不朽のラブストーリー、舞台版が初上陸『ゴースト』
8月5~31日=シアタークリエ、9月8~10日=サンケイホールブリーゼ、その後久留米、刈谷にて上演
【『ゴースト』見どころ】
ロマンティック・ラブストーリーの決定版として映画史に残る『ゴースト』が、英国のポップ・バンド、ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートらの手でミュージカル化。11年に英国で初演された舞台が、満を持して日本に上陸します。
相思相愛のカップル、サムとモリ―が、サムの突然の死によって引き裂かれ、モリ―は絶望のどん底に沈むが、実は彼の死にはある背景が隠されていた……。サスペンス要素もコミカル要素も盛り込みつつ、男女の至上の愛を魅力的なメロディに乗せて描く舞台を、浦井健治さん(サム役)、咲妃みゆさん/秋元才加さん(モリ―役・wキャスト)、平間壮一さん(サムの同僚カール役)、森公美子さん(オダ・メイ役)らのキャストがどう演じるか。日本人の感覚を生かし、欧米版とはまた異なる死生観も加わった、美しく、忘れ難い舞台の誕生が期待されます。
【モリ―役(wキャスト)・秋元才加さんインタビュー】
あたたかなものを感じていただけたら嬉しいです
秋元才加 千葉県出身。2006年AKB48のメンバーとしてデビュー、13年に卒業。主な出演作に舞台『ロックオペラ モーツァルト』『国民の映画』『シャーロック・ホームズ2~ブラッディ・ゲーム~』『にんじん』等。14年にはフィリピンの観光親善大使に就任。女優として映画、ドラマ、舞台に出演する傍ら、スポーツ番組のMCを務めるなど幅広く活躍中。(C)Marino Matsushima
「有名な“ろくろのシーン”や挿入曲(“Unchained Melody”)のことは知っていましたが、全編を観たのは今回の出演が決まってからです。最近の映画にはあまり無いシンプルな作りのラブストーリーで、胸にストレートに伝わるものがあり、泣いちゃいましたね。私は今年、30歳になるのですが、年齢的に、結婚や将来について心が揺れ動くヒロイン(モリ―)とリンクする部分もあって、余計に響くものがあったのかもしれません」
――この世とあの世の人間が、互いを思いやって“会いたい”という気持ちを募らせてゆく、という部分についてはいかがでしょうか?
「今回、演出のダレン(・ヤップ)さんからはじめに“死後の世界を信じますか?”と聞かれ、私は“信じます”と答えました。というのは、何か不安になったり、新しいお仕事が決まる度に私は祖父母のお墓参りをしていまして、(お墓の前で)つらつらと話すだけなのに、守られているというか、“頑張ってね”と背中を押してもらっているような気がします。ですので、本作の中で(生きている側があちら側の存在を)感じるということについて、私の中に違和感はありませんでした」
――舞台化にあたって、海外ではプロジェクションマッピングなど、様々な要素が駆使されているようですが、今回はどんな演出になりそうでしょうか?
「ダレンさんは“日本版はよりドラマ性をフォーカスしたい”とおっしゃっていて、映像効果も少しは入る予定ですが、それよりいかに感情を引き出しながら人間模様を見せるか、というところが中心になっていると思います」
――本作にはサスペンス的な要素もあり、かなりハラハラドキドキさせられますが、それだけで終わらないために重要になってくるのが、モリーという人物の内面描写なのかもしれません。ご自身はどうとらえていらっしゃいますか?
「もちろん主人公は浦井(健治)さん演じるサムなのですが、サムは序盤で亡くなってしまうということもあって、多くのお客様は生きている側のモリ―を通して物語を追って行かれるかなと思います。出番も楽曲も多いですし、幸せな状態からどん底に突き落とされ、そこから愛や生き方について考え、前に進んでゆくまでを、ミュージカルという形式の中で演じる。明確に、丁寧にモリ―の心の機微を表現しないと、ただパズルのピースをはめこんだようになってしまうと思うので、難しい役だなと感じています」
――お稽古は今、どんな段階でしょうか?
