「肌色」のクレヨン・絵の具・色鉛筆が消えた理由は「人種差別」?
<目次>
クレヨン、絵の具、色鉛筆から、「肌色」がなくなったのはご存知でしょうか。消費者から「差別的だ」と批判が寄せられたことをひとつのきっかけに、業界団体が集まって「肌色」に代わる色名を検討しました。「肌色は実際の肌の色を示すものではなく日本固有の慣用色」という意見もあったそうですが、最終的にメーカーの判断によって、色鉛筆は2000年、クレヨンと絵の具は2007年に「肌色」という色名の使用を取りやめ、新しい色名「うすだいだい」に変更となりました。 法務省の資料によると、2017年末における中長期在留者数は223万人超、特別永住者数は32万人超、これらを合わせた在留外国人数は256万人を超え、過去最高となりました。幼稚園や保育園にも、外国人の子女が増えています。
外国人に限らず、同じ日本人であっても、肌の色は人それぞれ異なります。「肌色」使用の取りやめは、お絵かきの時間に、クレヨンなどの「肌色」を巡って、差別やいじめが起きないようにという配慮があったと思われます。
「肌色」は、人間の肌色を忠実に再現したものではない
ところで、肌色とは、具体的にどんな色を指すのでしょうか? 上図は、JIS慣用色名、DICカラーガイド、パントンカラーなどの色見本帳や参考書籍から、肌色に関連する記述をまとめたものです。詳細は下記のとおり、左から順に説明します。■JIS慣用色名 肌色(はだいろ)うすい黄赤
【参考】人間の肌の色を肌色という。当然のごとく日本人の肌色だが、実際の色とは少し異なり、人形などに使われる理想化された色といえる。肌色は古代には穴色(ししいろ)や肉色(にくいろ)、人色(ひといろ)といわれた。
マンセル値:5 YR 8.0/5.0
『日本の色世界の色 写真でひもとく487色の名前』(永田泰弘著/2010年/ナツメ社)
■DIC-N734 膚色(はだいろ)うすい黄赤
【参考】日本人の肌色をいう。肌色は実際の色よりも明るくきれいな色に記憶されているものであって、色名は多くの場合記憶色の範囲を言っているのが実状である。この色も実際の肌色より明るい。
マンセル値: 2.6 YR 8.0/6.0
DIC デジタルカラーガイド
■PANTONE 12-0911 TCX Nude
マンセル値(参考):3.8 YR 8.6/3/0
解説にあるように、JIS慣用色名の「肌色」もDIC日本の伝統色の「膚色」も、実際の肌色を忠実に再現したのはなく、理想化された肌色のイメージを表したものです。色見本の肌色は、人形の肌色に近く、人の肌色とはずいぶん違っています。
クレヨンなどの肌色も、色見本帳の肌色と同じように、実際の肌の色とはずいぶん異なっています。
人間の脳が記憶する色は、実際の色よりも鮮やか
また、解説にある「記憶色」とは、人がイメージとして記憶した色のことで、「印象色」とも呼ばれます。空や海の青、桜のピンクの花びら、紅葉の赤や黄色など、人間は実際の色よりも鮮やかに記憶する傾向があります。そのため、写真や映像は、実際の色ではなく記憶色を再現するように調整されています。なぜなら、実際の色を再現しても、私たちの脳は違和感を感じるからです。 たとえば、家電量販店のテレビの売り場に行くと、メーカーや機種によって、テレビの画面に映し出される色が微妙に違っていることにお気づきになるでしょう。このような色の違いは、ディスプレイの性能の違いだけでなく、どのような記憶色を再現するのか、メーカーや機種によって異なることも原因のひとつです。 古今東西の名画に描かれた肌色も、人間の肌色を忠実に再現したものではなく、画家の心をとらえた色が描かれています。特に、印象派以降の絵画では、その傾向が強くなっています。 デジタルカメラやスマートフォンのカメラには、画質設定機能があり、「風景」「ポートレート」といったプリセットが用意されています。「風景」にすれば、木々の緑はより鮮やかになり、「ポートレート」を選べば、美しい肌色が再現されます。記憶色には個人差がありますので、マニュアル設定を利用すれば、撮影者にとって心地よい色をきめ細やかに再現することも可能です。このように、肌色に関する科学技術は進歩しており、新しい芸術表現も生まれています。しかし、教育においては、大きなジレンマを抱えることになっているのかもしれません。
「肌色」を「うすだいだい」としたのは、ぴったりの表現
色見本には、マンセル値という数値が記載されています。マンセル値とは、色相、明度、彩度を数値や記号で表現する方法です。上図は、JIS慣用色名の「肌色」、DIC日本の伝統色の「膚色」、PANTONEの「NUDE」の色相、明度と彩度の違いを表したものです。この3つの色は、色相はYR(だいだい)に分類されます。膚色は赤みが強く、肌色は黄みが強く、NUDEは中間に位置付けられます。明度は10段階あるうちの8.0~8.6なので高明度に、彩度は3.0~6.0なので低彩度に分類されます。
色相の「だいだい」と「うすい」というトーンを組み合わせた「うすだいだい」という色名は、正確な表現と言えるでしょう。
「肌色」は13番目の基本色カテゴリー
鮮やかさや明るさ、色みなどが微妙に異なる複数の色をまとめたグループのことを「色カテゴリー」と呼びます。色カテゴリーとそれを表す色名語は、色概念の表現の進化とともに増えていくと考えられています。近代的文化圏の言語では、11の基本色カテゴリー(赤、緑、青、黄、紫、ピンク、茶、オレンジ、白、灰、黒)が確認されています。東北大学電気通信研究所の栗木一郎准教授らの研究グループによる研究報告では、日本語には「うすだいだい」に相当する色カテゴリーがあり、82パーセントの人が「肌色」という色名を使っていることが明らかになりました。これは「水色」の98パーセントに次ぐ割合なので、「肌色」は13番目の基本色カテゴリーとなりうる可能性を示唆しています。
「肌の色」の表現はますます重要に
Pantone Skin Tone Guide (画像はAmazonより:http://amzn.asia/d/9VXONLj)
クレヨンなどの肌色が、差別やいじめの原因になるのではと心配する声がある一方で、肌色の美しさを探求する人々はますます増えています。たとえば、米国パントン社は、2012年、110色のリアルなスキントーンを収録した「パントン・スキントーン・ガイド」を発売しました。
インスタグラムの流行に象徴されるように、スマートフォンで手軽に美しい写真を撮れるようになり、アプリを使って簡単に写真を盛ることができます。目の肥えた人々を満足させるために、とりわけ、デジタルデバイスや印刷、化粧品や美容の分野では、科学的に肌色の謎を解明し、より美しい表現を探求しています。
【参考】
平成29年末現在における在留外国人数について(確定値)(平成30年3月27日/法務省)
Kuriki I., Lange R., Muto Y., Brown A.M., Fukuda K., Tokunaga R., Lindsey D.T., Uchikawa K., & Shioiri, S. (2017). The Modern Japanese Color Lexicon, Journal of Vision(in press).doi: 10.1167/17.3.1
パントン・スキントーン・ガイド(PANTONE STORE JAPAN)
ガイドの最新情報は、Twitter、Facebookページ、公式サイトをご覧ください。
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