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“スーパーカー+高級サルーン” 驚きのBMW M5試乗

M社が開発した5シリーズのスポーツモデル。6世代目はトルコンATやモデル初の4WDなど、大幅な変節を遂げています。その走りは正にジキルとハイド。驚愕の乗り心地と尋常でない完全FRモード…、ポルトガルの公道で“Mのサルーン”の真価を試してきました。

西川 淳

執筆者:西川 淳

車ガイド

6世代目は“4WD”と“トルコンAT”を採用

BMW M5

BMWのハイパフォーマンスモデルを手がけるBMW M社が送り出す、5シリーズをベースとしたM5。ボディサイズは全長4903mm×全幅1903mm×全高1473mm、ホイールベース2982mm。国内での価格は1703万円となる

新型M5(G30)最大のポイントはM xドライブの採用、つまりAWD化だ。さらに、今やスポーツモデルの主流であるデュアルクラッチ式のトランスミッションではなく、ましてやシングルクラッチシステムでもない、トルクコンバーター付8速ステップトロニックATが組み合わされた、と聞けば、M社がいくらかき口説いたところで、従来のMファンの新型を見つめる視線は冷たくならざるをえない。M5もついに、FRでもデュアルクラッチでもない、フツウの高性能サルーンに成り下がってしまったのか……。

なるほど、旧型よりもハイパワー&ビッグトルクを誇り、0→100km/h加速タイムもはっきりと速くなっている。けれども、M社の中核モデルであるM5に求められてきたのは単純な速さだけではなかったはず。果たして、次期型には熱心なファンを説得できるだけの新たな材料が他にあった。
BMW M5

CFRP製のルーフやアルミ製エンジンフードを採用。リアディフューザーなども一新され、Mモデルらしい力強いスタイルに。0-100km/h加速は3.4秒とされた

例えば、DSCオフの完全後輪駆動(FR)モードがあること、だ。そのうえ、四駆システムを搭載してもその車両重量は旧型より軽く、そこにハイパワー&ビッグトルクに進化した4.4L直噴V8ツインターボエンジンを積んでいる、となれば、期待に胸が“もういちど”弾むというもの。

ちなみにこのV8エンジンは、ほとんど新設計だ。パワースペックは600馬力を超えてきた。トルクも増大しており、それゆえ、4WD化は必須だったともいえる。全使用領域における確実でスムースな加速を得るためにも、トルコンATとの組み合わせがベターであることは間違いない。変速時間などミッションそのもののパフォーマンスも、今やデュアルクラッチシステムを上回っているとプレス資料には記されていた。これで、重量面でのデメリットもないと聞けば、とりあえず、パワートレーン関連の文句は実際に試してみるまでは言うまい……。
BMW M5

最高出力600ps/最大トルク750Nmを発生する、4.4L V8ターボを搭載。新開発のターボチャージャーを採用、先代より最大トルクを70Nm増大させている


心地よい弾力。驚くほどの乗り心地の良さ

BMW M5

M専用4WDシステム(M xDrive)と駆動配分を最適化するアクティブMディファレンシャルを、M専用システムで制御。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)を備え、日常からサーキットまで多様な走りに対応する

ポルトガルにて開催された国際試乗会。満を持してM5に乗り込み、公道を走り始める。四輪駆動の恩恵は、たとえば始動時のデフォルトであるDSCオン+4WDモードにおける、ズシリとあからさまに安定したステアフィールに、既に現れていた。はっきりと軽いと感じる車体が弾き飛ばされるように加速しても、フロントがしっかりと路面をつかんで放さない。ハンドルを動かすことさえ億劫になってしまうほどの安定感、安心感を提供してくれる。
BMW M5

大型デジタルメーターパネルはM専用デザインに。マルチファンクションステアリングには、好みに合わせて設定した駆動系などの特性をボタン1つで呼び出せる赤いボタン(M1、M2)が備わる

BMW M5

シートはメリノ・レザーを標準で採用。前席のMスポーツ・シートは着座位置やサイドサポートを調整、オプションでバケット型のMマルチ・ファンクション・シートなども用意される

最も驚いたのが、乗り心地の良さだった。ノーマルグレードより、がっちりとしており、濃密でソリッドだけれども、硬いか、と言われると、違うと答える。決して柔らかくはないが、ゴツゴツする硬さはまるでない。心地よい弾力がある。段差を超える際には、さすがにガツンとくるが、それもイッパツのみ。きれいな収束を見せるから、まるで苦にならない。

スポーツサルーンで、これほど素晴らしいアシのセットは初めてかもしれない、と、試乗中に何度も隣に座る同業と顔を見合わせて感嘆することしきりだった。あまりに心地よ過ぎて、このモードのままでは楽しむ気にもならない。心地よく走ることが既に楽しいと思える粋に達しているのだ。

尋常でないスパルタンさ、驚愕の完全FRモード

BMW M5

基本設定はDSCオン・4WDモード。MDM(Mダイナミック・モード)では4WDをスポーツに、後輪へのトルク配分を増大、スリップ許容量が大きくなる。さらにDSCオフで4WD/4WDスポーツ/2WDのモードが選択可能に

そこで、MDMモード(Mダイナミック・モード)を選んでみた。4WDのままではあるが前後の駆動配分がよりスポーティとなる。リアアクスルへの駆動配分が増して、いっきにFRらしいハナの動きを手に入れた。リアのブレークもある程度許すが、危なくない程度に制御されており、全幅の信頼を背景に、600馬力以上を存分に楽しむことができる。最新のスーパーカーと同じ志向と言っていい。
BMW M5

3段階のシフト特性が選択できるドライブロジックの付いた新型8速ATを搭載。モード1は効率的な走りを、モード2はシフト時間を短縮しスポーティな走りを。モード3ではシフト時間を最短化、複数のギアを飛び越えたシフトダウンも可能に、強制シフトアップも行われない

さらにDSCをオフにすれば、4WD、4WDスポーツ、そして完全FRを選ぶことができる。FRモードでは、4WD状態に比べて、まるでノーズから重たいエンジンをごっそり抜いてしまったかと思えるほど、前アシがいきなり自由に動きはじめた。

同時に、ドライバーの腰から後に巨大な力の塊が存在し繋がっていることも判る。後輪に、すべてのパワーが載っているという、ビッグパワーFR車に特有の感覚だ。それを右足一本で、ぞくぞくしながら解き放っていくわけだが、踏み込みに慎重さを忘れてしまうと、溜め込められていた力が途端に爆発し、リアのブレークをなだめることも、抑えることも難しくなる。尋常じゃないスパルタンさというべきで、二度ほどハーフスピンをしでかした後は、右足も、そして心も、完全にビビってしまった。
BMW M5

5シリーズ同様、ステレオカメラと5つのセンサーを用いた、運転支援システムのドライビング・アシスト・プラスを採用

スーパーカー顔負けのパフォーマンスと、高級サルーンそのもののライドコンフォートを手に入れた新型M5は、正にジキルとハイドなスポーツサルーンである。このあたり、同じような性能をアピールするメルセデスAMG E63Sや、アウディRS5とはまた違う、Mファンも納得の、極めてBMW M的でかつ最高にBMW的なパフォーマンスを得たと言っていいだろう。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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