルデガルトが暮らしたディジボーデンベルク修道院では11世紀からワイン造りが行われていました。
●ミッテルライン地方/ビンゲンとボンの間のライン川流域。
ビンゲン・コブレンツ間のロマンチックな景観は世界遺産にも登録。急斜面でのぶどう栽培は困難ながらリースリングにとって理想的な畑が多く、繊細で活き活きとした酸味のワインが造られています。
●ラインガウ地方/ヴィースバーデンの東からリューデスハイムの北にいたるライン川流域。
リースリングの栽培面積が90%を占め、爽やかでフルーティな酸味と個性豊かなミネラリッシュな風味を持つワインが造られています。シュペートレーゼ発祥の地ヨハニスベルク城やエーバーバッハ修道院など名所も多数。
●ラインヘッセン地方/マインツ、ビンゲン、ヴォルムスに囲まれたドイツ最大の生産地域。
「千の丘の国」とも称されるなだらかな丘陵地帯にワイン村が点在。日本で人気のドイツの代表的白ワイン「マドンナ」の故郷はヴォルムス。世界最大の栽培面積を誇るジルヴァーナー種の他、ミュラー・トゥルガウやリースリングなど品種は多彩で、赤ワイン品種も30%栽培されています。ヴィンツァーゼクト(原産地指定のスパークリングワイン)も有名。
ゼクトの王様と称されるゼクトの最高峰「ラウムラント」:画像はAmazonより引用 http://amzn.asia/d/1dJTb6p
●プファルツ(ファルツ)地方/ヴォルムスの南からバート・デュルクハイム、ダイデスハイム、ノイシュタットなどを通るドイツワイン街道。
風光明媚なワインの町が多く観光地としても人気。世界最大のリースリング栽培地域。赤ワイン種も40%栽培されています。
数々の賞を受賞しているダイデスハイムの銘醸「フォン・ウィニング」 画像はAmazonより引用 http://amzn.asia/d/5NGh4Kd
●ヘッシッシェ・ベルクシュトラーセ地方/ネッカー川、ライン川、マイン川に挟まれ、オーデンヴァルト山地に隣接。
ドイツ最小のワイン生産地域でドイツで一番春の訪れが早い地方。栽培面積の約半分をリースリングが占め、ほとんどが地元の消費者に販売されています。
●バーデン地方/北のタウバー川から南のボーデン湖まで南北400kmにわたる。
ドイツで最も暖かい地域。南部はブルゴーニュの延長とも言われ、ブルグンダー種(ピノ種)の栽培が盛ん。マイルドな酸味の白ワインのほか、赤やロゼワインも造られています。
スタイリッシュで高品質なワイン造りで注目の「ハイトリンガー」 画像はAmazonより引用 http://amzn.asia/d/6740caE
バーデン地方と並ぶドイツ最南のワイン生産地域。70%を占める赤ワイン品種はトロリンガーをはじめレンベルガー、シュペートブルグンダーなど多彩。白ワイン品種はリースリングを主に栽培。
●フランケン地方/ヴュルツブルクを中心にマイン川流域。
ボックスボイテルと呼ばれる平たく丸い形のボトルが特徴。力強い辛口のジルヴァーナー種のワインで知られています。有名な畑の「シュタインワイン」は文豪ゲーテのお気に入りでした。
●ザーレ・ウンストルート地方/東部フライブルクを中心に広がる。飛び地としてポツダム近郊。
ドイツ最北のワイン生産地域。厳しい気候により収穫量が少ないため、繊細で爽やかなワインが生まれます。有名ゼクトメーカー「ロートケプヒェン(赤ずきんちゃん)」にはレストランも併設。
●ザクセン地方/ドレスデン近郊、マイセンとピルナの間のエルベ川流域。
ドイツ最北東のワイン生産地域。寒暖の差が激しい大陸性気候により良質のぶどうが育ち、高品質の白ワインが生産されています。生産量が少ない希少価値の高いワインなので地元で味わうのが一番。
ドイツワインめぐりの旅へ! おすすめのワイナリーやレストラン
ドイツでは風光明媚なワイン生産地で休暇を過ごすのがトレンドとなっています。多くの醸造所が宿泊施設やレストランを経営しているので、美味しいワインとともに名物料理を楽しんだ後はそのままベッドへ直行! なんてことも可能。ワイン好きにはたまりませんよね。そんな極楽旅におすすめのワイナリーやレストランをご紹介します。●ワイングート・ハイトリンガー/ハイトリンガー・ゴルフ・リゾート バーデン地方の豊かな自然のなかに突如現れるモダンでラグジュアリーなリゾート。「ハイトリンガー」はホテルやレストランの他にゴルフ場まで完備する人気ワインメーカーです。カジュアルラインから高級ワインまで多彩なワインを生産していますが、1級畑のリースリングは極上の味わい!
■Weingut Heitlinger
●ワイングート・ハンス・ヴィンター 押しも押されぬ人気観光地ハイデルベルクは、知る人ぞ知るワイン産地でもあります。中心地の近くにある「ハンス・ヴィンター」は、古くから地元の人たちに愛されている家族経営のワイナリー。約5ユーロ~という良心価格も素敵です。ハイデルベルク城の有名な「大樽」を見学した後にぜひ訪れてみてください。
■Weingut Hans Winter
参考記事>>>ロマンチックな城下町ハイデルベルクのおすすめ観光
●ワイングート&ラントホテル・ルーカスホーフ プファルツ地方のワイン街道にある「ルーカスホーフ」は、高品質のリースリングワインで知られる家族経営の醸造所。繊細でまろやかな日本人好みのワインが揃っています。アットホームな宿でのんびり過ごしながら心ゆくまでワインを楽しむ旅は、きっと忘れられない思い出になることでしょう。
■Weingut&Landhotel Lucashof
●ワイングート・フォン・ウィニング/レオポルト・レストラン ワイン街道の町ダイデスハイムにある「フォン・ウィニング」は1848年設立の歴史ある銘醸ワイナリー。大量生産とは一線を画す土地の個性を表現したワインが高く評価されています。VDP(ドイツ優良生産者組合)設立の功労者である元オーナーの名を冠したレストラン「レオポルト」ではザウマーゲンなどの郷土食を取り入れつつもモダンにアレンジされた料理がいただけます。
■WEINGUT VON WINNING/REOPOLD RESTAURANT
●レストラン・グートレーベン・アム・モアシュタイン 特級畑Morsteinで知られるラインヘッセン地方、ヴェストホーフェンにある歴史的建造物をいかしてつくられた「グートレーベン」は、シックなホテルやイベントスペースが併設された瀟洒なレストラン。地元産の新鮮な素材を使った美味しい料理とワインがいただけます。ハーブや花々が咲くテラスでのひと時も素敵です。
■Restaurant GutLeben am Morstein
●ゼクトハウス・ラウムラント この十数年、ドイツのゼクト(スパークリングワイン)界で不動の王様といえばここ! ゴーミヨ他国内外のコンテストの常連で、フランスの有名シャンパーニュと並ぶ評価を受けているゼクト専門醸造所「ラウムラント」。「ヴィンツァーゼクト(厳しい規定に沿って造られる生産者元詰ゼクト)の父」と称されワイン雑誌の表紙を飾るほど有名なオーナーの情熱とこだわりの結晶をぜひ味わってみてください。
■Sekthaus Raumland
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取材協力・参考資料:ドイツ観光局 ドイツ・ワインインスティトゥート