省エネは将来を生きる子どもたちのためにも大切なこと
また、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」も2016年4月1日に施行されました。
これらは従来の省エネ基準のあり方を大きく見直したものであり、「努力義務」にとどまっていた基準を「適合義務」(今後の適用予定を含む)に改めたことが大きな特長です。
- 2013年4月1日:改正省エネ基準一部施行(非住宅)
- 2013年10月1日:改正省エネ基準一部施行(住宅)
- 2014年4月1日:改正省エネ基準完全施行(非住宅)
- 2015年4月1日:改正省エネ基準完全施行(住宅) *当面は「努力義務」
- 2015年4月1日:住宅性能表示制度(省エネ等級関連)改正
- 2015年7月8日:建築物省エネ法公布(7月1日成立)
- 2016年4月1日:建築物省エネ法の誘導措置(容積率特例、表示制度など)施行
- 2017年4月1日:建築物省エネ法の規制措置(一定規模以上の適合義務、届出など)施行
- 2020年(予定):住宅を含むすべての新築建物が適合義務の対象へ
2017年4月1日に施行された規制措置では、2000平方メートル以上の非住宅(ビルなど)に省エネルギー基準への適合を義務づけ、住宅を含む300平方メートル以上の建築物に届出義務を課しました。今後、段階的に適合義務化が進められていきます。
一般の住宅など「300平方メートル未満の建築物」はいまのところ努力義務のままですが、2020年には改正省エネ基準への適合が義務化される予定で、基準を満たさない住宅を建てることはできなくなります。
2020年と聞いて、まだ先のことのように感じる人がいるかもしれませんが、住宅の時間軸で考えれば、もう目前に迫っているといえそうです。省エネ基準への適合義務化によって住宅市場がどうなるのか、主なポイントをまとめておくことにしましょう。
改正省エネ基準は建物全体で評価する
住宅の省エネルギー基準が初めに設けられたのは1980年ですが、その後1992年および1999年の改正で段階的に強化されてきました。1999年は内容が全面的に見直されており「次世代省エネルギー基準(平成11年基準)」とも呼ばれています。この「次世代省エネ基準」では、住宅について外皮(窓や外壁など)の断熱性能だけを対象にするものでしたが、今回の「改正省エネルギー基準」では、外皮性能の計算方法を改めたうえで、住宅設備などの「一次エネルギー消費量」を評価する基準が設けられました。
建物と設備機器を一体化して、「外皮性能」と「住宅全体で使用するエネルギー量」を総合的に評価しようとするものです。
「一次エネルギー消費量」とは、一戸建て住宅の場合で考えれば冷暖房などの空調機器、換気設備、照明器具、給湯機器、家電調理器具など住宅設備のエネルギー消費量を足し合わせて換算するもので、太陽光発電設備やエコキュートなどによる省エネ効果も考慮されます。
一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)パンフレットより引用
従来の「平成11年基準」は「次世代省エネ基準」といいながら、諸外国の基準に比べてかなり劣っているという指摘がされることも少なくありません。とくに室内における暑さの約7割、寒さの約5割の原因とされる「窓」の性能差が大きいようです。
しかし、「改正省エネ基準」において断熱性能のレベルは従来とあまり変わっていません。その代わりに、省エネの重点を断熱性能から設備機器の性能へ移したと考えればよいでしょう。
住宅の省エネ対応は遅れている!?
