ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年1~2月の注目!ミュージカル(3ページ目)

謹賀新年! 今年も舞台情報や取材レポート、キャストやスタッフへのインタビューを通して、ミュージカルの魅力を多角的にお伝えします! 新春の劇場街はシアター・クリエ10周年を寿ぐ記念公演『TENTH』、江戸の“謎”をポップに描く『戯伝写楽』をはじめ、話題作がずらり。レポートも随時追記していきますので、お見逃しなく!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

ジーザス・クライスト=スーパースター

2月1日=パルテノン多摩大ホール 以降全国を巡演
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:上原タカシ

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:上原タカシ

【見どころ】
1969年、当時まだ新人だったアンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライスのコンビが、キリスト最後の7日間を“ロックオペラ”化、一枚のアルバムを発表しました。ジーザスやユダ、マグダラのマリアらの葛藤を多彩な曲調で描いたアルバムは世界的な話題を呼び、コンサート、ミュージカル、映画版へと発展。

劇団四季は1971年のブロードウェイ版誕生のわずか2年後に本作を初演、歌舞伎のヴィジュアル、和楽器を取り入れた「ジャポネスク」とゴルゴダの丘を再現したリアルな「エルサレム」の2演出が高く評価されてきました。今回は後者のバージョンでの上演。“剥き出しの魂”が衝突する白熱のドラマが、再び日本各地を席捲することでしょう。

【稽古場取材会レポート】
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

全国公演初日を間近に控えた1月25日、あざみ野の稽古場で『ジーザス・クライスト=スーパースター』(以下JCS)の公開稽古が行われました。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

稽古場には本番さながらに八百屋舞台(傾斜舞台)が組まれ、荒野が再現。1メートルもない距離からみると、このセットがかなりの角度のものであることに改めて気づかされます。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

開始は予定通り、15時きっかり。静寂の後にファンファーレ、そして不穏な序曲が鳴り響き、荒野で“救い”を求める群衆の姿が照らし出される。彼らはジーザスという一人の青年を崇めるが、弟子の一人ユダは現状に懐疑心を抱き、群衆はますます熱狂。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

その姿にユダヤ教の司祭たちは恐れをなし、ジーザスの“排除”を画策し始める。そんな中でジーザスに寄り添うマグダラのマリアは、唯一彼を理解し、“ただの男”として愛そうとするが……。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

ジーザス、ユダ、マリア、司祭たち、ピラト、そして群衆。ロイド=ウェバーが多様な音楽的ボキャブラリーを駆使して作曲したエネルギッシュな旋律に乗せて、目の前では遠い時代の遠い物語でなく、“生身の人間”たちがむき出しのエゴをぶつけ合います。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

中盤まで(マリアの「私はイエスがわからない」)の通し稽古の後には10分間ほどダメ出しが行われ、群衆の位置取り等について細かく指摘。現在の完成度に満足することなく、今回のカンパニーがより高みを、より“完璧さ”を追求していることが伝わってくる稽古となりました。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima


【出演予定キャスト(神永東吾さん、芝清道さん、山本紗衣さん)囲み取材会】
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古取材会にて。(C)Marino Matsushima

続いての取材会では、ジーザス、ユダ、マリア役のお三方が登場。語れば語るほど話が深まってゆく中で、特に史実においては謎の多い“マグダラのマリア”という役を起点に、お三方の興味深いご意見が飛び出しました。

――今回、どんなところにこだわっていますか?
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

神永東吾さん(C)Marino Matsushima

神永東吾さん「今回、5回目のジーザス役を演じる機会をいただき、感謝しています。この作品をどこまで表現できるだろうとこれまで悩み、勉強し、やっとここまでたどり着いたという感覚があります。以前、演出家にも指摘されたのですが、ジーザスという“次元の違う”存在をどうやって表現できるか。群衆と交わり、その真ん中に立っている姿を、どうやって皆さんに納得していただけるか。やればやるほどわからなくなり、悩みながらも、こだわって演じています」

