住宅取得にあたって考えたい住まいとデザインの関係
誰でも、「格好いい」とか「素敵な」と感じられる、あるいは周囲の人から感じてもらえる住まいに住みたいものです。そのため、住まいづくりでは、程度の差はあれ、デザインは関心事になっているようです。ですから、「デザイナーズ住宅」なんていう言葉には多くの方々が魅力的に感じるようです。では、デザイナーズ住宅とは一体どんな住まいなのでしょうか。本当にデザイン的に優れている住宅ばかりなのでしょうか。このことを深掘りすることで、「住まいとデザインの関係」もみえてくるように思います。まず、そもそも「デザイナー」ってどんな人なのか考えてみましょう。一般的な意味としては、デザインの能力に優れ、それを職業としている人を指すものと考えられます。そして、様々な職種の中にデザイナーという人たちがいるわけです。
美術や広告の世界はもちろん、服飾や美容、さらには車や家電製品などの工業分野にも存在します。新卒1年目でデザイナーという肩書きを持つ人もいるようですので、おそらくスキルの善し悪しを問わずに使われているケースも多いと思われます。
要するに、何となく格好いい素敵な存在であるように、外部の人からそう感じてもらえるように、デザイナーという言葉が使われているケースが多いわけです。では、住まいに限定してみた場合はどうでしょうか。
インテリアやエクステリア(外構・造園)、家具製作などに携わるデザイナーがいますし、もちろん建築家や設計士といった人々も同様です。建築業界は、デザイナーという言葉や肩書きがよく使われている業種といえるのではないでしょうか。
「デザイナー」による住宅とは
では、このような前提の下、デザイナーズ住宅とは一体どんな住宅なのか考えてみましょう。通常イメージされるのは、有名建築家が設計した建物ではないでしょうか。確かにそんな住宅も数多くあります。例えば建築雑誌に紹介されたり、何らかの建築賞を受賞したような住宅で、それならデザイナーズ住宅といわれても当然のように感じられます。というのも、しっかりとした権威付けがされているためです。
ハウスメーカー絡みでもデザイナーズ住宅という言葉を使うケースがあります。例えば、新たな商品を開発する際、高名な建築家を起用するケース。これも建築家の実績がベースにありますから納得しやすいはずです。
社内外の設計コンペで優秀な成績を収めた人物をデザイナーと称し、その人物による建物をデザイナーズ住宅という場合もあります。ハウスメーカーの規模や社内コンペの質にもよりますが、このケースもなにがしかの競争を経ているわけです。
また、このような人物は重点地区のモデルハウスや富裕層の住宅、さらには新商品の設計や開発にも携わっているケースもあり、ですからデザイナーと称していても違和感がない存在といえそうです。
デザイナーズ住宅と評価しづらいケースとは?
一方で、こうした特別な背景や実績をほとんど持たない人物による建物が、デザイナーズ住宅として世に登場するケースも少なくありません。それについては、例えば以下の二つのようなケースがあると思います。一つは都市部に建てられる分譲住宅。狭小な建物であることが多く、一見するとデザイン重視のように見えます。しかし、使用されている素材はありきたりで、階段が急だったり家事動線など住み心地への配慮が足りないといった感じの建物も多いのが実情です。
このようなケースは、消費者にアピールするため安易にデザイナーズ住宅と称していることがよくあります。デザイン性が良いという内実が伴っていない、逆にデザインのセンスがないんじゃないか、とあきれてしまうものさえもあります。
もう一つは売建住宅で見られるケースです。売建とは、住宅事業者が販売する土地において注文設計で住宅を建築すること。この際、社外のフリーの設計士に設計を依頼することがありますが、この設計士をデザイナーと呼称することがあるのです。
安易に使われるデザイナーズ住宅という表現
売建住宅のケースは、施主の好みや土地の状況を反映させますから設計やデザインの工夫はある程度みられますが、予算の制約もあるため、特に際立った特徴がある住宅にならないケースがあります。フリーの設計士は分譲住宅の設計にも起用されるケースもあります。二つのケースに共通するのは、コストダウンと収益性をアップしたいという住宅事業者の思惑です。というのは、外部の設計士を起用することは、人員を抱えないですむため、事業者としては人件費を抑制できるからです。
このような思惑を持つ事業者が、良いデザイナーを多数確保できるのは難しく、この二つのケースでデザイナーズ住宅と呼ばれる質の高い住宅を建築できる可能性は、限りなく低いのが実情です。
ここでフリーとよぶ設計士は、元々は自分で会社を立ち上げて、または自営業者として設計をしていたわけですが、それでは十分な収入を確保できなくなってきたため、このような仕事も受けるようになっているのです。
少子高齢化や住宅余り、雇用の流動化、所得不安といった時代背景の中で、住宅市場、中でも注文住宅を中心とする戸建て住宅市場の環境は大変厳しくなってきている中、このような仕事の仕方が増えてきているのです。
住まいにおける良いデザインとは一体何か?
ところで、デザイナーズ住宅というと、本来は「良い設計・デザインが施された住まい」とイメージされるはずです。つまり、「住み心地と使い勝手の良さ(設計)」と、「見た目の良さ(デザイン)」を両立するものでなければならないわけです。住まいづくりや取得の難しいところは、実はそこにもあるのです。見た目が良くても、住み心地は良くないなんてケースがあるわけです。逆に、これらを両立できるのが建築の世界では真のデザイナーであり、デザイナーズ住宅ともいえるのではないでしょうか。
ですから、デザイナーと呼ばれるべき人は、数多くの事例を手掛けた実績があり、しっかりとした見識と主張がある人物であるべきだと、私は感じています。例えば、注文住宅の場合なら、顧客の要望を反映することはもちろん、プラスαの提案ができる人です。
良いデザイン追求はより良い住まいの実現へのポイント
つまり、顧客の要望を満足させることは当たり前で、将来のライフスタイルの変化などを見据えて、「ここはこうすべきですよ」「こう変えましょう」などと、より良い暮らしをできるよう提案できる人ということです。さらに言うなら、こうしたことができる設計者はその人の実生活で様々な経験をして、何をどうすればより良い住環境になるのか、使い勝手が良くなるのか、安心安全になるのか、などということをしっかりと勉強し、それを常に続けている人だと思います。
ですので、本当に良いデザインの住まいを求めるのなら、設計者がどのような人生を歩んできたのか、どんなことを考えているのか、それに共感できるのかなど、人間性の部分にまで踏み込む必要があるかもしれません。というのも、住まいは人が造るものだからです。
有名な建築家による住まいづくりが必ずしも皆さんに適しているわけではないのです。中には、自己主張が強く、顧客本位でない人物もいますし、作品や事例にされて、施主にとって住みよい住宅から大きくかけ離れるケースも散見されます。
だからといって、ハウスメーカーだと安心というわけでもありません。ハウスメーカーにも得意不得意があり、そこにいる設計者のレベルも人によって異なるからです。要は、人を見るべきだということです。
有名建築家を起用しデザイナーズ住宅として開発された商品は、彼らにデザイン力、提案力が乏しいこと現れ。私などは、「この会社は社内で抱える設計スタッフのレベルが低いんだな」などと、ちょっと意地悪なことを考えたりします。
このように、住まいとデザインの関係を突き詰めると、住まいづくりにおける人や組織の問題を鮮明化されますし、皆さんがより良い住まいを追求する上での注意点やポイントも明らかになりますから大変面白いのです。