分譲住宅選びの主なチェックポイントとは?
住まい選びの選択肢の一つに、分譲住宅を購入があります。その善し悪しを判断する基準として、「住民交流の仕掛け」の有無があると私は考えています。今回の記事では8月に私が取材してきた福岡県にある事例を紹介するとともに、それを通じて、皆さんのお近くにも志が高く、質の良い住宅を供給する住宅事業者があるということを、分かっていただければと思います。そんな事業者と出会うことが、満足度の高い住まいや暮らしを獲得する重要なポイントになります。分譲住宅は建物と土地がセットで、しかも既に建物が完成しているケースが多いですから、実物を見て比較検討ができるのも魅力の一つ。一方で、その質はピンからキリまで幅広く、1ヵ所の分譲住宅を見学に引きずられやすいという側面もあります。
そうしたことから、実はどの分譲住宅を選ぶか逆に難しい部分もあります。ですから、何よりも数多くの物件を見て回ることが何よりも重要と考えています。このことを了解いただいた上で、まず私が考える良質な分譲住宅の条件について明らかにしておきます。
以下のような点は主なもので必ずチェックすべきです。
・無理のない購入金額である
・無理のない通勤・通学距離
・自然環境が豊か
・治安が良い
・周囲に学校や商業施設などが充実している
・災害時にも安心安全
このあたりまでは一般的な視点です。自然環境は街中だと難しいかもしれません。これらに加え、
・自然環境への配慮がある
・住民同士のつながりがある
・資産価値維持の意識が高い
があると、さらに良質な分譲住宅といえると考えています。
こちらも合わせてお読みください。
分譲住宅の選び方とチェックポイント(1)
分譲住宅の選び方とチェックポイント(2)
分譲住宅地の資産価値の維持も重要な視点
あとの3点は不可分なものといえます。自然環境への配慮とは、分譲住宅地の中に緑が豊富で、その緑を維持することを通じて住民同士のつながりが生まれます。そのことは資産価値への関心の高さにつながり、住民全体でそれを守ろういう動きになります。結果的に、自分たちが住んでいる地域に愛着をもたらすわけで、将来的に住み継がれることで街全体が高齢化したり、過疎化することを防ぐことができ、長く健全で、サスティナブル(持続可能)な暮らしが可能になると考えられるわけです。
で、この3点を生み出すものとして、住民交流の仕掛けが注目されるのです。私はこれまで多くの良質な分譲住宅、分譲住宅地をみてきましたが、そこには必ず住民交流の仕掛けがありました。東日本大震災以降は、この仕掛けを防災に役立てる動きもあります。
福岡県糸島市で開発されたユニークな分譲住宅地
では、以下で実例を紹介します。それは福岡県糸島市にある「荻浦ガーデンサバーブ」という分譲住宅地です。4棟全18戸からなり、その構成内容には大きく以下のような特徴があります。・全敷地面積約2700〓のうち約400〓が緑地
・住棟はアタッチドハウス(連続独立住宅)で構成
・分譲地内にルールと自治組織がある
※〓は平方メートル
まず、敷地の構成についてですが、各住戸は緑地に面しており、一部にはビオトープなど住民の憩いの場が設けられています。また、その地下には約112リットルの雨水をためられるタンクが埋設され、植樹の水やりや住民の日常生活に活用されています。
各住戸はこの緑地に面しており、欧米に見られる公園やゴルフ場に面した住宅地のミニチュア版といった雰囲気。緑地では様々な催しが行われるほか、夏の暑い日には親しい方々同士でビールパーティなどをしているそうです。つまり、植栽の管理を含め、緑地が住民交流の仕掛けとなっているわけです。
駐車スペースは住棟と緑地に隣接する場所にあります。このため、「歩車分離」(歩行者とクルマの動線が分離されていること)が図られ、緑地が子どもたちも安心して遊べる場になっているそうです。
住宅取得費用を抑制するための工夫も!
次に住棟・住戸について。住棟のアタッチドハウスは、1棟の建物を複数住戸で共有するスタイルのこと。これは耐震強度を高めるための工夫でもあるとのことです。住戸は販売当初は2階建てですが、住民の方々の要望により地下室(当初はガレージのようなスペース)にすることも可能となっています。取材したのは8月中旬の大変暑い日でしたが、地下室は地上階より涼しく感じられました。なお、住棟(住戸)には断熱性向上のための設えが施されており、それも含め省エネへの配慮も行われているといえます。
住棟をアタッチドハウスとしたのは、分譲価格をリーズナブルにするための工夫です。1住戸ごとに建物を建てるよりコストを抑えて建設できるからです。特に、敷地について99年の定期借地権契約としていることが注目されます。土地も含めて購入する一般的な分譲住宅に比べ、購入費用はこれにより抑えられているわけです。
サスティナブルな暮らしを保つルールと自治組織
最後の分譲住宅地のルールと自治組織についてですが、象徴的なのが住棟とは別にコモンハウスが設けられている点です。ここでは、交流のために開放されるだけでなく、住民の方々の自治組織「住宅地経営管理協会」による、分譲住宅地の運営に関しての話し合いなどに使われています。ルールとは、分譲地の資産価値を落とさないための各種の取り組み、例えば緑地など分譲地の公共スペースや植樹などの管理に購入者が積極的に関わることなどです。協会への入会は必須です。つまり、購入するにあたり、これらの取り決めに賛同することが大前提になるというわけです。
このようなしっかりとした住民交流の仕掛けがあることで、この分譲地では大人たちがよその子の行動に目を配る、あるいは年長の子どもが年下の子どもの面倒をみるといった、かつての長屋暮らしの現代版ともいえる光景が見られるそうです。
ところで、この分譲地を開発・販売しているのは福岡市早良区に本社がある大建という会社です。元々は建設コンサルタントなどを主な業務とし、住まいに関する事業を手掛けるのはこの分譲地開発が初めてとのことです。
ですので、開発にあたっては九州大学などとの連携や、イギリスの住宅事情の視察やその成果の反映など様々な試行を試みたといいます。ガーデンサバーブという名称は、築後100年以上が経過したイギリスの住宅地が由来となっているそうです。
この会社は自治組織の運営やイベント開催など、支援者としてこの分譲地の運営に関わっています。これくらいの小規模な分譲地ではあまり行われていないことで、つまりこのことは「売りっぱなし」では決してないことを意味しています。
志の高い住宅事業者を見つけよう!
では、なぜこのような取り組みが必要なのでしょうか。糸島市は近年、福岡市のベッドタウンとして、さらには別荘地としても人気が高まっているエリアです。福岡市はもとより、全国各地から人々が移り住んできています。ただ、そのことは地縁がほとんどない人々が増えていることを意味し、地域になじめない人々も増えているということです。荻浦ガーデンサバーブのような住宅地を形成することは、移住してきた人たちが愛着を持ち、定住しやすくするという狙いもあるのです。
この分譲地の開発・運営手法は全国的にも珍しく、また大変志が高いものだと、私は感じました。ただ、かたちや規模は異なるものの、同じように志の高い住宅供給をしている事業者は他の地域にも必ず存在するものです。
分譲住宅の購入に限らず、住宅取得では「大手ハウスメーカーなら安心」「地域の住宅事業者(工務店)では不安」と考えがちです。しかし、それらは謝った既成概念であることが今回の記事で理解していただけるのではないでしょうか。
住まいは文化であり、地域と共にあるものです。それぞれの地域の実情を把握し、問題解決を図るために真剣に努力している住宅事業者を粘り強く探し出しましょう。そのことは、皆さんがより良い住まいを取得するための大変重要なことだと私は考えています。