裁量労働制とは何か
求人票や雇用契約書に「裁量労働制を適用する」と記載があったときに、働く側として知っておかなければいけないこと、疑問に感じやすいことを解説します。
【目次】
裁量労働制とは、「割増賃金ルールの適用外になる」働き方
裁量労働制を適用できるのは、法律で決められた業務だけ
裁量労働制導入には、労使の合意が必要
裁量労働制でも、休日・深夜労働の割増賃金は支払われる
裁量労働制でも、タイムカードを打刻することがある
裁量労働制とフレックスタイム制はどう違う?
裁量労働制とフレックスタイム制、管理職の働き方の違い
裁量労働制で働くメリット・デメリット
裁量労働制とは、「割増賃金ルールの適用外になる」働き方
- まずは割増賃金計算の基本を解説
そのため、労働者にタイムカードの打刻や出勤簿の記載をさせることで、始業時刻と終業時刻を記録しているのです。
会社は、始業時刻と終業時刻の記録をもとに労働時間を管理し、
以下の労働が生じた場合には、法定の割増率で計算した割増賃金を支払います。
【割増賃金が支払われるケース】
- 時間外労働:1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて法定時間外に働いたとき
- 休日労働:週に1日以上の休日が確保できず法定休日に働いたとき
- 深夜労働:深夜(22時~5時)に働いたとき
裁量労働制はこの基本ルールの例外にあたり、労働時間の管理を労働者自身の裁量に任せて、実労働時間に関係なく、「1日〇時間働いたものとみなす」制度です。
会社と労働者の代表が、1日の労働時間を何時間とみなすかを決めて労働基準監督署へ届出します。「1日9時間」と決めたのであれば、その日に10時間働いたとしても、6時間で帰ったとしても、9時間を働いたものとして給与が支払われます。
法定通り「1日8時間」と決める例が多いですが、「1日9時間」と決めた場合は、時間外労働1時間分の割増賃金が支払われることになります。
みなし時間には法律上の上限がないため、「1日12時間」と決めることも可能です。ただし、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)に記載した「延長することができる時間」が上限となります。
裁量労働制を適用できるのは、法律で決められた業務だけ
裁量労働制は適用できる職種が決まっている
現在、法律で決められたこの2種類の業務に該当しない限り、裁量労働制を使って働かせることはできません。
- 専門業務型:19種類
- 企画業務型
専門業務型との違いは、業務だけでなく「事業場」についても要件がある点です。通常は本社が該当しますが、支店であっても「事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる支店」であれば、対象とすることができます。逆に「企画・立案などの業務」を数多くある支店の一つで行うのであれば、対象とならない場合もあります。
業務が明確な専門業務型に比べて、企画業務型は解釈によって適用する業務があいまいになりがちです。そのため、導入する企業が極端に少ない数に留まっていることから、適用拡大の動きもあります。
裁量労働制導入には、労使の合意が必要
裁量労働制では、どれだけ働いたとしても「1日〇時間」と決めた時間だけを働いたものとみなされます。業務の性質上、仕事の進め方や時間配分については労働者自身の裁量に任せられますが、仕事の量や完成の時期までは決定できません。つまり、与えられた仕事が終わらない場合は実労働時間が長くなりがちな上、「1日〇時間」を超える割増賃金は支払われない、ということになります。これが、裁量労働制が「定額働かせ放題」と言われる所以です。
そこで、実労働時間と「1日〇時間」の設定時間がかけ離れた時間数とならないよう、会社が一方的に裁量労働制を導入できない仕組みになっています。
「専門業務型」であれば、会社と労働者代表が労使協定を締結して労働基準監督署に届出することが必要です。
「企画業務型」の場合はさらに厳しく、労働者が過半数を占める労使委員会の8割以上が同意した業務を対象とした上で、労働者本人の同意を得なければなりません。
これらの手順が一つでも欠けていれば、会社は裁量労働制を導入できず、原則通りに労働時間管理を行って割増賃金を支払うことになります。
裁量労働制でも、休日・深夜労働の割増賃金は支払われる
裁量労働制の割増賃金の考え方
会社は、業務の進め方や時間配分の具体的な指示を行わない代わりに、その対象者について実労働時間の管理が免除されるのです。
労働時間を「1日〇時間」とみなすことから、割増賃金の支払いも免除されると誤解されていることが多いですが、裁量労働制でも休日労働と深夜労働に対する割増賃金の支払いは免除されません。
そのため、裁量労働制の対象であっても、休日労働や深夜労働をするときには会社の許可が必要としている会社もあります。
裁量労働制でも、タイムカードを打刻することがある
裁量労働制の対象者は会社側の実労働管理が不要になる、と言いましたが、一方で、裁量労働者であっても、勤務状況や在社時間の管理は必要です。
これは、「専門業務型」の労使協定および「企画業務型」の労使委員会の決議で、「健康・福祉を確保するための措置」を具体的に定めて労働基準監督署へ届出を行っているためです。
このため、裁量労働制の対象者にも目安となる始業・終業時刻を設けて、タイムカードや出勤簿で出退勤時刻や入退室時刻を記録するよう義務づけている会社もあります。ただし、遅刻や早退をしたからといって、その時間数の給与が差し引かれることはありません。
この点、休日・深夜労働の割増賃金が対象外となる管理職(管理監督者)も同様です。健康管理上の理由により、管理職であっても在社時間の管理は必要とされています。
裁量労働制とフレックスタイム制はどう違う?
始業・終業時刻を自由に決定できるという点では、裁量労働制もフレックスタイム制も同じですが、割増賃金計算のルールが異なります。裁量労働制は労働時間を「1日〇時間」とみなすため、1日8時間を超えない限り、時間外労働の割増賃金は発生しません。
フレックスタイム制の場合、「1日〇時間」という時間の定め自体がなく、1ヶ月の実労働時間をもとに割増賃金を計算します。実労働時間が、1ヶ月の法定労働時間(31日の月は177時間)を上回るときに割増賃金が支払われます。また、必ず出社しなければならない「コアタイム」が設定される点も、裁量労働制とは異なります。
裁量労働制とフレックスタイム制、管理職の働き方の違い
ここまでのそれぞれの働き方の違いを図にまとめると下記のようになります。裁量労働制は、労働時間管理や時間外労働に対する割増賃金の対象から外れる管理職に似た働き方であることがわかります。裁量労働制で働くメリット・デメリット
- メリット
業務量と完成時期だけが示され、その過程をどう進めるか、自分のペースで決定して働くことは自身のモチベーションにもつながり、特に専門性が高い職人タイプの人にとって効率的かつ成果が出やすい働き方といえます。遅刻や早退をしても時間分の給与が控除されない点もメリットです。
- デメリット
また、業務が労働者自身の裁量で完結してしまうため、仲間意識や協力体制が作りづらく孤立してしまうこともあります。
裁量労働制を導入するにあたっては、「苦情処理の窓口、担当者、手順」が必ず定められていますので、相談してみましょう。