『アンデルセン』
7月15日=相模女子大学グリーンホールを皮切りに、全国を巡演【見どころ】
『アンデルセン』撮影:荒井健
【ハンス・クリスチャン・アンデルセン役 鈴木涼太さんインタビュー】
鈴木涼太 97年研究所入所。『オペラ座の怪人』で初舞台を踏み、後にラウルを演じる。ほか『夢から醒めた夢』『はだかの王様』『キャッツ』『マンマ・ミーア!』『オペラ座の怪人』等に出演。(C)Marino Matsushima
「はい、95年の青山劇場でした。僕はもともとピアニストを目指していたのですが、先生に“君、声がいいね”と言われて方向転換し、声楽で音楽大学に入りました。まったく知らないオペラの世界で、この先どうしたらいいだろうと思っていたところ、友人が“こういう世界もあるぞ”と誘ってくれたんです。ミュージカルも劇団四季も全く知らずに観劇したのですが、『アンデルセン』の世界がとても心地よくて、帰ってからしばらく放心状態でした。
それから1か月も経たないうちに『キャッツ』を観劇し、俳優の躍動的なパワーに魅せられ、自分も全力で挑戦する、エネルギッシュな生き方をしたいと思い、大学卒業後に劇団の研究所に入ったのです」
――今回、ご自身が出演者となってみて、この作品の魅力はどういうところにあると感じていらっしゃいますか?
「まずは音楽ですね。かわいらしい音楽から美しいバラードまで、フランク・レッサーの音楽には楽しい部分も、美しい部分もあります。またハンスの恋を軸に描かれるストーリーには彼の童話が登場するので、お子様から大人まで、幅広い年代の方に楽しんでいただけると思います。
クラシック・バレエのシーンも本格的で、劇団内のオーディションで選ばれた俳優がトウシューズを履き、美しいバレエをお見せします。バレエとミュージカルを両方楽しんでいただける作品だと思います」
――アンデルセンの童話は、前半はダンスや歌で表現されますが、クライマックスの「人魚姫」はハンス・クリスチャン・アンデルセン自身が、バレエ・シーンの傍らで自ら語り部となって語ります。“物語り”には、台詞のキャッチボールである“会話”とはまた一味違った難しさがあるでしょうか?
『アンデルセン』撮影:荒井健
――この舞台を御覧になる方の中には、子供にどうしたら上手に絵本を読み聞かせできるかしらと思っている方もいらっしゃるかと思いますが、何かコツはありますか?
「僕自身も子供の頃、母が『人魚姫』を読み聞かせてくれたことをよく覚えていますが、物語りを聞く人は、“感情”ではなく“言葉”をキャッチして、自分の中でイマジネーションを膨らませていくのだと思います。ですので、そこに書かれている言葉を正しく相手に伝える、それだけでいいのかもしれません。僕もイメージは膨らませますが、あまりパセティックにならず、台本に書かれていることを一語一句正しくお客様に伝えることを意識しています」
――この作品は若きハンスが大きな挫折を経験し、それを乗り越えて“物語の王様”と呼ばれるようになってゆく過程を描いています。いわば挫折体験があったことで彼の人生は豊かになってゆくわけですが、鈴木さんご自身は共感できる部分がありますか?
