『ジーザス・クライスト=スーパースター』
2月1日=パルテノン多摩大ホール 以降全国を巡演『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:上原タカシ
1969年、当時まだ新人だったアンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライスのコンビが、キリスト最後の7日間を“ロックオペラ”化、一枚のアルバムを発表しました。ジーザスやユダ、マグダラのマリアらの葛藤を多彩な曲調で描いたアルバムは世界的な話題を呼び、コンサート、ミュージカル、映画版へと発展。
劇団四季は1971年のブロードウェイ版誕生のわずか2年後に本作を初演、歌舞伎のヴィジュアル、和楽器を取り入れた「ジャポネスク」とゴルゴダの丘を再現したリアルな「エルサレム」の2演出が高く評価されてきました。今回は後者のバージョンでの上演。“剥き出しの魂”が衝突する白熱のドラマが、再び日本各地を席捲することでしょう。
【稽古場取材会レポート】
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
【出演予定キャスト(神永東吾さん、芝清道さん、山本紗衣さん)囲み取材会】
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古取材会にて。(C)Marino Matsushima
――今回、どんなところにこだわっていますか?
神永東吾さん(C)Marino Matsushima
山本紗衣さん「マグダラのマリアは聖書に登場する人物で、実在したとは思いますが情報が少なく、どうしても資料を読んだり、想像したり、アドバイスをいただきながら膨らましていかなければなりません。(説明されていない)残りの部分を埋めて行く作業をしながら、マリアとしてしっかり生きられたらと思っています」
芝清道さん「この荒野のセットを御覧いただければわかるとおり、この舞台(エルサレム版)はとてもリアルに表現された世界なので、とにかく嘘をつかないように。ロック“オペラ”ということで、全編が歌でつながっている作品ですが、歌でなくストレートプレイのようにお届けできたら成功かなと思います。とにかく素晴らしい楽曲なのですが、それに埋もれないよう、そこで歌われる言葉を大事にして、“ストレート・プレイみたいだったね”と思っていただき、感動をお届けできれば。聖書に出てくる物語が、実際はこういうことだったのかと思っていただきたいですね。
最後にユダは「Superstar」という曲を歌いますが、この曲は作者のロイド=ウェバーとティム・ライスが最初に作った曲で、それがイギリスでチャート1位になったことで作品化が進んだという背景があります。この歌の“あなたはいったい誰だったのか”というジーザスへの問いかけからすべてが始まっている作品です」
――芝さんは本作で様々な役を演じてこられましたね。
芝清道さん(C)Marino Matsushima
――演じる上で伝えたいことは?
神永「伝えたいことはたくさんありますが、世界中、どこの演出を見ても、劇団四季版の『JCS』は特別と感じています。劇団四季に入りたいと思ったきっかけになった作品というのもありますが、ジーザスやユダら、様々な登場人物の葛藤や悩みが描かれ、見どころがたくさんあります。その中でもジーザスは周りの人々と関わりつつ、(物語を)一つの感動に導いてゆく役柄で、彼にとってはゴルゴダの丘を十字架を背負いながら歩いてゆく過程が一番大きな出来事です。ここをどう歩いていくのか。僕自身クリスチャンということもあり、毎回悩んできましたが、ほんの少しでもジーザスに近づけたらと思いながら演じています」
山本「この作品は勧善懲悪を描いているわけではなく、それぞれに正義を抱いて生きているので、それぞれの人物の生きざまを感じていただけると嬉しいです」
芝「ユダはおよそ2000年間、(史上)最悪の裏切者と言われてきたけれど、そうではない、彼には神に与えられた役割があって、それを全うすることによってジーザスの物語が成立してゆくのだ、というのが本作の解釈です。最後に「Superstar」を歌っているとき、僕は天国にいるつもりで歌っているんですよ。一つの役割を果たしたということで天国に召されたのじゃないか、と感じるんですね。ユダは(歴史上)憎まれ続けた存在ですが、ある意味、神に選ばれた存在であって、本作でも“なぜ私を選んだんだ”と叫びます。なぜ卑劣な役割を私に、と。そうした部分が伝わると嬉しいですね」
――今回のカンパニーはどんな雰囲気でしょうか?
