運動と健康

運動で風邪をひきやすくなる?運動負荷と免疫の関係

【アスレティックトレーナーが解説】「運動を始めたら珍しく風邪をひいた」「ジム通いで風邪をひきやすくなった」。それは、運動負荷の高さに原因があるかもしれません。体力には行動体力と防衛体力の2種類がありますが、過度な運動は一時的に防衛体力を低下させます。自分の体力レベルにあった運動量の目安を知り、適度な運動習慣を持つことが大切です。詳しく解説します。

西村 典子

執筆者:西村 典子

アスレティックトレーナー / 運動と健康ガイド

そもそも体力とは……「行動体力」と「防衛体力」の違い

運動する女性

体力にはからだの行動力と防衛能力の2種類がある

運動は体力向上に役立つものですが、そもそも「体力」とは何でしょうか? 一般的には筋力や、いわゆる「スタミナ」と言われる全身持久力など、運動をする上で必要となる身体の力を指すことが多いと思います。

体力とは「積極的に仕事をしていくからだの行動力と、ストレスに耐えて、生を維持していくからだの防衛能力」※1と定義されており、それぞれ「行動体力」「防衛体力」と呼ばれています。「行動体力」は文字通り行動を起こすために必要な身体能力のことであり、一般的にはこちらのことを体力と理解していることが多いでしょう。

一方、「防衛体力」は生命を守るために必要な身体の抵抗力であると言えるでしょう。生活する上で身体に負担のかかる外的ストレスから身体を守り、健康的に過ごすことができる調整能力のことを指します。外的ストレスとしては、感染症を引き起こす病原菌や温度などの環境変化、自分自身の体調コントロール、加齢、精神的なストレスなどが挙げられます。この「防衛体力」の低下が風邪をひきやすくなる要因ではないかと言われています。

適度な運動は免疫力を高め、過度な運動は免疫力を下げる

くしゃみをする男性

運動不足はもちろん、激しすぎる運動も感染症のリスクが高まる

運動はさまざまな病気を予防するメリットが指摘されていることから、やればやるほど効果が高いと考える人も少なくないでしょう。しかし自分の体力レベルを大幅に上回る激しい運動を行うと「防衛体力」を司る身体の免疫力が低下し、風邪などの感染症にかかりやすくなると言われています。

病原菌などに対抗する免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(以後、NK細胞)は、運動直後に増殖し、その後運動前よりも減少することが指摘されています※2。これは運動強度によっても変化し、自分の体力にあった適度な運動であれば風邪などの感染症にかかるリスクが抑えられますが、運動不足であっても、また逆に激しい運動を行ってもNK細胞が減少し、感染症にかかりやすくなると考えられています。運動の強度と感染症にかかるリスクは、英語の"J"をイメージして「Jカーブ」と呼ばれることもあります※3。運動しないよりは適度な運動をした方が風邪をひきにくく、過度な運動は逆に風邪をひきやすくしてしまうということが示されています。

Jカーブのグラフ

【グラフ】感染症のリスクと運動強度との関係を示すJカーブ※4

 

適度な運動量の決め方・目安

運動をしなさすぎても、運動をしすぎても感染症にかかるリスクが増えるというのですから、自分にあった適度な運動を行うことが大切です。それでは適度な運動はどのように決めれば良いのでしょうか。

運動習慣のまったくない人にとっては、現在の身体活動量を少しでも増やすようにすることから始めましょう※5。たとえば近距離の移動は車ではなく、徒歩にしてみるとか、積極的に階段を使うといったことでも構いません。歩数計などを使って歩く距離を1割~2割程度増やすことを目標にしてみると活動量も自然と増えてくると思います。また運動習慣のある人については30分以上の運動を週2日以上行うことを目安に、会話が途切れない適度の運動強度で進めていくと良いでしょう。

激しい運動後の風邪予防法……身体をメンテナンスを十分に

クールダウンでのストレッチ

運動後のセルフコンディショニングは感染症のリスクを下げる効果が期待できる

アスリートは激しい運動後に免疫力が低下し、体調を崩しやすくなる傾向にあることが経験則から知られていましたが、アスリート並みに運動をする人やマラソンなどのハードな運動後は免疫力の低下が懸念されます。運動後に「防衛体力」を低下させないようにするためには、感染症の予防対策とともに運動後のセルフコンディショニングを入念に行うことが大切です。

基本的なことですが、感染症を防ぐためには運動後の手洗い・うがいは必ず習慣として行うようにします。また失われた水分や糖分を補給し、クールダウンとして軽くジョギングを行ったり、ストレッチを行ったりします。汗をかいているときは身体が急激に冷えないようにタオルなどで拭いて、着替えをしておきましょう。さらに帰宅後は、汗をシャワーで流すだけではなく湯船につかって血流をよくし、体内に蓄積された疲労物質の分解・代謝を促すようにします。食事では疲労回復を助けるためにはビタミンB1を含む食材である豚肉や玄米、ごま、海苔などを積極的にとるようにし、十分な睡眠を心がけましょう。免疫力が低下しているところに生活リズムの乱れなどが重なると体調を崩しやすくなります。

自分に適した運動強度を知ることとともにセルフコンディショニングをしっかり行って、風邪などをひかないようにしましょう。

<参考文献>
1) 猪飼道夫等編 体力と身体適正 体育科学辞典 第一法規出版 1970. p100
2) 鈴木克彦.好中球と炎症性サイトカイン.新運動生理学(上巻).真興交易医書出版部.東京.2001:350-363.
3) Nieman, D. C,: Exercise, upper respiratory tract infection and immune system. Med Sci Sports Exerc, 26: 128-139, 1994.
4) Nieman, D. C,: Upper respiratory tract infections and exercise. Thorax. 1995 Dec;50(12):1229-31
5) 健康づくりのための身体活動基準2013(厚生労働省)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます