ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年3~4月の注目!ミュージカル(2ページ目)

厳しい寒さの中にも春の息吹が時折感じられるこのごろ、各稽古場では期待の新作・再演作品が着々と仕上がってきています。社会現象となったラブストーリーの舞台化『マディソン郡の橋』をはじめ、話題の舞台をご紹介。インタビューや観劇レポートを含め、記事は随時追記していきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


ジキル&ハイド

3月3~18日=東京国際フォーラム 3月24~25日=愛知県芸術劇場大ホール
『ジキル&ハイド』

『ジキル&ハイド』

【見どころ】
理想の世界のため“神の領域”に踏み込んでしまった科学者の悲劇を描くスティーブンソンの小説をもとに、97年にブロードウェイで初演、日本でも91年の初演以来、上演の度に好評を博してきた本作が、2年ぶりに石丸幹二さん主演で上演。主人公を巡る二人の女性を、今回は新たに笹本玲奈さん(ルーシー役)、宮澤エマさん(エマ役)が、また友人の弁護士アターソンを田代万里生さんが演じます。

ワイルドホーンのドラマティックな音楽はもとより、回を重ねていっそう深みが加わるであろう石丸さんの二役演じ分け、そして新キャストが吹き込む新風とお馴染みのキャストの盤石の演技が、大いに期待できる舞台です。

【サイモン・ストライド役 畠中洋さんインタビュー】
素晴らしい楽曲が目白押しの中で僕は恋敵として、
”狂犬”のようにジキルに噛みついていきます!
畠中洋undefined山形県出身。青年座研究所を経て音楽座に入団、多数の舞台に主演。退団後は『ザ・キッチン』等のミュージカル、『太陽が死んだ日』等のストレートプレイ、テレビドラマ、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』フリン役の声優等、幅広く活躍。ドラマ『銃口』では放送文化基金賞男優演技賞を受賞した。(C)Marino Matsushima

畠中洋 山形県出身。青年座研究所を経て音楽座に入団、多数の舞台に主演。退団後は『ザ・キッチン』等のミュージカル、『太陽が死んだ日』等のストレートプレイ、テレビドラマ、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』フリン役の声優等、幅広く活躍。ドラマ『銃口』では放送文化基金賞男優演技賞を受賞した。(C)Marino Matsushima


――ジキル博士の婚約者エマに横恋慕するサイモン・ストライドを演じる畠中さん。本作は畠中さんにとってどんな作品でしょうか?

「2012年、16年ときて今回3回目の出演ですが、この作品と巡り合えたことは僕の俳優としてのキャリアの中で、かなり重要なポイントを占めていると思います。僕はそれまで“いい人”や好青年の役を演じることが多く、ストライドのような役は初めてでした。常に愛に飢えていて、エマのことが大好きだけど、彼女はジキル博士と結婚の約束をしていて、僕のことなんかどうでもいい(笑)。どうして僕に振り向いてくれないんだ、と勝手に三角関係に陥っていて、それが悔しくてジキルにかみついてゆくという役どころです。役の幅を広げる、大きなきっかけになりました」

――いわゆる“敵役”の一人ですが、どんな工夫をされましたか?

「ふだんは“受け”の芝居が多いのですが、この作品では“攻め”を意識しています。台詞自体、嫌味なものが多いので、それを自分なりにかみ砕いて稽古で(石丸)幹ちゃんにぶつける。それを見て、(演出の)山田(和也)さんが“いいね”と言ってくださる、といった具合に作っていきました。今回はさらにキャラクターを立てようと、“狂犬”のようなストライドをイメージしています」

――ジキル博士役の石丸さんとは、つい先日、『TENTH』の『ニュー・ブレイン』ダイジェスト版でも共演されていましたが、共演機会が多いということは、お二人の演技のスタンスが共通していらっしゃるのかなと推測します。

「お芝居に対する考え方は似ているのかも知れません。(芝居の)答えは相手(役)にあるというか、自分の台詞だけ覚えて、相手の台詞の言葉尻をとらえてこちらから発して終わり、というものではなく、相手の言っていることを聞いて、その目から答えを引き出してゆく。普通に人間がとりあっているコミュニケーションを、石丸さんは舞台上でもできる相手だと思っています」

――本作には様々な魅力があると思いますが、畠中さんにとって最大の魅力は?

「やはり音楽ですね。素晴らしい楽曲の目白押しで、それで(聴く人を)圧倒することができる作品だと思います。でも体力は必要ですね、特に石丸さん。次から次へと大曲を歌わないといけなくて、どういうトレーニングをしているのかなと思います。僕のパートは数曲ですが、歌ってるというより暴れてる感じ(笑)。芝居の延長です。歌の素晴らしい方はたくさんいらっしゃるので、僕はそこで勝負、と思っています(笑)」

――三度目の今回、ご自身の中でテーマにされていることは?

