ウィルキンソン先生役・島田歌穂さんインタビュー
「大人が忘れかけていた、人生の大事なことを
思い出させてくれる作品です」
島田歌穂 74年、子役デビュー。87年『レ・ミゼラブル』で脚光を浴び、出演回数は1,000回を超えた。「ウエストサイド・ストーリー」「飢餓海峡」など出演多数。女優、歌手として、舞台やコンサートなど幅広く活躍芸術選奨文部大臣新人賞等、紀伊国屋演劇賞個人賞など受賞多数。大阪芸術大学教授。12月「島田歌穂&島健 Duo Xmas Special vol.8」が控えている。(C)Marino Matsushima
「すべてですね。辛辣な社会背景の中で、希望を持ちたいけれど持つことができず、大人たちはもがきながらも半ば人生をあきらめている。そんな中でビリーのバレエに対する強い思いに、突き動かされずにはいられなくなっていくんです。夢を持つことの大切さや諦めないこと、それによって周りを変えてゆくことができる。忘れかけていたことを思い出させてくれる、深いものが込められた作品だと感じました」
――本作はビリー少年の物語であると同時に、大人たちの物語でもあるのですね。
「ええ、ビリーのお父さんは亡くなったお母さんの代わりもしながら、ビリーを強い男に育てたいと思っているのですが、彼はあろうことかバレエをやりたいと言いだします。はじめは大反対のお父さんですが、それまでおそらく、こうしたいということを言ったことが無い内気な子が、ここまで強いを思いを持っているのだと気づく。夢をかなえてやらなくちゃと、周りを説得して、ビリーはみんなの希望の星になっていくんですね。
ウィルキンソン先生も同じで、彼女は炭鉱の寂れゆく町で、50ペンス(100円弱)のレッスン代で地域の子供たちに、たばこをふかしながらバレエを教えている。彼女も完全に自分の人生はあきらめているという感じなのだけど、そこに偶然、ビリーという物凄い才能を持った子が現れたことで、はっとさせられる。自分が幼いころに描いていたダンサーへの夢を思い出し、突き動かされていくんです。
『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR
――島田さんご自身も、幼少のころから芸能界で活躍されていますが、やはり大人たちのサポートを感じて来られたのですか?
「私の両親は父が音楽家で母は宝塚歌劇団の女優からジャズ歌手になった人で、まずはそういう環境に生まれたこと、そして何か“やりなさい”と言われることなく、自然にいろいろなことを身に着けさせてくれたことに感謝しています。その後、バレエやジャズダンスやタップの先生にもお世話になりましたし、子役の時には、右も左もわからない中、挨拶一つから、たくさんの方の支えがあって初めて自分がそこに立っていられるのだと気づかせていただきました。子供って時々暴走したり生意気なことを言ってしまったりもしますが(笑)、そういう時にもきちんと叱ってくださる方がいて、大事なことを教えていただけましたね。節目節目で振り返る度、人生の様々な場面での多くの方々との関りのおかげで、自分がここにいられるのだなと感謝の気持ちが募ります」
――今回演じるウィルキンソン先生は、なかなか個性的な人物ですね。
「これまでにも強い女性を演じてきましたが、その中で、今回のウィルキンソン先生は最強、strongestです(笑)。オーディションでは自分なりの解釈で演じさせていただきましたが、ふっと感情が揺らぐ瞬間を表現していたら、演出家から“そういうものは要りません、もっと強く演じて”と言われたんですね。いくら強いウィルキンソン先生でも、少し揺らぐ瞬間を見せなくちゃとか、私はこう感じてしまいますよ、と時折、説明したくなってしまったのですが、今回は一切そういうものが要らない。炭鉱の荒くれ男たちを相手に、立ち向かっていく女性だから、男の人より男らしいし、絶対人に弱みを見せない人物なんだと感じました。
これくらいモノを言えて頼もしく立っていられたら素敵ですよね。カッコいいですよ、潔い。でもそれはもしかしたら、ビリーに自分の忘れていた夢を呼び覚まされたからかもしれない。彼に自分を重ね合わせて、何とかかなえてあげたいとエネルギーが漲ってきたのかもしれません」
――ウィルキンソン先生は、子供を“褒めない”先生です。
「褒めないし、辛辣な言葉をかける。それはこの町の大人たちもみんな同じで、まっすぐに感情をぶつけ合います。でも実はそれが本当のコミュニケーションなのではないでしょうか。黙っていては(コミュニティの中では)生きていけない、思いをぶつけあったほうがむしろ人間らしい。そういう彼らのやりとりもどこか懐かしいものがあって、いいなと感じます」
――音楽はエルトン・ジョンが担当しています。
『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR
――その中で、ウィルキンソン先生には登場時に「Shine」というビッグナンバーがあります。
『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR
――今回、ご自身で課題にされていることは?
『ビリー・エリオット』稽古より。写真提供:ホリプロ
今まで自分が信じて経験させていただいてきたことをもって、全力で取り組もうと思っています。気づけば50代になり、体力的にしんどさを感じることも出て来るのですが(笑)、先日、舞台で大先輩の女優さんと共演させていただいたときに、“私はあなたぐらいの(年齢の)頃が一番いい仕事ができたわよ”と励まして下さり、立ち姿もお声も素敵で憧れている先輩の一言に、ものすごく勇気をいただきました。あっちが痛いこっちが痛いなんて言っていないで(笑)、ロングランだけにお肉も食べて、筋力、体力倍増させて、自己管理に励みたいです。ウィルキンソン先生も、朝からステーキを食べていそうな女性ですしね(笑)。この出会いに感謝し、これまでの人生をかけて、悔いなくお届けできるよう、頑張ります」
*次頁でウィルキンソン先生役・柚希礼音さんインタビューをお送りします!