レジリエンスの新概念「SOC」は、ストレス対処に繋がる!

SOCとはレジリエンスの新概念、ストレス対処の首尾一貫感覚

レジリエンスの高い人は逆境を成長につなげられる

仕事をしていると避けられないのが、ストレス。苦手な人と一緒に仕事をしたり、責任の重い仕事で成果が求められたり、同期に差をつけられたり、時には理不尽なことも押しつけられたり……。そうしたストレスをもたらす困難な出来事をうまく乗り越えられる人と、すぐに心が折れてしまう人がいます。こうした違いは、なぜあるのでしょうか?実は、その違いは、「レジリエンス」の高さにあります。

レジリエンスとは……、
  • 挑戦的あるいは脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応するプロセスや能力、結果のこと(※1)
  • 重大な逆境という文脈のなかで、良好な適応をもたらすダイナミックなプロセス(※2)
をはじめ、複数の定義があります。「レジリエンス」という言葉がメンタルヘルス分野で使われるようになったのは、1940年頃から。1970年代に入り、論文としてまとめられたことを契機に多くの研究が始まり、今では、レジリエントな(レジリエンスが高い)人は、逆境にさらされてもうまく適応できることが知られています。
 

心の折れやすさを握るカギ=SOC

ただレジリエンスの定義は複数あり、また広く、多様に用いられているため、ここでは、もう少し焦点を絞った形で解説した、まさにレジリエンスの新概念ともいえる「SOC(Sense of Coherence):首尾一貫感覚」をご紹介します。

SOCは、1970年代に健康社会学者アーロン・アントノフスキー博士が提唱した概念です。博士は、第二次世界大戦のときナチスドイツの強制収容所に入れられた人たちのその後の心身の健康状態を研究しました。極限のストレスを経験しても、その後の人生で心身の健康を守れているばかりか、その経験を人間としての成長の糧にさえしている人たちがいることに気づき、その理由を「SOC」の高さにあると解説したのです。

実は私も、旧ユーゴ紛争生存者の研究を実施したことがあります(※3)。研究に協力してくれた対象者は、1990年代、思春期にユーゴスラビア社会主義連邦共和国の崩壊に伴う内戦を体験し、その後、国の解体・独立をはじめとする混乱社会を生きた女性たちです。このため、対象者全員が多感な時期に過酷な体験をしたわけですが、「戦争から約10年後、どんな生活を送っているか」を調べた結果、イキイキと充実した生活を送っている人もいれば、戦後の平和な社会にうまく適応できていない人もいました。

「なぜこうした違いがあるのか」の答えを探るため、私はクロアチアの国境にある激戦地域で数年に渡って研究を行い、その結果、「SOCが高い人は、戦争ストレスをうまく対処し、まるで全ての経験が人生に深みをもたらすもののように、充実した生活を送っている」ことを確認したのです。
 
ドナウ川を挟んだクロアチアの国境のまち、ブコバル

ドナウ川を挟んだクロアチアの国境のまち、ブコバル

そう! この「SOC」という困難を乗り越える力を高めることができたら、今はつらすぎて受けとめられないような出来事が起きても、それを人生に深みをもたらす経験にさえすることができるのです。では、SOCは、何からできているのでしょうか?
 

ストレスに対処する力SOCは、3つの感覚からできている

困難を乗り越える力SOCは、「わかる感」「できる感」「やるぞ感」という3つの感覚からできています。これらの言葉は、皆様にストンと理解していただくために私がつくった言葉(蝦名玲子, 2010, 2012, 2016) で、正式名称はそれぞれ「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」といいます。これら3つの感覚が高いと、困難な出来事が起きても、うまく対処することができるのです。

では、具体的に「この3つの感覚が高い」とは、どんな状態なのでしょうか?ここでは、「同期に差をつけられた」という職場でよくある出来事を例にとって、解説していきましょう。
 
