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Appleによるガチャ規制と、ルートボックス問題

Appleは、AppStoreにアプリを提供する開発者に向けた「App Store審査ガイドライン」を改訂し、ガチャにおけるアイテムなどの排出率の表示を義務付けました。これによって方針を変更せざるをえない日本のゲームもありそうですが、実はこれは世界的なガチャ問題が影響している模様です。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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iPhoneのガチャは確率表記が義務に

iPhoneの図

Appleが自主規制に乗り出した背景には、日本だけではないガチャの問題があります

日本ではかなり以前より社会問題となっているゲームにおけるガチャの扱いにおいて、Appleは「App Store審査ガイドライン」を改訂し、ランダムでアイテムなどを提供する仕組み、日本におけるいわゆるガチャで、その排出率を消費者に明示することを義務としました。

簡単かつ大雑把に言えば、iPhoneで遊ぶゲームのガチャは確率表記してねと、そういうことです。ちなみに、規約が改訂されたのは英語版で、日本語版はこの記事を書いている2017年12月22日現在では反映されていない模様です。

このルールが徹底されるとすれば、非常に大きな影響を受けるのは日本のゲーム業界でしょう。なにしろ日本のゲーム業界は、モバイル端末向けゲームのガチャによる収益構造に依存する部分が非常に大きく、また、日本のモバイル端末市場は、Apple製品が圧倒的なシェアを獲得しています。

冒頭で申し上げた通り、日本ではかなり以前からガチャは社会問題として取り上げられてきたわけですが、Appleの対応は、必ずしも日本のゲーム業界が発端で行われたというわけではなさそうです。というのも、実は今、世界的にガチャが問題になっているからです。

世界的な問題になりつつあるルートボックス

ルートボックス

ガチャガチャから連想するのは日本のイメージで、海外では箱のイメージだったりも

日本におけるガチャというのは、海外では「Loot Box」あるいは「Loot Crate」などと称されます(以下ルートボックス)。これが非常に大きな問題として注目を集めたのはエレクトロニック・アーツが提供するファーストパーソン・シューティングのタイトル「Star Wars バトルフロント II」でした。

海外のゲームでもガチャの要素を持つタイトルはありますが、Star Wars バトルフロント IIに搭載されていたのは、排出されたアイテムによってプレイヤー同士の対戦を有利に進めることができる、という点でした。

つまり、ガチャをたくさん回した人が勝ちやすくなるということで、こういう仕組みを支払った方が勝つという意味でPay to Winと言います。任天堂の「スプラトゥーン」最新作に有料のガチャが搭載されて、有利なギアやブキが手に入るようになったらプレイヤーはどんな反応を示すか……と言えば日本のユーザーにも分かりやすいかもしれません。

「Star Wars」を冠する大型タイトルにPay to Winが採用されたということで、ユーザーから大変な批判が起こり、それに伴ってルートボックスそのものの問題が社会的に注目されるようになります。

ベルギーでは、賭博罪に認定の可能性も?

スマートフォンで遊ぶユーザーの図

日本のガチャでもそうですが、未成年がアクセスできるという点は、特に問題視されやすくなります

その中でもとりわけ強く反応した国の1つはベルギーでした。ベルギーではStar Wars バトルフロント IIに加えて、Blizzard Entertainmentが提供するファーストパーソン・シューティングの「オーバーウォッチ」のルートボックスについて、それがオンラインカジノに該当するかという調査が行われています。

また、アメリカにおいては、ハワイ州で2017年11月21日に州議会議員のChris Lee氏がハワイ州を代表して会見を開き、Star Wars バトルフロント IIを名指しで、子どもにお金を使わせるオンラインカジノであるという内容の声明を発表。販売等の自粛や、ルートボックスに代わる仕組みを要求しています。

ゲーマーの論理と社会の論理

ガチャを回すユーザーの図

ガチャの結果が対戦や競争の行方を左右するのか、というのはゲーマーには重要ですが、社会的な問題となった時に論点とされるかは微妙なところかもしれません

少し、話はそれるのですが、ベルギーにおいてStar Wars バトルフロント IIに加えて、オーバーウォッチも槍玉に上がっている点は、注目すべきかもしれません。

ゲームユーザーの視点で考えるなら、Star Wars バトルフロント IIとオーバーウォッチのルートボックスには大きな違いがあります。前者はPay to Winということで大変な批判を浴びましたが、オーバーウォッチのガチャはスキンなどのビジュアル的要素に留まり、ゲームの勝敗には関係が無いため、多くのユーザーに受け入れられていました。しかし、一旦社会問題となってしまえば、そういったゲーム業界的な論理が必ずしも通じるとは限りません。

どちらもくじ引き形式であり、お金を払って当たり外れがあるのだから、賭博のようなものだろう、と判を押されてしまえば、ゲーム業界の論理など関係なく、一律に規制されてしまう可能性は十分にあります。

世界的なルートボックス問題に呼応したAppleの動き

パズドラの図

パズル&ドラゴンズなど、日本のゲームにも大きな影響がありそうです(イラスト 橋本モチチ)

今回のAppleによるガチャの排出率表記義務化は、こうした世界的なルートボックス問題に対する規制の動きや議論に呼応したものと考えられます。問題がより大きくなって、結果的により厳しい規制ができてしまうよりも前に、自主規制をしていこうという動きでしょう。

日本においても日本オンラインゲーム協会(以下JOGA)などの業界団体がガイドラインを設定していますが、AppStoreという販売プラットフォームを運営するAppleが義務付けるとなると、業界団体よりも遥かに大きな影響力を持つことが予想されます。何しろ、Appleがこのルールを厳しく取り締まれば、そこから逸脱するゲームはiPhoenで遊ぶことはできなくなるのです。

実際のところ、JOGAでは、ガチャレアアイテムの取得にかかる推定金額を5万円以内に抑えるといったことや、それを超える場合は推定金額や倍率を表示するといったガイドラインを提示していますが、「レアアイテム」の定義が曖昧なため、メーカーの解釈によって回避が可能な状況になっています。

現在、大手ではガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」やミクシィの「モンスターストライク」などが確率表記を行っていませんが、Appleの規約が運用されれば、これらのゲームも確率が表記されていくかもしれません。

日本のモバイル端末向けゲーム市場は、ガチャなくしては語れないような形になり、それに伴って大きな社会問題となっていましたが、信頼に足る自主規制はなかなか育まれてはきませんでした。一方、海外の大型タイトルにおいてもガチャを搭載するゲームが増えていくことで、各国で社会問題となり、結果Appleが動く形になりました。

そしてこの動きを喜ぶ日本のユーザーがいます。確率表記がなく、どうにもメーカーを信頼できない状態にあったが、これでやっと確率表記してくれるんじゃないかと喜んでいるのです。海外で大きな問題になったおこぼれで、日本のゲーム業界の健全化が進む、というとなんとも情けなく聞こえもしますが、良い方向に進むことを望みたいものです。

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