日本の劇界でこつこつと培って来た実力が認められ、海外に招かれた彼らは、どのようにチャンスを掴み、現地で何を得て来たのか。ミュージカルファンはもとより、いつかは海外の舞台でも活躍したい!と夢見る若い方々に向けて、この特集では最近、英米での活躍を果たしたミュージカル界の逸材たちにインタビュー、随時掲載していきます。その貴重な体験談を、どうぞお楽しみください!
*目次*
海宝直人さん(ロンドン『Trioperas』に出演)本頁
綿引さやかさん(ハリウッド・ボウル『美女と野獣』に出演)2頁
海宝直人(ロンドン・ピーコックシアター『Trioperas』に出演)
“海外は思ったより遠くない。チャンスは広がっているんだと実感しました“
海宝直人 千葉県出身。7歳で『美女と野獣』チップ役でデビュー。後に『ライオンキング』初代ヤングシンバとして同役を3年間演じる。長じて『ファントム』『レ・ミゼラブル』『アラジン』『ノートルダムの鐘』等、様々な舞台で確かな歌唱力・演技力を見せている。写真はクイーンズ・シアター前にて。写真提供:オフィスストンプ
――今回、出演された『Trioperas』はどんなコンセプトのショーでしょうか?
『Trioperas』Photo:Tristram Kenton
――出演のきっかけになったのが、昨年末に出演された(作曲家)村井邦彦さんの芸歴50周年コンサートだったそうですね。
「はい、僕は村井さんが作曲された『アルセーヌ・ルパン』の音楽劇を歌わせていただいたのですが、そこでコンサート・マスターをしていたのが(英国ロイヤル・オペラのコンサート・マスターでもあるヴァイオリニストの)バスコ・バシレフさん。彼がプロデューサーを紹介してくれて、“すぐに資料を送ってほしい”と言うのでお送りしたら、本作にぜひ、とお声がけをいただきました」
――新作だったそうですが、海宝さんがかかわった段階ではどの程度出来上がっていたのでしょうか?
『Trioperas』Photo:Tristram Kenton
メンバーはシンガーもいればミュージカルにバリバリ出ている人も、マレーシアから招へいされた獅子舞のチャンピオンもいて多彩でした。国籍的にも、スペイン系などいろいろでしたし、もともとロンドンには生粋のイギリス人はむしろ少ないと言われているほど各国からミュージカルをやりたい人たちが集まっているんです」
――『カルメン』のホセ、『トゥーランドット』のカラフという二つの主役に加え、『マダム・バタフライ』ではゴローと、全作品に出演されたのですね。
「はじめは一作品だけの出演と聞いていたし、スケジュール的にそれ以上は厳しいとはお伝えしていたんです。でも気づいたら2作品になり、最終的には三つになっていました(笑)。僕は『ジャージー・ボーイズ・イン・コンサート』で一度日本に戻る必要があったので、稽古はとりあえずはじめの5日間で振りを全部移して(覚えて)、日本にいったん帰国。またロンドンに戻ったら、演出助手のダンカンに“ここでこうして、次こうして”とざっくりと段取りをつけられて、その日のうちに衣裳をつけて『トゥーランドット』の通し。三日目には全編の通しという展開でした。その後、二日休みがあって、翌日はもう舞台稽古で、その翌日はプレビュー初日でした」
――コミュニケーションはずっと英語で?
『Trioperas』Photo:Tristram Kenton
――日本では“プレビュー”と名付けられていても、そこで演出ががらりと変わることがあまりありませんが、本作では?
「結構変わりましたね(笑)。劇場の都合で、早く入ることができず、舞台上であたり稽古ができないまま本番になってしまう事があるのが大変でしたが、みんなで集中して取り組みました。今、(やはりロンドンで上演されている)『王様と私』に(以前『ファントム』で共演した)大沢たかおさんが出演されているのですが、大沢さんもプレビューでかなり(演出が)変わっているとおっしゃっていましたね。ブロードウェイで一度上演されているプロダクションでも、今回、役者が変わっているので、新たに手をいれているところがあるようです」
――開幕後は劇評もいろいろ出たのでしょうか?
「賛否両論でしたが、バスコが“役者陣に対して好意的なのが出てるよ”といくつか送ってくれましたね。ロンドン(の劇評)は正直というか、酷評もすれば褒めるところは褒めていて、共感する部分もありました。作品に批判的な劇評でも役者陣に対しては(おおむね)評価が高くて、みな喜んでいましたね」
――海外での活躍もしてみたいと夢見ている日本の若い人々に、何かアドバイスはありますか?
『Trioperas』Photo:Tristram Kenton
でも実際にやってみると、(海外は)思ったより遠くないんだなという感じはしました。日本にいると別世界のように思えるかもしれないけれど、ロンドンって、いい意味で放っておくというか、人種も様々で、舞台づくりも開けていて、日本人にもすごくフレンドリー。『王様と私』にも(渡辺謙さん、大沢たかおさん以外にも)アンサンブルで日本人が出ているし、最近は『レ・ミゼラブル』のコゼット役にアフリカ系の女性が入っていたりと、いろいろなチャンスが広がっているんだなと思いますね」
――こういう部分は日本人の良さ、武器だと感じたことは?
「時間通りに物事を達成しようとする“真面目さ”はすごいなと改めて思いました。『レ・ミゼラブル』日本版で来日しているエイドリアンもよく“なんで君たちは時間通りに出来るんだ”と驚いていたけど、イギリスではみんなアバウトなんですよ(笑)。ダンスやコーラスでの細やかさ、揃い方というのは日本人は凄いですよね。こつこつ努力していく力、積み上げていく力は絶対にあると思います。あと個人的には、初日以降、観に来てくれたイギリスの方々が、君の言葉はきれいで聞き取りやすい、一番伝わってくると言ってくれたのは嬉しかったし、これまで日本で培ってきたものが間違ってなかったと自信にもなりました」
――改めて、どんな経験でしたか?
『Trioperas』終演後にアダム・クーパー、マシュー・ホワイト(『Top Hat』演出)と。写真提供:オフィスストンプ
――表現者としてのビジョンがさらに膨らんだのではないでしょうか。
『Trioperas』上演のピーコック・シアター前にて。写真提供:オフィスストンプ
――その余韻も冷めやらぬまま、ご自身のコンサートが始まります。どんな内容を考えていらっしゃいますか?
「今年上半期で自分にとって印象的だったところを抜き出そうと考えています。まずは今年初めて、アラン・メンケンさんと一緒にお仕事させていただいたのですが、僕はアラン・メンケンさんのたくさんの曲とともに育ってきたので、一部はメンケンさんの楽曲。二部では今回、ロンドンに滞在したということで、ロンドン・ミュージカルのナンバーをお届けしようと思っています」
*公演情報*
『海宝直人Birthday LIVE 2018』東京版flyerより
*次頁で綿引さやかさんインタビューをお届けします!