山本紗衣さん「マグダラのマリアは聖書に登場する人物で、実在したとは思いますが情報が少なく、どうしても資料を読んだり、想像したり、アドバイスをいただきながら膨らましていかなければなりません。(説明されていない)残りの部分を埋めて行く作業をしながら、マリアとしてしっかり生きられたらと思っています」

芝清道さん「この荒野のセットを御覧いただければわかるとおり、この舞台(エルサレム版)はとてもリアルに表現された世界なので、とにかく嘘をつかないように。ロック“オペラ”ということで、全編が歌でつながっている作品ですが、歌でなくストレートプレイのようにお届けできたら成功かなと思います。とにかく素晴らしい楽曲なのですが、それに埋もれないよう、そこで歌われる言葉を大事にして、“ストレート・プレイみたいだったね”と思っていただき、感動をお届けできれば。聖書に出てくる物語が、実際はこういうことだったのかと思っていただきたいですね。

最後にユダは「Superstar」という曲を歌いますが、この曲は作者のロイド=ウェバーとティム・ライスが最初に作った曲で、それがイギリスでチャート1位になったことで作品化が進んだという背景があります。この歌の“あなたはいったい誰だったのか”というジーザスへの問いかけからすべてが始まっている作品です」

――芝さんは本作で様々な役を演じてこられましたね。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

芝清道さん(C)Marino Matsushima

芝「僕は学生時代、日生劇場で本作を観たのが初めてのミュージカルで、“なんだこれは!”と衝撃を受けました。“この世界は何なんだ”と。その後87年にアンサンブルの群衆役でこの作品に出演し、次に兵士役、その後シモン、ユダ、ジーザスを経てまたユダに戻ってきました。自分の役者人生がジーザスとともにあると感じています」

――演じる上で伝えたいことは?

神永「伝えたいことはたくさんありますが、世界中、どこの演出を見ても、劇団四季版の『JCS』は特別と感じています。劇団四季に入りたいと思ったきっかけになった作品というのもありますが、ジーザスやユダら、様々な登場人物の葛藤や悩みが描かれ、見どころがたくさんあります。その中でもジーザスは周りの人々と関わりつつ、(物語を)一つの感動に導いてゆく役柄で、彼にとってはゴルゴダの丘を十字架を背負いながら歩いてゆく過程が一番大きな出来事です。ここをどう歩いていくのか。僕自身クリスチャンということもあり、毎回悩んできましたが、ほんの少しでもジーザスに近づけたらと思いながら演じています」

山本「この作品は勧善懲悪を描いているわけではなく、それぞれに正義を抱いて生きているので、それぞれの人物の生きざまを感じていただけると嬉しいです」

芝「ユダはおよそ2000年間、(史上)最悪の裏切者と言われてきたけれど、そうではない、彼には神に与えられた役割があって、それを全うすることによってジーザスの物語が成立してゆくのだ、というのが本作の解釈です。最後に「Superstar」を歌っているとき、僕は天国にいるつもりで歌っているんですよ。一つの役割を果たしたということで天国に召されたのじゃないか、と感じるんですね。ユダは(歴史上)憎まれ続けた存在ですが、ある意味、神に選ばれた存在であって、本作でも“なぜ私を選んだんだ”と叫びます。なぜ卑劣な役割を私に、と。そうした部分が伝わると嬉しいですね」

――今回のカンパニーはどんな雰囲気でしょうか?

芝「通常、僕はカンパニーの立ち上げから一緒に作っていますが、今回は他の演目に出ていて、ある程度出来上がったところで加わりました。年々みんなのレベルが上がっていることもあって、参加した時点で既にかなりの完成度でしたが、この作品では“生きている”エネルギーやパッションが大事。今後、もっともっとその部分を注入していけたらと思っています。この作品は20年以上やっていますが、その中でもかなりいい感じですよ」

――山本さんは『オペラ座の怪人』クリスティーヌ役のソプラノ・ヴォイスの印象が強いですが、今回はぐっと音域が下がるお役ですね。
山本紗衣さん(C)Marino Matsushima

山本紗衣さん(C)Marino Matsushima

山本「クリスティーヌは歌姫なので、歌うことが主体ですが、今回のマリア役は音域も低いですし、発声のポジションだけでは表現しきれない作品です。ポジションにとらわれずに、言葉を語ること、音楽に流されず、ストレートプレイのように語ってゆくことに尽きるなと思いながら稽古しています」

――本作を“今”、この時代に上演する意義は何でしょうか。また、初めて御覧になる方にどう御覧いただきたいですか?

