食欲がない・うつ気味で食べられない……食事で気分を上げることは可能?
うつではないけれど気分が沈み、落ち込んでいて食欲もわかない……。こんな時はどのようなものを食べたらよいのでしょうか?
何となく気持ちが落ち込んでしまうことは、誰にでもあるものです。気持ちが沈んでいると食欲もわかず、それでも気分を上げるためには、無理をしてでも何か食べた方がよいのか、また、眠気覚ましのコーヒーのように、沈んだ気分を上げてくれる食べ物はないかと考える方もいるようです。
沈んだ気持ちを上げてくれる食材があればご紹介したいところですが、残念ながら、抑うつ気分をすぐに解消してくれるような食材はありません。もちろん嗜好の問題で、「好きな食べ物を食べれば気分が上がる!」という人もいますので、食べる楽しみを気分転換に利用できる人は試してみるのもよいでしょう。
また、食欲がなくどうしても食べられないのが一時的なものであれば、無理をすることはありませんが、「お腹がすいて機嫌が悪い」ということは少なからずあるものです。精神的なものだけで、消化不良のような症状がなく身体の調子は悪くないのであれば、なるべく食べられるものは食べた方がよいと思います。
今回は気持ちと食事の関係、即効性はないものの気持ちの安定のために大切な栄養のお話をしたいと思います。
うつ気味・落ち込みやすい人は食欲がありすぎる傾向も
「好きな食べ物を食べて気分を上げる」という方法を肯定したばかりではありますが、元気を出す方法として好きなものを食べることを挙げる方は、意外なことに、気分が沈みやすい傾向の方であることが少なくありません。「気分が沈みやすい人」というと、どちらかというと食の細い痩せ型の人を想像する方が多いのではないかと思います。しかし実際には、どちらかというと過食傾向で太り気味な人の方が、気分が沈みやすい傾向にあるといわれています。さらに、気分が沈みやすく、うつ病や慢性的なストレスを抱えている人ほど、生活習慣病の罹患率が高いという報告もあります。これらは食が悪い形でのストレス解消法になってしまっているケースといえるかもしれません。
では、気持ちの落ち込みやストレスが高いと、どうして太りやすくなるのでしょうか。気持ちが沈んだり、ストレスを感じたりしている状態では、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりと、不眠症状も抱えがちです。眠れないことから生活習慣が乱れ、慢性的な生活の乱れから生活習慣病になりやすい生活スタイルになってしまうことも考えられます。
実際に、健康な人のグループとうつ病の人のグループを比べると、男性では肥満1度(BMI25~30)の人たち、女性では肥満2度(BMI30>)の人たちが、うつ病のグループに多かったという報告があります。それに対して、BMI<18.5の低体重では、比率に差がなかったようです。詳しくはこの報告を挙げている論文「うつ病患者における栄養学的異常」(PDF)をご覧ください。
さらに、うつ病の人のグループは健康な人のグループと比べてHDLコレステロールが低く、中性脂肪が高いという結果を得ているとし、うつ病とメタボリックシンドロームに何らかの関連があるのではないかと指摘もされています。痩せている人にこそうつ病が多いと思っていた人も多いと思いますが、意外な結果ですね。
もちろん、そもそもの落ち込みやストレスの原因が、健康的な生活リズムを保てないほどの激務などの場合もあるでしょう。きっかけがどこかは見極めにくいかもしれませんが、いずれにしても不健康に陥る原因や悪循環は、どこかで断ち切りたいものです。
気持ちの落ち込み・うつ気味を予防・改善するための栄養素
うつ病とメタボリックシンドロームに上記のような関連性があるとすれば、肥満予防の食事を摂れば、うつ病を始めとする気持ちの落ち込みにも一定の効果があるとも考えられます。メタボリックシンドロームの予防のためには、「「ご飯おかわり」はメタボ体型の元!30代の食事のコツ」「太りやすい食べ物と太る食べ方…ダイエット失敗の原因」「「痩せたい40代」が食べてはいけないもの・食のコツ」などを参考にしていただくのがよいでしょう。
さらに、上記の論文によれば、うつ病予防のためには「ビタミンB群」や「葉酸」「ビタミンD」を摂ることやアミノ酸のトリプトファンを摂ることもすすめられています。葉酸に関しては、過去記事「男性もシニアも摂るべき葉酸…脳梗塞・認知症予防にも」もぜひ合わせてご覧ください。また面白いことに緑茶をよく飲んでいる人にはうつ病患者が少なかったという報告もあります。疲れたときには緑茶を選んでみるのもよいかもしれません。
また、気持ちの落ち込みに効果的とも考えられているバナナやチョコレートなどは、確かに疲れたときに脳の血糖値を上げるためのカンフル剤にはなりますが、うつ傾向というほど気分が沈んでしまったときには残念ながら大きな効果は見込めません。バナナにも含まれるトリプトファンがセロトニンを増やすという報告はいくつかありますが、トリプトファンはバナナ100g中に59mg含まれているのに対し、ご飯100g中には220mg。とりわけバナナに多いわけでもなさそうです。上記の通り、バランスよく栄養を摂ることがやはり大切ではないでしょうか。
食事・食生活だけではない心の健康に大切なこと
憂うつな気分の解消やうつ病予防のためには、食事以外にも大切なことがあります。可能であれば、憂うつな気分の原因をはっきりさせ、その問題との付き合い方、距離の取り方などを根本的に考えてみること。仕事や人間関係、家族との関係など憂うつな気分の原因はさまざまでしょうが、ただ沈んだ気持ちを抱えているだけでなく、どうすれば少しだけでも改善できそうか、気持ちが落ちつく見方はないかなどを考えてみることも大切です。また、大声で歌ったりスポーツをしたりするなど、自分が楽しめるストレス解消法を試してみるのもよいでしょう。誰にでもできる簡単な方法としては、古典的に感じるかもしれませんが、朝は必ず朝日を浴びることを心がけるといったことも有効です。朝日を浴びると脳に「朝ですよ!」という信号が送られ、体内時計がしっかりとリセットされ、リズムが整います。この状態で朝食を食べると、さらに生活リズムが整います。朝食は午前中のエネルギー源となるだけでなく、生体リズムを整える上でも大切なのです。
また、うつ病を含め、気持ちの落ち込みの予防法は、肥満予防やメタボリックシンドローム予防と重なるところも多いです。厚生労働省も、うつ病を極めて重要な健康問題と考えてサポートの強化を進めているようですが、心の病気は目に見えるものではないだけになかなか周りの理解も得られにくいもの。ぜひ、しっかり予防したいものですね。
■参考
- こころの情報サイト(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
- 功刀 浩:うつ病・自閉症と腸内細菌叢 腸内細菌学雑誌32 巻 1 号 p. 7-13,2018年
- 功刀 浩著:こころに効く精神栄養学