「2幕まで(段取りは既に)ついています。これからは細かいところを修正しながら、より丁寧な描写が追求されていくと思いますね」
――ご自身がキャスティングされた理由が分かった瞬間はありましたか?
「モリーは可憐でか弱くて男性に守られたい、甘えた女子じゃないよ、とダレンさんには言われています。タフで自立している強い女性ということで、こういう(長身の)ビジュアルの私を起用していただけたのかなと思います。またミュージカルの世界ではまだ経験が浅いので、この世界での伸びしろに期待してくださったのかもしれません」
――サム役の浦井健治さんはどんな共演者ですか?
「私が連日“どうしよう”とテンパっているのを、“大丈夫だよ、できるできる”と励ましてくださって、“どんなふうに来ても大丈夫だよ、まずやってみよう”とどっしり受け止めてくださいます。委ねるところは委ねていいんだなと安心しながら、一緒にお芝居させていただいています」
――モリ―役は咲妃みゆさんとのwキャストですが、差別化を意識されていますか?
「ルックスも声質も全然違う二人なので、舞台に立った瞬間から全く違うモリ―になると思います。咲妃さんは見た目はフェミニンだけど芯のあるモリ―を演じていらっしゃって、歌声や表情から力強さが滲み出ています。私はぱっと見た瞬間から力強く見えると思うので、その力強さをそのまま歌声に乗せていけたら。お芝居はこれまでいくつかやらせていただいてきて、不安感はそれほどないのですが、そこに音楽が入ってくると(音符に)振り回されがちなので、歌になった瞬間に伝えたい気持ちが弱くならないように、と意識しています」
――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?
「観た方が、自分は大切な人……恋人に限らず友人であったりおじいさん、おばあさんであったり……に守られているんだな、と感じていただける舞台になったらいいなと思います。今回、オダ・メイ役の森公美子さんが宮城県のご出身で、(本作が生と死を扱っていることで、東日本大震災の)“被災地でもこの作品をやりたかったね”とよくおっしゃっているんです。いろいろな思いが溢れてくる作品なんだなと感じますね。ご覧になった方が、あたたかく、前向きになっていただける舞台になるよう、私ももっともっと深めていきたいです」
――秋元さんは『シャーロック・ホームズ2』など、ミュージカルにも何本か出演していらっしゃいますが、ミュージカルというものを秋元さんはどうとらえていらっしゃいますか?
「ストレートプレイも素晴らしいけれど、そこに音楽が加わることで、お芝居のすばらしさを増幅させてくれる。音楽の力ってすごいなと思います。演じていても、音楽がかかるとすっと哀しくなったり愛おしい気持ちになれるんですよね。感動を倍にしてくれる可能性のある舞台だと思います。
私はもともと歌が好きだったけれど、ミュージカルで(自在に)表現できるというほどの自信は持っていませんでした。今回、『ゴースト』というチャンスをいただけたことはとても有難くて、もっともっと歌うことが好きになりたい、もっと歌がうまくなって表現の幅を広げて行きたいと思って挑戦させていただいています」
――どんな表現者を目指していますか?
