私が携わっている雑誌『月刊総務』の人気コーナーに各企業の社食を紹介する「ランチ訪問」があります。実際に取り上げた企業の社食のうち、特に印象深い5例を紹介した上で、社食の意義や効果について考えてみます。
1.「8つのこだわり」で健康にアプローチするファンケル
まずは、化粧品で有名なファンケル。健康食品の事業を展開しているだけあって、横浜にある本社の社食にも、健康志向が貫かれています。明るい雰囲気のファンケルの社食の入口
生活習慣病に着目し、8つの指針を守ってメニューを独自開発しています。その8つとは以下のもの。
- 塩分が2グラム以下
- 適正カロリー
- 脂質コントロール
- 野菜量120グラム以上
- 食物繊維6グラム以上
- 抗酸化力の高い青汁の使用
- 肥満になりにくい発芽米を使用
- 栄養バランス
健康意識の高いファンケルの社食
野菜ドレッシングで食べるローストポーク
2.「1グラム1.2円」で好きなメニューを選べるSCSK
次はITサービス大手のSCSK。同社は2015~2018年の4年連続で経済産業省の「健康経営銘柄」に選定されている健康経営の先端企業。東京・豊洲本社にある社食でも、さまざまな形で健康への配慮がなされています。
社員食堂の隣にあるカフェ「カフェリシオ」
グラム単位の量り売りというユニークなスタイル
1グラム1.2円で、サラダをはじめ8種類の料理の量り売りをするメニューです。サラダだけを山盛りにして食べる社員もいるとのこと。特にカロリーと栄養バランスを重視した「Re:correct」メニューも大人気です。
野菜をこれだけたっぷり盛り付けても500円ほど
社食は毎回同じメニューだと飽きがくるもの。そこで同社では、有名ラーメン店や牛丼店とのコラボやイベントを頻繁に実施し、飽きがこない社食づくりの取り組みを行っています。
3. エイベックスはおしゃれなカフェ空間を演出
次は、2017年に南青山に本社をグランドオープンしたエイベックス。社員食堂はアメリカ西海岸をイメージしたおしゃれな空間となっています。
Wi-Fiが飛んでおり、オフィススペースとしても使える
カウンター席、テーブル席などさまざまなタイプの席を用意
日替わり定食などシンプルな和食メニューが人気
フリーアドレス制の一環で、実はここもオフィススペースとのこと。一人で仕事するもよし、商談スペースとして利用もされているそうです。
4. キハチのヘルシーメニューを提供する、博報堂DYホールディングス
最後は、博報堂DYホールディングス。東京・赤坂にあり、周辺は飲食店が多いため、社食というよりはカフェ的に従業員が集う場所にしたほうがいいのでは、という考えによって設計されています。
カフェ的に使えるように設計されているスペース
メニューは健康を気遣った内容で、塩分やカロリーは控えめ、食物繊維を多くとれるよう考えられています。
栄養バランスに配慮したメニューが並ぶ
カフェ的な作りとなっていて、ランチ食以外にも、打り合せや個人の仕事場として利用している従業員も多い、とのことです。
運営はキハチ。軽食やドリンクなども充実している
5. 多国籍社員に対応するメニューを用意する楽天
社内公用語の英語化が話題になった楽天。70か国以上の多国籍の社員で構成されているため、ハラル料理やインド料理などさまざまな国籍や宗教に応じたメニューを提供しています。国際色豊かな社食を用意する楽天
欧米系社員からの要望により、デザートに生の果物を取り入れるようになったとか。セルフサービスのサイドディッシュにも野菜類が充実。さらに「納豆」も常時提供されています。
カフェ的な内装で、700席以上の席数を備える
社食導入の目的は変化している
社食とは、従業員専用の企業内にある給食施設またはそのための食堂です。古くは、工場や事業所などで周辺に飲食店がない場合に、従業員への食事提供を目的に運営されていました。その後、周辺の飲食店よりも低価格で飲食を提供する、という福利厚生的な意味での運用が増えました。そして、今、社食が注目されるのは、
- 社内コミュニケーション活性化
- 健康経営の実践
- 福利厚生とそのPR効果
人は生きていく上で食べなければなりません。社食は強制力がなくても利用されます。この求心力を持った社食を効果的に使おう、というわけです。
社内コミュニケーション活性化の工夫
社食では自由な席に座りますから、いろいろな交わりが生まれます。ランチだけでなく、カフェコーナーを併設して昼時以外にも活用したり、仕事ができるようにしたりするケースもあります。社内コミュニケーション活性化が期待できる
大きなスクリーンを設置し、大規模イベントができるところもあります。全社イベント、各部でのキックオフや歓送迎会などに使われます。
都心の一等地に昼時しか使われないスペースを確保するのはもったいないので、活用頻度を高める工夫は大切でしょう。
社食が健康経営の実践につながる
社員の健康に気を配る企業が増えています。人事や健康保険組合が「万歩計を付けて、毎日1万歩、歩きましょう」とキャンペーンをする例も多いですが、効果は限定的です。
その点、ランチは誰しも「どうせ食べる」ものなので、健康的なメニューを提供する、ご飯茶碗を小さめにする、等の取り組みが継続しやすいのです。
福利厚生とそのPR効果
充実した社食は採用時のアピールポイントとなり、社員を大切にしている、というメッセージにもなります。社食は見晴らしの良い絶好のロケーションに設置することも多く、自慢のスポットともなります。取引先とのランチが簡単な接待にもなります。社食の「定義」を広げれば、中小企業でも可能
社員食堂を設置・運営するには、設備費用から運営費用、食材費用等、年間数千万円はかかります。このような金額を負担できるのは、大企業に限られるでしょう。でも、社食をシンプルに「社内で飲食できる場」と考えれば、いろいろなパターンがあります。
- 1 その場で調理して提供するもの
- 2 他で調理して、その場で提供するもの
- 3 お弁当の販売コーナーがあり、ランチスペースで食べるもの
- 4 食べ物の提供はせず、社員が飲食できるスペースを提供するもの
一般的な社食のイメージは1あるいは2でしょう。しかし、先に挙げた社食の効果の「社内コミュニケーション」は、実はどのタイプでも実現できます。中小企業でもスペースさえあれば、3と4は可能です。
社食の目的を「社内コミュニケーション活性化」と考えれば、社内で調理して提供しなくとも、目的は達成できるのです。
健康的なメニューが増えている
とはいえ、パターン4では、飲食可能スペースがあるだけですから、社員はあまり魅力を感じないでしょう。
3以上の方法で、かつ市場価値より安価、さらに魅力的なメニューがあることで多くの社員の利用が見込めます。
「社内コミュニケーション活性化」という目的を果たす手段としての「社食」。ここにかける費用は、コストというより投資的意味合いが大きいのです。
実現の判断は経営者となるでしょうが、担当者は「スペース効果」とその効果を「最大限増やせる仕掛け」もあわせて提案するとよいでしょう。