牛乳の歴史と日本の食文化……日本人の古い食習慣にはなかった「牛乳」
学校給食でもおなじみの牛乳。成長期の子供たちに不足しがちなカルシウムも無理なく補えます
牛乳は飛鳥時代に仏教と共に日本に渡ってきたといわれています。当初は天皇家で薬として飲まれ、そこから平安貴族に伝わり、当時は高貴な人々の飲み物であったようです。ところが平安時代末期になると、貴族に代わって武家が台頭し始めます。武家は大豆を使った味噌や納豆を好んでおり、牛乳はこのタイミングでは日本の日常的な食習慣として根付くことはありませんでした。
再び、牛乳文化が日本に流れ込んだのは、幕末のこと。日本に移住してきた外国人がきっかけとも、明治天皇が牛乳を飲んでいることが新聞記事で報道されたからともいわれていますが、いずれにしても、日本人が日常的に牛乳を口にするようになったのは、この時代以降。日本の食文化の中に牛乳が根付いてから、まだ日が浅いのです。
このように古くは高貴な人々しか飲めないほど、健康にいい飲み物と考えられてきた牛乳ですが、近年になって「体に悪い」という説がしばしば言われ、心配されている方も少なからずいるようです。
この情報の出所・原因は諸説あるようですが、その一つには2005年にヒット本となった『病気にならない生き方』なども挙げられるでしょう。当時注目を集めた本でしたが、牛乳は体に悪いと考える意見がセンセーショナルに謳われており、これが一部の方に強く信じられ広まっていったという説が有力のようです。
また、上述のように日本人の日常的な食生活の歴史に、牛乳が登場してから日が浅いこともあり、わざわざ飲まなくても生きていけるのではないかという考えも背景にあるのかもしれません。
乳糖不耐症・乳アレルギーなどがなければ、牛乳に心配は不要
上記書籍に書かれた内容については、牛乳業者も黙ってはおらず、異議を唱えています。公開質問状とその回答についての記者会見を開いたり、疑義についてのQ&Aサイトを公開するなどの対応が見られます(「公開質問状」とその回答の記者発表(平成19年12月18日)等)。他にも、Jミルクによる「牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!」なども、牛乳に関する気になる情報について、Q&A方式でわかりやすくまとめられているサイトです。
これらで詳しく解説されている内容を簡単にまとめると、牛乳に含まれる「乳糖」を上手に消化できない「乳糖不耐症」や乳アレルギーなどの体質的な問題がない限り、適量を飲む分には牛乳が健康に害を与えることはなく、むしろ健康に有益であるということが分かります。
カルシウム不足の日本人に、牛乳は秀逸なカルシウム源として効果的
冒頭で、日本人の伝統的な食文化には牛乳がなかったことをご紹介しましたが、それでは牛乳は日本人には不要なものなのでしょうか?日本人の健康に関する課題の一つとして、「カルシウム摂取量の不足」が挙げられます。「日本人の食事摂取基準 2020年版」によると30~49歳は男性が650g、女性は550mgが推奨量とされています。一方で、「令和元年国民健康・栄養調査」の30歳代男性の平均摂取量は395mg、40歳代男性は442mg。30歳代女性は406mg、40歳代女性は441mgですから、まったく足りていないのです。
成長期の子供たちや、中高年女性に多い骨粗しょう症予防のためにもカルシウム不足の解消は大切で、カルシウムのより積極的な摂取が望ましいと考えられます。
牛乳や乳製品はカルシウムの吸収率がよいと考えられており、日本人にとってもカルシウム源として非常に秀逸なのです。
学校給食での牛乳は子どもの健康にいい? 必要性と意義
さらに昨今では、学校給食に牛乳は必要かという議論も活発に行われていました。
実は、学校給食で「ミルク」を提供することは、文部科学省による「学校給食法施行規則」で定められています。学校給食の提供方法には「完全給食」「補食給食」「ミルク給食」があり、いずれの提供方法でも「ミルク」を提供することが決められているのです。
学校給食は、各年齢の子供たちの1日に必要とされる平均的な栄養量の1/3以上を含むメニューで提供されますが、不足しやすい栄養素であるカルシウム・ビタミンB1・ビタミンB2・マグネシウムは多めに設定されています。このうち、カルシウムに関しては、ミルクで補うのが最も効率がいいことから、ミルクを提供するように定められたのではないかと考えられます。
終戦後、パンと脱脂粉乳で支えられていた学校給食は、牛乳の提供が必須でも不自然ではありませんでしたが、学校給食のメニューがバラエティに富むようになり「米飯」による給食を推進する機運が高まると、「米飯」に「牛乳」という一見、不思議なメニューができ上がってしまいました。
これに対して、保護者らから「メニューとして合わないのではないか」「そこまでして飲まなければならないのか」と反対の声が上がってしまったこともあったようです。成長期には乳製品でカルシウムを摂取することが望ましいのは間違いないため、牛乳を提供しないことによる成長のためのデメリットも考慮し、牛乳を給食メニューから外すかわりに、別の時間に牛乳だけを飲む時間をとることを試みた地域があります。
ところが、給食を食べ終わったタイミングを牛乳を飲む時間としていた学校も多く、「給食後に牛乳だけを飲むのが苦手な子どももいる」との保護者の意見が出始めたことから、現在は給食の時間に牛乳を配るが給食と一緒には飲まず、牛乳を飲むタイミングは児童に任せるという指導を行っているようです(ドリンクタイムについて(PDF))。
【結論】「牛乳有害説はデマ!」 牛乳は飲んだ方が健康にいい
牛乳は牛の赤ちゃんが飲むべきものを横取りしていると悪評されることもあるようですが、乳牛の乳は赤ちゃんに必要な量以上に出ます。余った分を食用に利用していますので、牛乳の生産に関しては、生態系にゆがみを与えるなどの問題はないといっていいでしょう。なお、搾乳したミルクの成分を調整していないものだけを「牛乳」と呼び、成分を調整したものは「加工乳」に分類されますが、日本では成分無調整の「牛乳」が好まれます。それも「3.6牛乳」「3.8牛乳」「4.2牛乳」など、乳脂肪の多いものを好む傾向があるといわれています。
一方で、アメリカなど諸外国では「Low Fat」すなわち、「低脂肪乳」がスタンダードであり、日本人が好む無調整で乳脂肪の濃い牛乳は「濃くてまずい」と感じる人が多いともいわれています。
日本人が平均的に飲んでいる1日コップ1杯程度の量であれば、そこまで目くじらを立てるほどの大きな差にはならないかもしれませんが、それでも毎日のことと考えて、カロリーが気になる人、飽和脂肪酸の摂取量が気になる人は、低脂肪の商品を選ぶのも一案かもしれません。
牛乳が体に悪いというのは、まったくのデマです。安心しておいしく飲んで、元気な骨を育て、健康でいきいきとした毎日を送りましょう。
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