『アンデルセン』撮影:荒井健
そして挫折ですが、まず研究所に入ったとき、周りはバレエ経験者が多くて、ダンス経験が無かった僕は苦労しました。劇団員になってからもハードルの高い役を勉強することになって、自分にはできないと決めつけ、前に進めなくなったこともありました。
けれども一番大きかったのは、声のトラブルですね。『ウェストサイド物語』でトニーを演じていた時、突然思うように声が出なくなってしまったんです。何人のお医者様に診て頂いても、声帯には何も異常がなく、原因が分からない中で悩みました。けれどそんな時に、劇団の仲間が“一緒にやろうよ”と、毎日稽古につきあってくれたんです。彼と試行錯誤するうち、元の声に戻るというより、新しい声が出せるようになってきました。それまでは声の響きだけを追求していたのが、役の心理で発声することができるようになったのだと思います。その役が発想した声を出すことの大切さに、10年がかりで気づきました。この経験がなければ物事に対する視野も開けなかっただろうし、苦しみを知ったことは自分にとってマイナスではなかったと、今では思えます」
――声楽科ご出身の方が、思うような声が出せなくなることほど、つらいことはないと拝察します。そんな鈴木さんに寄り添い、一緒に問題を解決しようとしてくれた仲間がいらっしゃって、本当によかったですね。
「そうですね、困ったときに助け合える仲間がいるのが劇団の良さだと思います。僕は(横浜で上演中の)『オペラ座の怪人』のラウルにもキャスティングされていますが、この仲間は今、『オペラ座の怪人』で演出スーパーバイザーを務めていて、とても心強く感じています」
――ハンス役は演じる方によってカラーも変わってくると思いますが、鈴木さんが演じるハンスはどんなハンスでしょうか?
「これまで『オペラ座の怪人』のラウルや『マンマ・ミーア!』のスカイなど、二の線の役を演じることが多かったのですが、このハンスという役はモテる男ではないので(笑)、自分にとっては新しい挑戦です。いかにそのまま、飾らず、自分の中にあるハンスを表現するかが大事だと思います。
演技にはこれがゴールというものがないので、これまで何度も演じた役にしても“100パーセントできた”と思ったことは一度もありません。今回も初のハンス役で、稽古では朝から緊張しています。昨日まで出来ていたことができなくなることもありますが、先輩が“それを今日経験してよかったんだよ、この先に前進があるのだから”と励ましてくださるので、それを信じて、昨日より今日、今日より明日という気持ちで進化していきたいですね」
――今後どんな表現者をめざしていらっしゃいますか?
「生きるエネルギーと思いやりに溢れた舞台という世界の中で、常に役から学び、力強く生きていきたいです。表現者としてはその時の自分に満足することなく、いつも何かを求め、常に変化し続けていきたいと思います。これからもさまざまなことに挑戦し、自分も皆様も知らない鈴木涼太に出会えたらと思っています」
【観劇ミニ・レポート
優しさとイマジネーションに溢れた
“物語の王様”の青春】
『アンデルセン』撮影:荒井健
類まれな物語の才能を持つ青年が、挫折を経て自分の生き方をしっかりと見出す。この主筋に、彼が“弱きものたち”を勇気づけようと語り始める童話がふんだんに差し挟まれた本作ですが、この日主人公を演じた鈴木涼太さんは“世の中にこんなに優しい心があるものだろうか”と思えるほど全身から優しさが溢れ、それ故に不器用で、またそれ故に愛されたハンスという人物に説得力を与えています。子供たちや人々と歌い踊るナンバーでも、一つ一つの形が終始丁寧。クライマックス『人魚姫』の物語りにも安定感があり、最後にハンスが報われるくだりで心からほっとさせてくれます。鈴木さんにとってはこれまでにない路線の役とのことですが、意外にも(?)代表作の一つとなるかもしれません。
『アンデルセン』撮影:荒井健
『ピーターパン』
7月24日~8月3日=東京国際フォーラム ホールC【見どころ】
『ピーターパン』
【観劇ミニ・レポート】
『ピーターパン』写真提供:ホリプロ
『ピーターパン』写真提供:ホリプロ
藤田さんに以前、お話をうかがった際、『ピーターパン』はピーターパンのみが主人公というより、ピーターパンとウェンディのお話としてとらえている、と語っていらっしゃいましたが、なるほど今回の演出では、ウェンディが担当するラストがひときわ余韻を残すものとなっています。台詞にない部分を表現する神田さんの立ち姿から何を感じるか……。観る人がどれだけ“子供の時代”から年月を経たかによって、それは異なって来るのかもしれません。
*次頁で『にんじん』をご紹介します!