「“徹底する”ということでしょうか。どこかで迷いがあると、素に戻ってしまいます。どの舞台でも役になりきっているつもりですが、なりきれない部分もあって、それを排除してゆくことが今回のテーマです。完璧にできる人なんていないと思いますけど、そこを目ざすことが僕らの仕事だと思います」

――今回、どんな舞台になりそうでしょうか?

「新しいキャストが入ってきたことで、だいぶ様変わりするんじゃないかな。相手が変わると芝居も変わりますし。例えば僕に関していうと、(ストライドが執着する)エマ役が(宮澤エマさんに)変わったことで、彼女がどういう芝居をするか、稽古しながらこうだよね、ああだよねと話し合ったりすると思います。おそらくかなり変わると思いますので、楽しみにしていてください」

――プロフィールについても少しうかがいたいのですが、畠中さんと言えば以前は“音楽座の二枚目”のイメージだったのが、いつしか“なんでもござれ”と言いますか、本当にいろいろなタイプの役をこなしていらっしゃいます。役柄の幅は、ご自身で意識して広げて来られたのでしょうか?
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部

『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部

「役に恵まれているのは本当に有難いことです。自分で思ってかなうものではなく、やっぱり選んでいただく立場ですから。こういう役をやってみたいと思っていると、それに近い役のお話をいただけてきました。中でもこのストライド役や、『グレート・ギャツビー』のジョージ役は転機になりましたね。ジョージ役は、もっと年長でふくよかな人物とイメージされていたそうですが、僕に声をかけていただいたので、期待に応えなくちゃと頑張りました。とてもいい役をいただいたなと思っています」

――昨年はミュージカル座の『結婚行進曲』に主演されましたが、出ずっぱりでダンスや歌もふんだんにありましたね。

「大変でした(笑)。こんなに動いて体が持つのか、どこまでできるか試されてるような舞台でしたが、楽しかったです。やっぱり板の真ん中に立つというのは気持ちがいいし、最後にすべてが浄化される気持ちになれるので、大変だけど主役っていいよなと感じましたね」

――続く『デパート!』では、二役で演じた飄々たる百貨店の創業者役がなんとも楽しそうでしたし、社長役では挫折した若い職人を励ますシーンが印象的でした。

「あまり深いことを考えず、純粋に楽しめた作品です。オリジナル・ミュージカルとしての評判も高く、出演できてよかったと思っています。説得のシーンは、自分の家族には言えないことを僕と職人が互いにぶつけ合っているという、切ないシーンでした」

――そして最近出演された『TENTH』の『ニュー・ブレイン』では、石丸幹二さんの恋人役をダンディに演じました。
『TENTHundefined「ニュー・ブレイン」ダイジェスト版』(C)Marino Matsushima

『TENTH 「ニュー・ブレイン」ダイジェスト版』(C)Marino Matsushima

「9年前に本編で演じた時には、ゲイの役が初めてで“自分にできるだろうか”と思いましたが、NYからいらっしゃったダニエルさんという演出の方が、動き方など実に細かく教えてくださったんです。9年ぶりでも、結構思い出すもので、ぽんと戻れる感覚が楽しかったですね。新キャストも二人いましたが、同窓会のような感じもあって楽しかったです」

――『ジキル&ハイド』の後には、吉原光夫さん演出の音楽劇『お月さまへようこそ』に出演。若手のキャストにベテランがお一人ということで、皆の悩みを受け止めるような役どころでしょうか。

「バーテンダー役で、そのような役どころのようです。歌も少しありますね。逆に僕のほうがみんなに頼ってしまうかもしれません(笑)」

――若い俳優さんから、演技のアドバイスを求められることも多くなってきたのではないでしょうか。

「そうですね。“僕、どうですか”みたいな漠然とした聞き方だと戸惑うけど、僕に答えられることはなるべくお答えしています。でも同じ舞台に立っていれば、立場は一緒です。先輩とか後輩とかあまり意識しませんね」

――デビューから今までの間で、ミュージカル界の変化をどうお感じですか?

「昔は“座長公演”的な空気というか、アンサンブルとメインキャストの間に距離があることもありましたが、今はとてもフランクで、皆が居やすい環境を作ってくれる座長さんが多いですね。例えば石丸さんは、皆と同じスタートラインに立って、同じことで悩んでくれるし、変に気を遣わせず、自分のやるべきことに集中できる環境を作ってくれる。より、欧米のミュージカル界の形態に近付いているんじゃないかなと感じます」

