伝説のバンドの栄光と挫折を描く『ジャージー・ボーイズ』

9月7日~10月3日=シアタークリエ、その後秋田・岩手・愛知・大阪・福岡・神奈川を巡演

『ジャージー・ボーイズ』の見どころ
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

1960年代に人気を博したバンド“フォー・シーズンズ”が辿った軌跡をミュージカル化し、2005年にブロードウェイで初演。翌年のトニー賞でミュージカル作品賞を含む4部門を受賞し、14年にはC・イーストウッド監督による映画版も公開された傑作が、16年の日本初演を経て、待望の再演をスタートさせます。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

「シェリー」「君の瞳に恋してる」等、世代を超えて愛されるフォー・シーズンズの楽曲をふんだんに使いつつ、バンド名に因んで物語を春夏秋冬の4パートに分け、メンバー4人が代わる代わるナレーターをつとめるという、巧みな構成が大きな特色。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

前回の公演で高い評価を受けた藤田俊太郎さん(演出)、バンドのメンバーのうちフランキー・ヴァリ役の中川晃教さん、チーム・ホワイトの中河内雅貴さん・海宝直人さん・福井晶一さんが続投するのに加えて、今回は伊礼彼方さん・矢崎広さん(続演)・spiさんから成るチーム・ブルーが誕生。中川さんとどんなコーラスを作り上げるか、大きな注目を集めています。

観劇レポート:練り上げられた演出・演技が魅せる“輝かしい人生”
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

ステージ上で若い歌手たちが歌う、ヒップホップ調のナンバー。客席後方から「あれは30年前の俺たちの曲(のカバー)だ」という声が聞こえ、声の主トミーは舞台へと上がってくる。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

物語を始めるのは俺だ、という彼は、兄(後に脱退)と友人のニックとともに始めたバンドに“天使の歌声”を持つフランキー、そしてシンガーソングライターのボブを迎え入れた経緯を語り、次にナレーションを引き継いだボブは、“フォー・シーズンズ”と改名したバンドが「シェリー」を皮切りに大成功を収める様を。ニックはその後のトラブルと自分が脱退するまで、そしてフランキーはソロとしての成功と自身の家族の悲劇を語る。4人はそれぞれの道を歩み始めるが……。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima


一つのバンドの栄光と挫折を、バンド名に因んで春夏秋冬の4章に分け、4人のメンバーが代わる代わる、自身の視点で語ってゆく。映画版でもそのまま使われた鮮やかな手法で構成された舞台は、初演同様、スターダムに上り詰めてゆく彼らを象徴するような3層構造のセット(美術・松井るみさん)の中で、藤田俊太郎さん演出のもと、よりスピーディーに展開。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

例えば歌唱シーンのいくつかにおいては前後に登場するシーンの登場人物が最上階に佇んでおり、意識の流れを途切れさせずに移り変わってゆく演出が効果的です。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

いっぽうでキャラクターの造型や関係性は緻密に、丁寧に描き込まれており、例えば無名時代のフランキーたちを見出すプロデューサーのボブ・クリュー役(太田基裕さん)は、平素は恋人らしきエンジニアと戯れているがひとたびヒット曲のにおいをかぐとスイッチが入り、情熱的に采配を振るうといった細やかな造形が見られ、隅々まで密度の濃い作り込みがなされていることがうかがえます。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

また音楽面について、筆者はボブ役の海宝直人さんから、初演では“一つの音の中にある微妙な高低にもこだわって皆で声を合わせた”と聞いたことがありますが、今回もさらに厳密に“音”に取り組まれたのでしょう、皆のコーラスにもいっそうの磨きがかかり、最近のポップスには無い、多重唱の美しさ、心地よさを存分に味わわせてくれます。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

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初演に引き続き、バンドのメインボーカル、フランキー・ヴァリを演じるのは中川晃教さん。高音の駆使が特徴的な楽曲にも怯まず、おそらくは研究を重ね、今や完全に自身の体内に取り込んでいるかのような歌唱に唸らされます。歌手としては成功を収めるも、家庭人としては不器用で、妻や娘との関係性に苦慮する“陰”の表現も的確。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

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『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

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トミー役の中河内雅貴さんは、その強引なまでの行動力で物事を進めてゆく“兄貴分”を勢いよく、さっぱりとした気性で表現。同役の伊礼彼方さんは明るく、力強い口跡にナチュラルなリーダーシップがあり、どちらも中盤以降、仲間たちに迷惑をかけ通しであるにも関わらず何とも憎めないのは、ご自身のお茶目な持ち味によるところも大きいのでしょう。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

 
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima


ボブ役の海宝直人さんは、最年少キャラクターとしてはじめはナイーブに見えるも、実はビジネス感覚も持ったしっかり者のクリエイター(例えばアンドリュー・ロイド=ウェバーのような)であり、実はバンドの成功と崩壊両面のきっかけを作った人物を骨太に体現。いっぽう同役の矢崎広さんはシャープで頭脳明晰なアーティスト像です。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

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『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

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そしてニック役の福井晶一さんは、フォー・シーズンズにおける“リンゴ・スター的存在”に甘んじながらもある日、鬱屈が爆発し、歌への情熱がぷつりと切れてしまう役柄を人間くさく表現。コーラスにおける安定感たっぷりの低音も魅力です。初参加のspiさんが演じるニックは柔和であまり激しい主張を好まない人物らしく、だからこそ積年の不満が噴き出る台詞に決死の思いが滲みます。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

またマフィアのボスや会計士等いくつもの役を担当する阿部裕さん、同じく金貸しのノームやトミーの兄らを演じる畠中洋さんが、全く異なるキャラクターを楽し気に演じ分け、ベテランの存在感を放ちます。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima


フランキーの妻メアリー役の綿引さやかさんは、もとはセクシーで魅力的だったのが、結婚生活の寂しさから自己破滅してゆく(当時は珍しくなかったかもしれない)女性の哀しさを醸し出し、離婚後にフランキーが付き合ったガールフレンド、ロレイン役の小此木まりさんは、メアリーとは対照的に自立し、ドライな感覚を持つロレインをスマートに体現。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima


さて終盤、舞台は寂しく終わりかけるも、とっておきの出来事が描かれ、観客の心は救われます。記憶の中の輝ける日々は、いつまでも色あせることは無い。人生は一回きりなのだから、思いきり生きてみよう……。
『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima

『ジャージー・ボーイズ』(C)Marino Matsushima


今回の『ジャージー・ボーイズ』は観る者をそんな気持ちにさせ、背中を押してくれる舞台となっています。

*『ジャージー・ボーイズ』公式サイト

*次頁で『マイ・フェア・レディ』をご紹介します!