芝「昔も今も、人間世界は変わっていないなと感じられる舞台です。権力者たちの覇権争いだったり、欲というのは、2000年経っても変わらない。(人間世界は)醜いものですが、その中に光がある。『ノートルダムの鐘』にも通じることですが、小さいながらも希望の光はある、それに救われるというのは昔も今も変わらないんだなあと感じます。これを御覧になって、皆さんが少しでもそうした光を見出し、優しさを感じていただけたら嬉しいです。

始めて御覧になる方には、この作品はとにかく音楽が圧倒的に素晴らしいので、ミュージカルは敷居が高いと思われるかもしれませんが、舞台は生きものであって、今そこで起こっているものの良さを体験していただけたらと思います。二度とできない“その一瞬のみ”のライブの魅力を感じていただきたいですね」

山本「ここに登場する人々はみんなその日その日を、自分のために生きています。根底には利己心がある。でもイエスが(人々に)伝えたかったのはそこではない、というところに目を向けていただけたら、人間は優しくなれる、人に与えることのすばらしさを感じていただけるんじゃないかなと思います」

芝「愛、ですよね」

神永「軽く楽しめる作品ではないけれど、まずは気負わず、足をお運びいただければと思います。本作にはいろんなキャラクターが登場して、ジーザスもいればピラトのような立場の人、ジーザスを3度も否定するペテロもいます。そういったキャラクターを観ながら、自分だったらこんな時、どんな選択をするだろうと考えながら御覧いただけたら、一層面白いかもしれません」

“マグダラのマリアがいたからこそ、
ジーザスは信念を貫けた”


――(質問・松島まり乃)マグダラのマリアはいろいろな演じ方があるかと思いますが、山本さんの中ではどんなイメージを持たれていますか? 例えば、去年、一昨年とロンドン(Open Air Theatre)で本作が上演され、とりわけ昨年のロンドン版で登場したマリアは、自立した女性像で、ややもするとジーザスが彼女に依存しているように見えました。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

山本「マリアは娼婦ということで、何にも期待せず、かちかちに固まっている心があって、その日その日を生きるために体を売ってきた。そうでないと生きのびられなかった。けれども当時、それは罪深いことで、彼らは人間以下の存在として扱われていました。そんな中で、マリアはジーザスという人物にだけは“光”を感じ、心が溶かされてしまう。そんな初めての感覚に対する畏怖も持っていたと思います」

芝「“彼だけが認めてくれる”と思えたんだよね」

山本「そう、彼だけが認めてくれる。同時に、ジーザスとしても、彼女だけが(自分を)分かってくれると感じているのではないかと思います。先日、神永さんとも話していたのですが、マリアだけが、自分の身を削って人に何かをしてあげる、与えるということを知っている。それが高い香油をつけるという行為に象徴されているんですね。弟子として彼から学ぼうとする姿勢もあるし、男女の愛ももちろんあると思います」
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

芝「僕もロンドンなどで観て、マリアはいろんな演じ方があるんだと思っています。誘惑しているマリアもいれば、清楚なマリアも、本当に愛し合っているマリアもありうる。それによってジーザスとの関係性も変わってくるのかと思いますが、個人的には、劇団四季版『JCS』では、マグダラのマリアにどこか聖母マリアのような母性も加わっているように感じますね。

思えば同じロイド=ウェバー作品『キャッツ』のグリザベラという役も、醜さをすべて背負ったうえで最後に昇天していきます。醜いものの中にこそ清らかなものがある、というイメージとして、通じるものがあるかもしれません。そういう神聖さがこの役にはあるんじゃないかと、ロイド=ウェバー作品をほぼコンプリートしてきた(笑)僕としては感じます」

