熟年離婚ビンボーにならないためのお金の準備の仕方
離婚と離婚後のお金にまつわる相談を受けていて思うことは、世の中、離婚したくても、離婚後の生活に不安を感じて、離婚に二の足を踏む女性が多いということです。それでも統計(厚生労働省・平成27年人口動態調査)では、平成26年度より4091組増加した22万6198組が離婚しています。増加率が高いのは、同居期間35年以上の夫婦(7.7%増)、ついで同居期間25~30年の夫婦(6.7%増)の離婚です。
今回は、この増加率の高い、中高年の熟年離婚を考える妻に焦点を当てて、離婚後の生活を意識した貯蓄の方法について考えてみたいと思います。(養育費や子どもの進学費用については、ここでは触れません)
離婚後の生活は決して楽ではない
熟年離婚の場合、財産分与、年金分割(説明は後述)を得たとしても、離婚後の生活は決して楽ではありません。財産分与で、左うちわなどというケースは、資産家のごく一部の離婚の場合です。一般家庭の場合、財産分与のお金をあてにした暮らしを続けていたら10年もたたないうちに無くなってしまうことが多いのです。自分で働いて、自活する力(やりくり力を含めた)を持たないと、離婚ビンボーへと転落してしまうのです。
ご相談に来たA子さん(54)の場合も、離婚後の生活は、厳しい状況になることが離婚前から予想できました。A子さんにもそのことはお伝えしたのですが、それでも「一度しかない自分の人生、ここで離婚をしなければ後悔が残る」と離婚への決意が固かったため、離婚時期を含めて離婚後の生活が成り立つよう計画を練ることにしました。
「お前はグズだ」5歳違いの夫のモラハラに悩まされてきた
A子さんは、ずっと5歳違いの夫のモラハラに悩まされていました。帰宅に合わせて食事ができていないとその都度「お前はグズだ。昼間何やっているんだ。」と言われ、食事ができていても「まずい、こんなもの食えるか」「誰に食わしてもらっていると思っているんだ。気が利かない」というような、人を貶めるような罵詈雑言に心を凍り付かせながら、それでも、離婚して一人暮らしを始めるのは、経済的にも不安で、躊躇していました。結婚して30年。それまでも食事に文句を言うことはありましたが、50代になってからモラハラが一層ひどくなってきたといいます。
A子さんは、ここ2年程、隣町で一人暮らしの母親(84)の面倒を兄夫婦と協力してみてきました。母親は狭心症でした。転倒による骨折等もあり、病院通いが続いていましたが、今年の春先に、長く寝付くこともなく、他界。父親に尽くして看取った母親を兄と温泉旅行にでも連れて行こうかという矢先に、心臓病の悪化や転倒骨折でたびたびの入院。その後の病院通いが続いたため、それもかないませんでした。
A子さんが離婚を決意したのは、母親の死を見送ったことがきっかけでした(そういう方は多いです)。昔気質の母親に離婚を告げるのは、悲しませることになるので、できないと思っていました。その母が亡くなり、離婚で悲しませる人がいなくなったことは大きかったようです。さらに、母親の人生をみて、やりたいことをやらずに死んでいくのは、嫌だという思いが強くなったのだといいます。一人娘も、昨年結婚して独立しているので、子どもを気にすることもありません。こうして、A子さんの離婚の決意は固まっていきました。
決意はしたものの、専業主婦期間が長かったA子さんには、職業経験が少ないため、離婚後の生活に自信がなく、すぐ、離婚するというわけにはいかないと思うようになりました。どうしたらよいかと思い悩んで、私のところに相談に来たというわけです。
離婚で動くお金は3つ!慰謝料、養育費、財産分与
ここで、離婚で動くお金について簡単に説明します。大きく分けて3つ。慰謝料、養育費、財産分与です。多くの人が勘違いしている「離婚=慰謝料」ですが、慰謝料は、不倫やDV・モラハラなどで受けた精神的、肉体的な苦痛に対して支払われるもので、離婚するすべての人がもらえるわけではありません。性格の不一致等の離婚理由では、慰謝料をもらえるとは思わないで計画を立てたほうがよいでしょう。
ちなみに、慰謝料の平均は、200~300万円と言われています。
養育費は、子どもが経済的に自立するまでに必要な費用(生活費、教育費、医療費など)です。A子さんは、今回は、慰謝料を請求しないとのことですし、お子さんが結婚独立していますので、養育費も考えには入れません。
A子さんの場合もそうですが、熟年離婚の場合は、財産分与について正しく知っておくことが大事になります。
離婚時の財産分与とは、夫婦が結婚生活の中で築き上げてきた財産を分けることです。特殊な場合を除き、分与割合は原則2分の1とすることが一般化しています(判例でも、原則2分の1として認める傾向にあります)。
預貯金や金融資産、不動産、家財、自動車、負債などが対象になります。結婚前からの各々の財産や親からの贈与、相続財産として得た財産は対象にはなりません。また、ギャンブルなどで作った負債は、その個人の負債のため、これも財産分与の対象にはなりません。
これも結構勘違いしている人が多いですが、結婚後に買ったマイホームは、名義に関係なく財産分与の対象になります。100%夫の名義であろうと関係ありません。住宅ローンが残っていれば、それも分与の対象になります。
加入中の生命保険や個人年金保険などは、解約して返戻金を分割する場合もありますし、実際には解約せずに返戻金相当額で清算する場合もあります。
熟年離婚の場合は、すでに支払われた退職金だけでなく、これから支給される退職金も支払時期が近いということで、財産分与の対象と認められるケースは多いです。この場合、支給される退職金を婚姻期間で按分したものが財産分与の対象になります。
年金分割も、夫が結婚期間中に厚生年金に加入していれば、請求することができます。年金分割には合意分割と3号分割の2種類があります。分割の対象になるのは、結婚期間に支払った厚生年金の分だけですが、調停では、合意分割でも半分ずつにすることがほとんどです。
年金分割についての詳細は日本年金機構のサイトを参照してください
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/jukyu-yoken/20140421-04.html
専業主婦が長かったA子さんが、離婚のために準備したこと
A子さんの場合、夫婦の資産は約600万円の貯金(財形貯蓄をふくむ)、時価2500万円(ローンの残高700万円)のマイホーム。加えて、夫が3年後にもらえる退職金およそ1200万円が、財産分与の対象になります。年金事務所で調べたところ、A子さんが65歳になってからもらえる老齢厚生年金は、今の時点で年金分割を含めて約10万円でした。
夫の合意が得られたとして、A子さんが手にする予想分与財産は、合計で1630万円になります。
・預貯金分 300万円
・マイホーム売却後の手取りの半分を約860万円と仮定
・退職金 約470万円
皆さんは、この金額で、専業主婦が長かった女性が、老後一人暮らしをどれだけ続けていかれると思いますか?