「与えていただく役に応じて、ミュージカルであれば歌唱力に表現力に体力と、常に求められるものを備えた人になりたいです。今年30歳になるのでこれから変わってくるかもしれませんが、今は“この役、あとちょっとで手が届くかな”というお仕事に対して、もがきながらやっていく時期なのかな。もう少しもがきながら、挑戦していきたいと思っています」
『ゴースト』観劇レポート【キャストの好演とデジタル/アナログを使い分けた演出が感動を呼ぶ、“生死の境”を超えた愛のドラマ】
掘り出し物の物件での新生活に胸膨らませるサムとモリ―の熱々ぶりを、微笑ましく見守るカール。完璧に見える日々の中で、モリ―にははっきりと愛を口にしないサムへの不満があった。“愛してる”ではなく“ditto”と言う彼に、モリ―は結婚を持ちかけるが、その直後にサムは暴漢に襲われ、倒れる。 サムはすぐに起き上がり、暴漢を追いかけようとするが、そこに自分の体が横たわるのを目撃して愕然。病院の廊下で“病院のゴースト”に諭され、自分の死を受け入れざるをえなくなるが、自分を襲った暴漢がロフトに侵入したことで、事件が偶然ではなく、計画的なものだったことを知る。モリ―に迫る危機を伝える術を持たないサムは途方に暮れるが、ひょんなことから怪しげな霊媒師、オダ・メイに自分の声が聞こえることが判明。“耳元で耐えがたい歌を歌い続ける作戦”で、何とか彼女の協力を取り付けるが……。 デジタルとアナログの使い分けが光る演出
人間の目には見えないゴーストが壁を通り抜け、モノを投げ飛ばすなど、様々な超常現象が描かれる本作。その表現についてはプロジェクションマッピングなど、テクノロジーの利用が容易にイメージ出来、実際、随所に登場はするものの、サムの(いわゆる)幽体離脱の瞬間や死者が地獄に引きずり込まれてゆく瞬間など、多くの場面は役者たち自身によって演じられます。アナログながらアイディアの効いた演出(ダレン・ヤップさん)と役者たちの息のあった演技は、とおりいっぺんなサスペンスドラマではなく、あくまで人間ドラマ、そして生死の境を超えた魂の交流を描く今回の日本版『ゴースト』を象徴。
浦井健治さんのさりげない愛情表現に注目
なかでもサム役の浦井健治さんが、ゴーストとなって以降、混乱・絶望・愛情・憎悪など様々な感情渦巻く様を鮮やかに演じ、(真実を知るために)“出来ることをやってみよう”と立ち上がったモリ―に頷き、実際には触れられないものの彼女の手をとって歩こうとする仕草など随所で彼女への深い愛を見せることで、終盤のクライマックスをいっそう感動的なものに見せています。 またwキャストのモリ―役、咲妃みゆさんはのびやかな歌声と等身大のワーキング・ウーマンのふぜいが女性の観客の共感を呼び、秋元才加さんはサムや人生に対する願望が明確な女性像を、大きな瞳を生かして表現。その瞳を閉じてろくろを回していると背後からサムが抱きしめてくる(と感じる)、映画版でも有名なラブシーンも、短いながら官能的な仕上がりです。
サムの同僚でサム、モリ―の友人役、平間壮一さんは今回、彼にとっては初と思われる意外な役どころに挑んでいますが、ステレオタイプに落とし込まないそのアプローチが、人間がいかに環境に影響されやすい、弱いものであるかを思い起こさせてリアル。そしてオダ・メイ役の森公美子さんは、迫力の歌声と抜群のコメディ・センスで登場の度に場の空気をがらりと変えますが、終盤にはある“奇跡”のきっかけをつくり、コミカルから今度は一瞬にして場を引き締める存在へと転じています。“病院のゴースト”役でゴスペル調のナンバーをのびのび、かつシニカルに聴かせるひのあらたさんや、“地下鉄のゴースト”の鬱屈をタップ的な動きで表現する西川大貴さんら、アンサンブルの方々もそれぞれに活躍。 情景としては映像を駆使したくなるであろうラストシーンでは再び、シンプルでアナログな演出が登場。ムードで見せるのではなく、俳優の演技をしっかりと見せる趣向は、演出家・ダレンさんの俳優たちへの信頼を示しているようにも見えます。悲しくはあっても、希望が見える。観ている側にもモリ―のように、生きる勇気が漲ってくる、爽やかな幕切れであると言えましょう。
『ゴースト』公式サイト
*次頁で『in touch』をご紹介します!