6世代目は“4WD”と“トルコンAT”を採用
BMWのハイパフォーマンスモデルを手がけるBMW M社が送り出す、5シリーズをベースとしたM5。ボディサイズは全長4903mm×全幅1903mm×全高1473mm、ホイールベース2982mm。国内での価格は1703万円となる
なるほど、旧型よりもハイパワー&ビッグトルクを誇り、0→100km/h加速タイムもはっきりと速くなっている。けれども、M社の中核モデルであるM5に求められてきたのは単純な速さだけではなかったはず。果たして、次期型には熱心なファンを説得できるだけの新たな材料が他にあった。
例えば、DSCオフの完全後輪駆動(FR)モードがあること、だ。そのうえ、四駆システムを搭載してもその車両重量は旧型より軽く、そこにハイパワー&ビッグトルクに進化した4.4L直噴V8ツインターボエンジンを積んでいる、となれば、期待に胸が“もういちど”弾むというもの。
ちなみにこのV8エンジンは、ほとんど新設計だ。パワースペックは600馬力を超えてきた。トルクも増大しており、それゆえ、4WD化は必須だったともいえる。全使用領域における確実でスムースな加速を得るためにも、トルコンATとの組み合わせがベターであることは間違いない。変速時間などミッションそのもののパフォーマンスも、今やデュアルクラッチシステムを上回っているとプレス資料には記されていた。これで、重量面でのデメリットもないと聞けば、とりあえず、パワートレーン関連の文句は実際に試してみるまでは言うまい……。
心地よい弾力。驚くほどの乗り心地の良さ
M専用4WDシステム(M xDrive)と駆動配分を最適化するアクティブMディファレンシャルを、M専用システムで制御。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)を備え、日常からサーキットまで多様な走りに対応する
最も驚いたのが、乗り心地の良さだった。ノーマルグレードより、がっちりとしており、濃密でソリッドだけれども、硬いか、と言われると、違うと答える。決して柔らかくはないが、ゴツゴツする硬さはまるでない。心地よい弾力がある。段差を超える際には、さすがにガツンとくるが、それもイッパツのみ。きれいな収束を見せるから、まるで苦にならない。
スポーツサルーンで、これほど素晴らしいアシのセットは初めてかもしれない、と、試乗中に何度も隣に座る同業と顔を見合わせて感嘆することしきりだった。あまりに心地よ過ぎて、このモードのままでは楽しむ気にもならない。心地よく走ることが既に楽しいと思える粋に達しているのだ。
尋常でないスパルタンさ、驚愕の完全FRモード
基本設定はDSCオン・4WDモード。MDM(Mダイナミック・モード)では4WDをスポーツに、後輪へのトルク配分を増大、スリップ許容量が大きくなる。さらにDSCオフで4WD/4WDスポーツ/2WDのモードが選択可能に
3段階のシフト特性が選択できるドライブロジックの付いた新型8速ATを搭載。モード1は効率的な走りを、モード2はシフト時間を短縮しスポーティな走りを。モード3ではシフト時間を最短化、複数のギアを飛び越えたシフトダウンも可能に、強制シフトアップも行われない
同時に、ドライバーの腰から後に巨大な力の塊が存在し繋がっていることも判る。後輪に、すべてのパワーが載っているという、ビッグパワーFR車に特有の感覚だ。それを右足一本で、ぞくぞくしながら解き放っていくわけだが、踏み込みに慎重さを忘れてしまうと、溜め込められていた力が途端に爆発し、リアのブレークをなだめることも、抑えることも難しくなる。尋常じゃないスパルタンさというべきで、二度ほどハーフスピンをしでかした後は、右足も、そして心も、完全にビビってしまった。
スーパーカー顔負けのパフォーマンスと、高級サルーンそのもののライドコンフォートを手に入れた新型M5は、正にジキルとハイドなスポーツサルーンである。このあたり、同じような性能をアピールするメルセデスAMG E63Sや、アウディRS5とはまた違う、Mファンも納得の、極めてBMW M的でかつ最高にBMW的なパフォーマンスを得たと言っていいだろう。