まずは繰上げ制度の仕組みを見てみよう
繰上げをすると生涯減額された年金を受け取ることになり、65歳になっても本来の額に戻るわけではありません。
(1)老齢厚生年金の受給開始年齢が65歳の人
《生年月日が昭和36年4月2日(女性は5年遅れ)以降の人》
この世代の人は、本来は65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ります。60歳で繰上げをした場合の減額率は0.5%×60月=30%。つまり、本来65歳で受け取る額の70%を受け取ることになります。なお、繰上げは老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行います。
(2)特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を61歳~64歳から受け取れられる人
《生年月日が昭和28年4月2日~昭和36年4月1日(女性は5年遅れ)の人》
この世代の人は、60歳代前半で特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができます。ただし、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢は、生年月日によって異なりますので、老齢基礎年金と老齢厚生年金で減額率が異なります。
繰上げをすると生涯減額された年金を受け取ることになり、65歳になっても本来の額に戻るわけではありません。この他にも、繰上げには、取り消しができないことや任意加入ができなくなるなど留意事項がいくつもあります。年金を繰り上げたい場合は、すべてを確認してから自分自身で慎重に判断し、選択するようにしましょう。
■年金額を増やす繰下げ制度とは
2004年の年金改革で導入された年金財政の枠組みにより、2017年9月に厚生年金保険料率が上限の18.3%に達しました。今後年金財政上の収入のメインである現役世代からの保険料はその料率が固定され、一定の収入の範囲内で年金の給付を行う仕組みが完成することとなります。したがって、保険料率が固定された以上、いわゆる支給開始年齢の一斉引き上げは年金財政上は必要ないものとなったわけです。一方、今後は将来世代の給付水準確保のため、給付水準が調整され低下していくことになります。したがって、個人単位で働き方に合わせてなるべく長い期間働き、さらに年金の受給開始年齢を繰り下げて給付に厚みを持たせるなどの検討も必要になってくるでしょう。
(1)繰下げによる増額率
法律上、老齢年金の受給権が発生してから1年間は繰下げの申し出はできません。したがって、繰下げの申出は66歳以降に行い、年金額の増額は12月から60月の月単位で行われることになります。また、その増額率は一生変わりません。増額率は、生年月日が昭和16年4月2日以降の場合は、1か月あたり0.7%です。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.7%
例えば、本来65歳から受給する老齢基礎年金を70歳で繰下げをした場合は、増額率は0.7%×60月=42%。つまり、本来65歳で受け取る額の142%を受け取ることになります。 なお、繰下げによる年金は、申し出のあった月の翌月分からの支給となります。70歳到達日以後の繰下げは、申し出時期にかかわらず70歳到達時点での増額率(42%)になり、70歳までさかのぼって決定され支給されます。
(2)老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ
老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できる場合、同時に繰り下げることもできますが、老齢厚生年金と老齢基礎年金について、それぞれに繰下げ時期を選択でき、老齢厚生年金と老齢基礎年金を別々の希望月で繰り下げることができます。なお、65歳前の特別支給の老齢厚生年金は繰下げ支給の対象にはなりません。あくまでも本来の終身年金である65歳からの老齢厚生年金と老齢基礎年金が対象になります。 また、当初繰下げをするつもりで65歳以降の年金を請求せずに待期していた場合でも、途中で方針を変えて普通に請求することもできます。その場合、繰下げの申出はせず、65歳にさかのぼって、本来支給の年金(増額なし)を請求することになります。さかのぼって請求した金額はまとめて支給されます。
(3)加給年金・振替加算
加給年金額や振替加算額は、繰り下げても増額されません。また、繰下げの待期期間中は、加給年金額や振替加算額のみを受けることはできません。この点については、繰下げをする際に注意するようにしましょう。
(4)老齢厚生年金の繰下げの注意事項
65歳以降も厚生年金保険の被保険者であった人が、66歳以降に老齢厚生年金の繰下げを希望する場合は、65歳時の本来請求による老齢厚生年金額から在職による支給停止額を差し引いた額が、繰下げによる増額の対象となります。報酬が高い人など65歳以降の在職老齢年金の対象となっている人の場合は、年金額全額が増額の対象とはならないので注意が必要です。