以前から省エネ基準はそれほど高いレベルではなかったものの、それに適合して建てられた住宅は少なかったようです。統計データや事業者アンケートなどをもとにした国土交通省の推計(2012年)では、国内の住宅全体で「次世代省エネ基準(平成11年基準・1999年基準)」を満たすものは5%にすぎず、無断熱状態の住宅が39%にのぼりました。
国土交通省公表資料をもとに作成。住宅ストックの約4割が無断熱のままとなっている
そのような背景もあり、社会全体で省エネが進んでいるのにも関わらず、住宅部門のエネルギー消費量は1990年から2011年までの間に約25%増加、二酸化炭素排出量は約48%増加した(資源エネルギー庁調べ)と推計されています。
その一方で、2013年に「改正省エネ基準」が定められてから、2020年に予定される義務化を待つことなく、同基準に適合する住宅もすでに多く建てられています。
2015年度に建てられた住宅について国土交通省がまとめた資料によれば、改正省エネ基準に適合した一戸建て住宅は53%、さらに「誘導基準」(10%程度上回る性能基準:トップランナー基準や低炭素建築物の認定基準など)への適合は34%となっています。
これを事業者規模別にみると、年間着工戸数が4戸以下の事業者は省エネ基準適合率が39%、誘導基準適合率が27%にとどまります。それに対し、年間150戸以上の建売戸建住宅を供給する事業者(トップランナー対象)では、省エネ基準適合率が88%、誘導基準適合率が86%です。
国土交通省「住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会」配付資料より引用
「年間着工戸数4戸以下の事業者」は、地域密着の中小工務店による注文住宅のケースが多いと考えられますが、小規模な建売住宅も含まれているでしょう。いずれにしても、大手に比べて対応が遅れている印象は否めません。
省エネ基準を満たしていなければ既存住宅流通市場で不利に
改正省エネ基準が2020年(予定)に適合義務化されることで、それ以降に建築されるすべての新築住宅は、原則として一定の省エネ性能を満たしたものになります。また、国は2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:通称ゼッチ)の実現を目指すとしています。
ZEHとは、住宅における省エネ性能や断熱性能を高めるとともに、太陽光発電設備などでエネルギーを創ること(創エネ)によって、年間の一次エネルギー消費量をプラスマイナスゼロにすることです。
改正省エネ基準が義務化され、さらにZEHも一般的な存在になることにより、過去に建てられた既存住宅、あるいはいま建てられている「改正省エネ基準に適合しない」住宅は、流通市場のなかで売りづらい立場になることが容易に想像できるでしょう。
将来、中古住宅として売却しようとするとき、まわりの競合物件が改正省エネ基準に適合したものばかりなら、なかなか思うような価格で売ることはできず、売り出す前に省エネ改修工事をしなければならないこともありそうです。
省エネ基準の適合義務化により新築住宅価格が上昇するのではないかと懸念する声も聞かれますが、上でみたように「年間150戸以上の建売戸建住宅を供給する事業者」(トップランナー)ではすでに9割近くが対応済みのため、義務化そのものが直接、今後の価格へ大きく影響することは考えられません。
ただし、ZEH対応にするときにはそれなりのコストがかかるほか、一般的な改正省エネ基準適合住宅でも中小工務店では原価上昇分をうまく吸収できない場合もあるでしょう。
それでも、対応が遅れている中小工務店がなるべく早く改正省エネ基準に沿った住宅を建てるようにしなければ、大手ハウスメーカーによる寡占が進むことになるかもしれません。
改正省エネ基準に沿っているか、まず確認を!
現在、1981年以前に建てられた住宅が「旧耐震建物」として問題視されているのと同じように、省エネ基準適合義務化前の住宅(適合することが証明された住宅を除く)が「旧省エネ建物」として、さまざまな面で不利になる可能性も考えなければなりません。そのため、義務化はまだ先のことなどと考えず、これから注文住宅を建てる場合には改正省エネ基準に沿った性能にしてもらうこと、新築住宅を購入する場合には改正省エネ基準に適合しているのかどうかをよく確認することも大切です。
住宅性能表示制度なら、「温熱環境(断熱等性能等級)」および「エネルギー消費量」が「等級4(エネルギー消費量は等級4または5)」が適合住宅に該当します。
また、省エネ性能に関する表示制度もありますから、新築住宅の売主業者またはハウスメーカーなどから、よく説明を受けるようにしましょう。
省エネ性能が高い住宅には、光熱費などの節約だけでなく、シックハウス対策や結露対策などに効果が期待できるメリットもあります。
結露によるカビやダニの発生や、木材の腐朽・建材の劣化を抑制することができ、結果的に住宅を良好な状態で長く維持することにもつながります。ヒートショックによる健康被害が防止できる点も見逃せません。
省エネ性能を高めることで建築コストがアップして割高なように感じるかもしれませんが、さまざまなメリットも考慮しながらしっかりと検討するようにしたいものです。
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