芝「通常、僕はカンパニーの立ち上げから一緒に作っていますが、今回は他の演目に出ていて、ある程度出来上がったところで加わりました。年々みんなのレベルが上がっていることもあって、参加した時点で既にかなりの完成度でしたが、この作品では“生きている”エネルギーやパッションが大事。今後、もっともっとその部分を注入していけたらと思っています。この作品は20年以上やっていますが、その中でもかなりいい感じですよ」
――山本さんは『オペラ座の怪人』クリスティーヌ役のソプラノ・ヴォイスの印象が強いですが、今回はぐっと音域が下がるお役ですね。
山本紗衣さん(C)Marino Matsushima
――本作を“今”、この時代に上演する意義は何でしょうか。また、初めて御覧になる方にどう御覧いただきたいですか?
芝「昔も今も、人間世界は変わっていないなと感じられる舞台です。権力者たちの覇権争いだったり、欲というのは、2000年経っても変わらない。(人間世界は)醜いものですが、その中に光がある。『ノートルダムの鐘』にも通じることですが、小さいながらも希望の光はある、それに救われるというのは昔も今も変わらないんだなあと感じます。これを御覧になって、皆さんが少しでもそうした光を見出し、優しさを感じていただけたら嬉しいです。
始めて御覧になる方には、この作品はとにかく音楽が圧倒的に素晴らしいので、ミュージカルは敷居が高いと思われるかもしれませんが、舞台は生きものであって、今そこで起こっているものの良さを体験していただけたらと思います。二度とできない“その一瞬のみ”のライブの魅力を感じていただきたいですね」
山本「ここに登場する人々はみんなその日その日を、自分のために生きています。根底には利己心がある。でもイエスが(人々に)伝えたかったのはそこではない、というところに目を向けていただけたら、人間は優しくなれる、人に与えることのすばらしさを感じていただけるんじゃないかなと思います」
芝「愛、ですよね」
神永「軽く楽しめる作品ではないけれど、まずは気負わず、足をお運びいただければと思います。本作にはいろんなキャラクターが登場して、ジーザスもいればピラトのような立場の人、ジーザスを3度も否定するペテロもいます。そういったキャラクターを観ながら、自分だったらこんな時、どんな選択をするだろうと考えながら御覧いただけたら、一層面白いかもしれません」
“マグダラのマリアがいたからこそ、
ジーザスは信念を貫けた”
――(質問・松島まり乃)マグダラのマリアはいろいろな演じ方があるかと思いますが、山本さんの中ではどんなイメージを持たれていますか? 例えば、去年、一昨年とロンドン(Open Air Theatre)で本作が上演され、とりわけ昨年のロンドン版で登場したマリアは、自立した女性像で、ややもするとジーザスが彼女に依存しているように見えました。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
芝「“彼だけが認めてくれる”と思えたんだよね」
山本「そう、彼だけが認めてくれる。同時に、ジーザスとしても、彼女だけが(自分を)分かってくれると感じているのではないかと思います。先日、神永さんとも話していたのですが、マリアだけが、自分の身を削って人に何かをしてあげる、与えるということを知っている。それが高い香油をつけるという行為に象徴されているんですね。弟子として彼から学ぼうとする姿勢もあるし、男女の愛ももちろんあると思います」
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
思えば同じロイド=ウェバー作品『キャッツ』のグリザベラという役も、醜さをすべて背負ったうえで最後に昇天していきます。醜いものの中にこそ清らかなものがある、というイメージとして、通じるものがあるかもしれません。そういう神聖さがこの役にはあるんじゃないかと、ロイド=ウェバー作品をほぼコンプリートしてきた(笑)僕としては感じます」
――(質問・松島まり乃)神永さん的には、マリアの中に母性的なものを感じますか?
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima
芝「僕もジーザスをやったことがありますが、彼はこれから死ぬとわかっているなかで、マリアという癒し、柔らかさをふと感じることで、“彼女がいるから”信念を貫いていける。それが全く無かったらジーザスは崩壊してしまっていたかもしれません。マリアがいたからこそ、ジーザスは十字架までの道のりを歩んでいけたのではないかと思います」
【観劇レポート】
(キャストは筆者の鑑賞回の出演者です)
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健
*次ページで【ブロードウェイと銃弾】観劇レポートを掲載しています。