――もう一つ、今年は『ジャージー・ボーイズ』へのご出演も決まっています。

「ノームという、初演では戸井勝海さんが演じていた役です。既に(作品が)出来上がっているところにぽんと入るのは怖いけれど、すごくいいストーリーなので、頑張ります」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「夢は果てしないですよ。“これは畠中洋にしかできないだろう”“この役は畠中でないと見たくない”と思ってくださる、そんな俳優になりたいです。そのためには、感性がすべてだと思っているので、いろんなことを感じていきたいですね。何でも読んで見て聞いて、そこから感じたことを大切に貯めておく。そして必要な時にアウトプットできるよう、日々、吸収し続けていきたいです」

【観劇レポート】
偽善の時代に放たれたアンチヒーローと“善”の葛藤を通して、
現代社会に鋭い問いを発する、痛快かつ重厚なエンタテインメント

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

1888年、ロンドン。病院を訪ねた青年医師ヘンリー・ジキル(石丸幹二さん)は、拘束服を着せられた一人の精神病患者に、痛ましい表情で「父さん」と呼びかける。かつての面影をとどめない父の姿に打ちひしがれつつ、人間の内面に働きかける新薬開発を成功させなければと、決意を新たにするヘンリー。

主人公の心情が丁寧に、きめ細やかに表現されることで、この後のヘンリーの“神の領域への挑戦”の原点がくっきりと浮かび上がる幕開けです。
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部


舞台は一転、街中へ。さまざまな階層の人々が“本音と建て前”を使い分ける世相をアグレッシブに歌う(“嘘の仮面”)のをよそに、ヘンリーは病院の最高理事会で新薬の人体実験許可を得ようとするが、あえなく却下されてしまう。恋人エマ(宮澤エマさん)との婚約パーティーの後、友人の弁護士アターソン(田代万里生さん)とパブを訪ねたヘンリーは、娼婦ルーシー(笹本玲奈さん)の一言からインスピレーションを得、新薬を自分の体で試すことに。

しかし薬を飲んだ彼は、ヘンリーとは全く別の人格、エドワード・ハイドとなってしまう。異様な高揚感の中で「自由だ!」と言い放った彼は通りへと繰り出し、ヘンリーの実験をすげなく却下した理事たちを一人、また一人と殺してゆく。時折ハイドから“元に戻る”ヘンリーは、ハイドの暴走を食い止めようとするが……。
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部


フランク・ワイルドホーンのエネルギッシュな楽曲に乗せ、二人の女性との異なる関係性(一方は愛と信頼、もう一方は情欲)も絡ませつつ、悪であると同時にある種“アンチヒーロー”でもあるハイドと、“善”であるヘンリー・ジキルの対立をスリリングに描いた本作。ジェットコースター的なストーリーに身を委ねるだけでも十分に楽しめる作品ながら、科学万能主義への警鐘や人間の傲慢さ、哀しさをしっかりと描き、いっそうの重厚感を備えているのがこの日本版です。
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部


作品世界のスケールの大きさに飲み込まれることなく、逆に溢れ出さんばかりのパワーでそれぞれに存在感を放っているのが、今回のキャスト。繊細さと力強さを兼ね備え、大曲の連続もものともしない驚異の喉の持ち主・石丸幹二さんを筆頭に、健康的なルックスと最下層の娼婦という役柄のギャップが哀しさを生んでいるルーシー役の笹本玲奈さん、両家の子女というだけではない芯の強さをナチュラルに醸し出すエマ役の宮澤エマさん。
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部


良心的な青年アターソンを、時に声をつぶし、弁護士としての落ち着きを漂わせつつ堅実に演じる田代万里生さん、インタビュー記事(前述)で予告しておられた通り、“狂犬”的な野心、ヘンリーやエマに対する感情を迸らせ、躍動的に恋敵サイモン・ストライドを演じる畠中洋さん。淡々とした台詞の中に主人への愛情をちらりと覗かせる執事プール役・花王おさむさんや、思慮深く、ヘンリーの意欲を買っているエマの父ダンヴァース・カルー卿役・福井貴一さんもそれぞれのカラーで物語に重厚感を与え、“憎まれ役”の理事役たちの中では、何度も殺人の現場に居合わせ、次第に恐怖の度合いを増してゆくサベージ伯爵役・川口竜也さんが程よい“滑稽さ”を醸し出します。
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部


演出面でとりわけ効果を上げているのが、特徴的なその照明(高見和義さん)。生き物のように動き、交錯する白い光は、幕開けの病院内の光景を冷え冷えと照らし出し、運命の過酷さを強調。またすべてが収束する幕切れでも中心部分を照らすことで、人智を超えたものの眼差しをも想起させます。

ジキル―ハイドの物語は一つの収束を見ましたが、それから1世紀以上の時を経て医療や科学が目覚ましく発展した今、彼のようなタブーを冒す人間が出てくることはないか、あるいは今後、AI(人工知能)が自ら行動を始めることはないのか。エンタテインメントとして存分に楽しませつつも、現代社会への鋭い問いが胸に刺さらずにはいられない舞台です。

*次ページで『マディソン郡の橋』他の演目をご紹介しています!
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