体内時計の仕組み、「サーカディアンリズム」とは
2017年のノーベル医学、生理学賞は「時計遺伝子」の研究に贈られました。遺伝子を意識して生活することはありませんが、「時計遺伝子」は実は生物が生きていくために非常に重要な役割を果たしています。
「サーカディアンリズム」とは、地球上の生物が持つ1日約24時間のリズムのこと。日本語では「概日リズム(がいじつリズム)」と呼ばれます。我々、地球上の生物は、植物も動物も体内にサーカディアンリズムをコントロールする方法、いわゆる「体内時計」を持っています。
私たちが「体内時計」を意識するのは、海外旅行、特にアメリカやカナダ方面に旅行に行った際の時差ボケや、スマホなどのブルーライトの見過ぎで深夜になっても寝付けなくなったときなどでしょう。一般的に「体内時計が狂う」と言われる状態です。
このように、通常私たちが体内時計を意識するのは、主に「朝になると目覚め、夜になると眠くなる」といった睡眠に関することが多いように思います。しかし実は体内では、朝になると血圧が上がって目覚めの準備がされたり、寝ている間は体温が下がるなど、24時間の生活に応じて、無意識のうちに身体の状態が変化しています。睡眠リズムだけではなく、これらのものも全てサーカディアンリズムによるものです。
ノーベル賞を受賞した時計遺伝子とは
2017年10月2日、ノーベル医学・生理学賞に米ブランダイス大のジェフリー・ホール名誉教授とマイケル・ロスバッシュ教授、米ロックフェラー大のマイケル・ヤング教授の3名が選ばれました。受賞理由は「時計遺伝子の発見」です。時計遺伝子とは、簡単に言うと「体内時計をコントロールするたんぱく質を作る遺伝子」です。
ことの起こりは18世紀、フランスの天文学者であるドゥ・メランがオジギソウの葉が昼間は開き、日が落ちるとともに閉じることを不思議に思い、暗い場所にずっと置いたらどうなるか調べたところ、一定のリズムで葉を開いたり閉じたりすることを発見しました。これにより、植物に体内時計があることが示されました。
次に、1970年代、カルフォルニア大学のベンザー博士と教え子であるコノプカ博士が、ショウジョウバエで体内時計のコントロールが効かない「突然変異」を持つ個体を探し出し、この遺伝子を突き止め、「period」と名づけました。これによって、動物にも時計遺伝子があることが証明されます。
そして今回、ノーベル賞受賞の博士たちはperiod遺伝子の同定に成功しました。さらに、ホール博士とロスバッシュ博士はperiod遺伝子によって作られるたんぱく質の「PER」というものが、夜になると蓄積し、昼間になると減少することを発見します。これによって「体内時計」がコントロールされていることが分かったのです。博士たちはさらに「PER」の濃度でperiod遺伝子がコントロールされ、「PER」を作り出す量も制御されていることも発見しました。
この後もサーカディアンリズムをコントロールするものの研究は進み、「PER」だけでなく、「clock」「BMAL1」などの重要な遺伝子やたんぱく質が見つかっています。
時計遺伝子の研究を応用した「時間栄養学」にも注目
今回の「時計遺伝子」に関する研究は、すでに日常生活への応用が利くレベルまで発展しています。サーカディアンリズムが狂うと、不眠症だけでなく、精神疾患、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病も引き起こされると言われています。(参考:体内時計.jp(武田薬品工業))。
そして、食についてももちろん例外ではありません。例えば「夜遅くに食事をすると太る」というのは多くの人が常識として持っている知識でしょう。これもサーカディアンリズムに関わる「BMAL1」のはたらきから解説できます。BMAL1は、睡眠に向けて身体を休める働きを強めるたんぱく質です。脂肪を蓄積したり、エネルギーを作るための酵素の働きを弱めたりするはたらきをし、夜になると増える性質があります。
このたんぱく質によって身体が「休もう」と準備を進めているところに食事が入ってきたら、エネルギーの産生はほどほどに脂肪として蓄積しようとします。これが肥満の原因のひとつであることが分かっています。家族と同居している女子大生のアンケート結果で朝型の生活をしている人は欠食が少なく、米飯、果物、野菜、卵、乳製品を好み、炭水化物の摂取が多く、夜型の生活をしている人は欠食が多く、麺類、菓子類を好み脂肪の摂取が多いというデータもあります。「朝食抜きは絶対NG!その理由と朝食習慣化のコツ」でも解説しましたが、朝型の生活を心がけ、朝ごはんを食べて目を覚ます「めざましごはん」が大切なのです。
他にも、「夜に飲むべき!? 「時間栄養学」で考える牛乳の飲み方」で紹介したように、骨の新陳代謝は夜起こります。骨粗しょう症の予防のために牛乳を飲むなら、朝食よりも夕食のほうが理にかなっているなど、生活に役立つ「時間栄養学」の知識が集積され始めています(もちろん、朝食に飲むと胃腸の活動が活発になり、便秘の解消に効果があるとされていますので、朝食に飲むのが無意味というわけではありません。ご安心下さい)。
時間栄養学の研究は始まったばかり。今後、さらに研究がすすんで日常生活に役立つ知見が見つかることでしょう。健康に役立つからといってすべてを取り入れることは難しいと思いますが、無理なくできる範囲で、時間栄養学の考え方を日常生活に取り入れていきましょう。