1630万円を女性の平均寿命である88歳までの34年間で割ると、月に使えるお金は約4万円です。
57歳で離婚し、年金が満額もらえる65歳までの間の8年間、都内で一人暮らしをすると安いアパートでも家賃6万円、生活費を切り詰めて社会保険料も込みで7万円としても計13万円。収入がなければ、8年間で1248万円を使ってしまうことになります。年金が出たあとも、何もしなければ、10年間で資産はなくなります。75歳です。
そうならないためには、どうするのか。
離婚を退職金が出る3年後として、それまでに稼ぎ力とやりくり力をつけることにしました。
3年後にA子さんは57歳になります。そこから働くことを始めたのでは、まず、求人が無いかもしれません。
そのために、今からパートに出て、社会で働くことにしました。体がなじむまで、週2回から始め、3年間で、週5日まで働けるようにすることが目標です。
月13万円の生活も、頑張って8万円のパート収入があれば、取り崩しは、480万円ですみます。年金が出た後も引き続きパートで70歳まで。その後は働く日数を調整しながら働けば、生活のための取り崩しはしなくてもよいことになります。
今から働くことで、自立に向けたへそくりを貯めようと思う方も多いと思います。ところが残念なことに、今まで貯めたへそくりも、離婚までに貯めたへそくりも、財産分与の対象になってしまうのです。結婚前の貯金や相続で手にした財産は別ですが、結婚以来貯めてきたへそくりは、通帳で明らかになりますので、財産分与として半分ずつ分けることになります(タンス預金は、分かりませんけど)。
がっかりしちゃいましたか?
だからといって、働き始めるのを先延ばしにすることはやめてくださいね。自立に向けて離婚前に働き力、稼ぎ力をつける訓練だと思ってください。へそくりを貯めるためではありません。
同時に、自分で働いたお金を上手に使いながら、家計のやりくり力を高めて、少しでも貯金を増やすこともしていきましょう。50代になると夫の収入も40代よりは多くなり、子どもの教育費も終わっている家庭では、貯め時でもあるのです。意識しないと50代は、収入に応じて支出も増えてしまう「プチバブル生活」になってしまいます。この機を貯め時に変えるチャンスととらえて、ぐっと引き締め、無駄にお金を使わないことを心がけることで、家計全体の貯蓄が増えます。当然、財産分与の額も増えるわけですから、やりがいがあるかと思います。
そのやりくりを実践することで、自立後の自分の生活の家計管理にも役立つことになります。
熟年離婚を成功させたいのであれば、「稼ぎ力」と「家計管理能力」を高めることです。
離婚に至る経緯は様々です。
相手が不倫などして離婚する場合には、相手を懲らしめるためにと、より多くの慰謝料、多めの財産分与を得ようとそればかりに目が行きがちです。
確かに、それは自身の気持ちの落としどころにもつながり、大事なことではあるのですが、相手が大金持ちでない限りは、慰謝料、財産分与をもらったところで、それをあてにした離婚後の生活は、長くは続きません。
財産分与で手にしたお金は、緊急時にとっておくべきお金と心にとめて、まずは、自立してお金を稼ぐことを考えましょう。
離婚は、新たな人生の始まりです。どんな経緯であれ、離婚を決断するのは、自分自身であるという認識を持つべきです。そして決断をしたのであれば、自分の足で立つ覚悟をしてのぞみましょう。これから自分の人生を一人で切り開く覚悟がなければ、その後の人生を楽しむことなどできはしないのです。多くの相談者をみてきた私の実感です。
A子さんは現在、週1日から始めた時給1250円のコンビニのアルバイトを、週2日までに増やしています。早朝のシフトだともっと時給が良いようで、夫の出勤の早い曜日に合わせて、その曜日だけ早朝のシフトに入れるように交渉しているとか。やる気のスイッチが入っています。
今までサボっていた、家計の引き締めにも挑戦中。やりくりを一から学んでもらっています。目標は1年間で200万円貯めることです。
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