――(質問・松島まり乃)神永さん的には、マリアの中に母性的なものを感じますか?
『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ジーザス・クライスト=スーパースター』稽古より。(C)Marino Matsushima

神永「母性というか、ジーザスはどうしても孤独な役ですが、マリアは唯一、その孤独を分かってくれる。その“あたたかさ”を感じます。彼女がいることで、“自分は一人ではない”と思える。男女の関係ではなく、そばにいて互いに力になる、“疲れた”と本心も言える存在なのかなと思います」

芝「僕もジーザスをやったことがありますが、彼はこれから死ぬとわかっているなかで、マリアという癒し、柔らかさをふと感じることで、“彼女がいるから”信念を貫いていける。それが全く無かったらジーザスは崩壊してしまっていたかもしれません。マリアがいたからこそ、ジーザスは十字架までの道のりを歩んでいけたのではないかと思います」

【観劇レポート】
(キャストは筆者の鑑賞回の出演者です)
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

東京での専用劇場公演を行わず、全国公演のみを行っている今回の『ジーザス・クライスト=スーパースター』。自由劇場での鑑賞に慣れた首都圏の観客の中には、大劇場での公演を新鮮に感じた方も多いことでしょう。荒野を模したセットは客席に向けて開け放たれ、まるで劇場全体がパレスチナの大地となったかのよう。濃密な空気感の中でジーザス、ユダ、マリアの葛藤が浮き彫りとなる小劇場公演とは一味異なり、遠目から客観的に眺めることで、ジーザスを“救い主”と熱狂的に崇めたかと思えば、手のひらを返したように“殺せ”と叫ぶ群衆が、蠢く一つの生命体であるかのように見え、彼らに翻弄されたジーザスの悲劇が浮かび上がるのです。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

この日のユダ役、芝清道さんは冒頭の「彼らの心は天国に」から終始、ジーザスに対する屈折した思いを会場のすみずみにまで刺さるようなスケール感で歌い、作品をリード。今回の公演でジーザス役デビューとなった清水大星さんは、長身に漂う静謐なオーラと楷書の歌声に男性的な色気があり、マグダラのマリアが「私はイエスがわからない」で“今まで知り尽した男と同じなのに”なぜか惹かれる、ととまどうのが頷けるジーザス役となっています。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

そのマリア役、山本紗衣さんは一貫してジーザス“だけ”を見ている純粋なまでの人物像を自在の歌声で表現。カヤパ役の高井治さんはドラマ性豊かな低音でジーザスという存在を断固として“排除”しようとする聖職者の傲慢さを体現し、その義父アンナス役の阿部よしつぐさんは、その朗らかな歌声が作品に救いを与えた『ノートルダムの鐘』クロパンとは打って変わった苦々しい歌声で役柄を表現。シモン役の大森瑞樹さんは群衆を扇動してジーザスを担ぎ上げようとする狂信者のエネルギーに満ち、ヘロデ王役の北澤裕輔さんは退廃的な生活に逃避しているユダヤの王を優雅に、ひとつまみの“毒”をまぶして演じ、コミック・リリーフ的なヘロデではない新たな人物像を確立しています。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

またこの日、ピラトを演じた山田充人さんは発声、発音ともに極めて明瞭、出番が多くなく謎めいた部分が多いこの人物の内面の変化を克明に表現。特にクライマックス、大音量のロックサウンドを切り裂くように“お前が望むのなら死ね!”と歌う判決が極まっており、直後の「スーパースター」イントロへの橋渡しが見事。本作にとって頼もしいピラト役の誕生と言えましょう。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:荒井健

新キャストを得て航海を始めた今回のカンパニー。ツアーを終える頃にはさらに深化を遂げているだろうことが予想され、濃密なる自由劇場での凱旋公演も望まずにはいられない、2018年版『JCS』です。


*次ページで【ブロードウェイと銃弾】観劇レポートを掲載しています。
 
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