『レディ・べス』
10月8日~11月18日=帝国劇場『レディ・べス』Photo by Leslie Kee
大英帝国の礎を築いたエリザベス1世の波乱の青春を描いて14年に初演、センセーションを巻き起こした歴史大作。待望の再演に、花總まりさん・平野綾さんら強力キャストが再び集結します。(前回公演時の花總まりさんへのインタビュー、観劇レポートはこちら。)激しい権力争いの中で命を脅かされながら育ってきた王女が、恋と運命の間で揺れ動きながら自分の生き方を見つけてゆく物語が、『エリザベート』のシルヴェスター・リーヴァイによる中世音楽風~ロック調まで多彩な音楽、演者の魅力を引き出す小池修一郎さんの演出、重厚感の中に現代の感性が光る二村周作さんの美術、生澤美子さんの衣裳に彩られながら展開。ヒロインが恋する吟遊詩人の醸し出す情感に、後見役の懐の深さ、べスを窮地に陥れる“悪役”たちの憎々しさと、カラフルなキャラクターたちもそれぞれに魅力的。豪華キャストが生き生きと演じてくれそうです。
【メアリー・チューダー(ベスの腹違いの姉)役
吉沢梨絵さんインタビュー
“新しい『レディ・べス』の創作に
加われた気がします”】
吉沢梨絵 東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』など。(C)Marino Matsushima
「どちらの作品も、私の歌声が決め手だったようです。特に本作はゴスペル調であったりハードロック調であったり、地声でバーッと歌う曲が多くて、そこに私の声がドンピシャだったのかな。実際に演じてみると、出ずっぱりではないのにも関わらず消耗が激しくて、特に最後のベスとメアリーが和解する曲は、力強さと同時に繊細さが必要。一筋縄ではいかない役です(笑)」
――初演から3年、待望の再演ですが、開幕を数日後に控えた今(取材時)の手ごたえはいかがでしょうか?
『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部
より濃縮され、分かりやすくなったベスと彼女を巡る人々の物語
――今回、最も変わった部分は?
『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部
――ヘンリー八世が妻のキャサリンと娘のメアリーを捨て、アン・ブーリンに走ってベスという娘をもうけるが……というあらましですね。
「現れるのはちょっとの間ですが、それによって私も自分の芯が繋がったというか、メアリーとして(舞台に)居やすくなりました。それと、クライマックスではベスのナンバーが増えています。彼女が運命に導かれるだけでなく自覚を持って女王になってゆくということが、すごく伝わるのではないでしょうか」
――メアリーのキャラクターに変化はありますか?
『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部
けれども終盤、振りかえってみればべスもある種鏡のように自分と同じような経験をしていることに気づき、彼女に自分の地位を渡してゆく。べスが光ならメアリーは影というわけで、どちらにも感情移入できる部分が増えた気がします。
初演の時から、(単純な)悪い人として演じるのはやめようと思っていましたが、今回はさらに“人間は多面的なものだ”ということを大事に、厳かに(カトリックを)信仰する心があったり、政治に苦手意識があったり、若くてイケてる男の子の前では弱くなってしまったり(笑)しながら、生き生きと演じ抜き、お客様に何かを残せたらと思っています。
『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部
自分の常識をいい意味で壊してくれた、あの作品での“無茶ぶり”
――吉沢さんの“これまで”についても少しうかがいたいのですが、劇団四季時代の思い出の演目を一つ挙げるとしたら?
「私のことをミュージカルの世界で知っていただけるきっかけになったのは『マンマ・ミーア!』(ソフィ役)ですが、自分の中で人生を変えてくれたのは『コーラスライン』だと思っています。
(ミュージカルのアンサンブルを選ぶオーディションという設定の作品で)オーディションに残る役(ディアナ)を振られたのですが、私、それまでダンスなんてやったことなかったんですよ(笑)。こんな下手な人間が出られるわけないと思ったけど稽古キャストに入れられるとやらざるをえなくて、ダンスも特訓コースに入れていただきました。
劇団四季は出来なければ(役を)降ろされるシステムなので、とりあえず出来る限りやってみようと思ってやっていたら、踊りの技術は本当に未熟だったと思いますが、ドラマを運ぶ部分で面白いと思っていただけたのか、出られることになったんですね。自分の常識がいい意味で壊れた瞬間でした。最終的に『赤毛のアン』ではダブルピルエットを廻ってファンキックなんていうことも出来るようになって、今できないこと、無理と思っていることもやればできるかもしれない、と思えるようになったんです。
その後、(地声でなく)頭声で歌う役もやってみようと前向きになったし、四季でのダンス経験があるから、今回も(高貴な役で)お辞儀をするコツがわかります。そういう意味で、可能性をバーンと広げてくれた劇団四季さんにはものすごく感謝しているんです」
“覚悟を決めた”出産を経て今、目指すもの
――昨年、出産を経験されましたが、ミュージカル界でも育児とお仕事を両立される女性が増えて来られました。女性読者の中には、真面目であればあるほど、「仕事と育児は両立できないのなら、一択しかできないのでは?」と迷われている方もいらっしゃるかと思います。
「こればかりは人それぞれですよね。私の場合は覚悟を決めて出産しました。実際“ああ、やりたかった”という仕事が二、三度、目の前を通り過ぎていきましたが、それでも結果的に妊娠、出産でき、子供も元気で過ごせていて良かったと感じますし、毎日が大変だけど、育児と仕事という2チャンネルが自分の中では楽しめています。多くの女性が40歳の頃に悩むことだと思いますが、両立もあり得るんだと、皆さんにとって選択肢が増えるような存在になれたらと思っています」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「私は“ひょうきんさ”を大切にしていて、悲劇でも喜劇でも、ユーモア・センスを持ち続けたいと思っています。あとは可愛げのある役者でいたい。これからは自分より若い演出家とのお仕事の機会も出て来ると思うので、声をかけやすい存在でありたいですね。
先日、村井國夫さんが、彼ほどのベテランになられると気軽には声をかけてくれないから、いい演出家だと思ったら自分から声をかけに行くんだよとうかがって、素敵だなぁと感動しました。一緒に作品を作りたいと思っていただけるよう、可愛げをもって生きていきたいですね」
【観劇レポート
無数の人々の“生”を乗り越え、
ひとりの王女が暗黒から
眩さへと歩み出しゆく絢爛絵巻】
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
また不義の罪を着せられ死刑に処せられたベスの母アン・ブーリン役・和音美桜さんは、“自分が生きた意味”であるからこそベスの側を離れられないという狂おしい愛を情味豊かに歌い、前回より役の輪郭をくっきりとしたものに。再演にあたりあちこちに手が入った中で、1幕終盤、謀反の疑いでベスが囚われたのを受けて歌うアン・ブーリンのナンバーはストーリー上必須には見えませんが、敢えてこれを残している点で、今回のバージョンにおけるアン・ブーリンの重要性がうかがえます。
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部
*初演時のベス役・花總まりさんへのインタビューはこちら
*次頁で『ねこはしる』をご紹介します!