大抜擢された同期

大抜擢された同期
 

SOCの感覚1:わかる感

「わかる感」とは、自分の置かれている状況を理解できている、または今後の状況がある程度予測できるという感覚のことです。この感覚が低いと、自分の置かれている状況を理解できないので、「どうして自分は同期のように活躍できないんだ?」と混乱しやすくなります。また「同期との差は開くいっぽうだ……、これからどうしたらいいんだ」と見通しのつかない将来に対して、途方に暮れやすくなります。

しかし、「わかる感」が高いと、「同期はこんな工夫をしているから、効率よく仕事を進められている」等と現状を把握し、「自分もムダを減らすように、同期の工夫を見習ってみよう」と今後の見通しを立てられると感じられるため、動じにくくなるのです。
 

SOCの感覚2:できる感

「できる感」とは、自分の中や外にある資源を集めて、困難な出来事に直面しても、「自分ならなんとか切り抜けられる」「やっていける」という感覚のことです。たとえば、過去に「うまく這い上がった経験」がある人は、同期に抜かれても、「まぁ、人生、抜かれることもあるさ。あのときも返り咲けたし、今回もまたきっとなんとかなる」と考えやすいですよね? こうした過去の成功体験等は、自分の中にある資源です。

また、自分の外にも資源はあります。それは、自分を助けてくれる存在です。役立つ情報をくれる恩師や上司、つらい気持ちを癒してくれる家族や友人等は皆、あなたを助けてくれる存在といえます。こうした存在に気づけると、「自分には助けてくれる存在がいるから、きっとなんとかなる」と感じやすくなります。つまり「できる感」が高いと、「自分は一人じゃないし、きっとなんとかなる」と感じられ、追いつめられにくくなるのです。
 

SOCの感覚3:やるぞ感

「やるぞ感」とは、ストレスをもたらす出来事を「これは自分にとって、挑戦だ」「これを乗り越えることは人生に必要なことだ」と信じ、日々の営みへのやりがいや生きる意味を見出せる感覚のことです。同期に差をつけられたとき、この感覚が低いと、「これだけつらいのに、なぜがんばらないといけないんだ」「もうどうでもいい」と感じやすくなります。しかし、この感覚が高いと、「神様は乗り越えられない試練を与えるはずがない」等となんらかの意味を見出せるため、諦めてしまいにくくなるのです。
 

折れない心は、環境のなかで、何歳からでもつくれる!

さいごに、私がSOCの概念が大好きな理由を。それは、この力が環境のなかでつくられ、いくつになっても日々の生活のなかで学ぶことができる、という点です。そう。遺伝や生まれつきのものではないのです! 
折れない心は、環境のなかでつくられ、何歳からでも高めていける!

折れない心は、環境のなかでつくられ、何歳からでも高めていける!

つらいことがあったときに、「そのストレスにうまく対処できた」という経験によって、学び、高めていくことができるのです。なんだか希望が持てると思いませんか?だから……、もし、これから生きていくなかで、つらいことがあったら、ぜひこれら3つの感覚を高めるように意識してください。人生は何が起きたかではなく、「起きたことにどう対処したか」で変わるのです!

※1.Mastern A, Best K, Garmezy N. Resilience and development: contributions from the study of children who overcome adversity. Dev Psychopathol. 1990; 2: 425-444.
※2.Luthar SS, Cicchetti D, Becker B. The construct of resilience: a critical evaluation and guildlines for future work. Child Dev. 2000; 71(3): 543-562.
※3.Ebina R, Yamazaki Y. Sense of coherence and coping in adolescents directly affected by the 1991-5 war in Croatia. Glob Health Promot. 2008; 15(4): 5-10.

【参考文献】
蝦名玲子(2016).生き抜く力の育て方~逆境を成長につなげるために.大修館書店
蝦名玲子(2012).ストレス対処力SOCの専門家が教える~折れない心をつくる3つの方法.大和出版
蝦名玲子(2012).困難を乗り越える力~はじめてのSOC.PHP研究所
蝦名玲子(2010).元気な職場をつくるコミュニケーション.法研
アントノフスキー A(著), 山崎喜比古・吉井清子(監訳)(2001).健康の謎を解く~ストレス対処と健康保持のメカニズム.有信堂高文社

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