お値段約3億円!! 開発テストドライバー同乗の贅沢な試乗

ブガッティシロン

世界最速の超高級車、ヴェイロンの後継モデル。1500馬力の8L W16クワッドターボを搭載し、0-100km/h加速2.5秒以内、最高速420km/h以上。世界限定500台、価格は240万ユーロ(約2億9000万円)とされた

ポルトガルはリスボン郊外。ワイナリー併設のプチリゾートホテルに到着すると、3台のシロンが既に待機していた。

筆者に与えられた個体は、薄めのゴールドとカーボンブラックのコントラストも鮮やかな一台で、コイツをランチの後から夕方まで、独占できるというわけだった。

通常の海外試乗会というと、同じ国のジャーナリストや編集者が二人一組になり、途中でドライバー交替を繰り返しながら設定されたルートを走ることが多い。けれども、今回、日本から参加したのは筆者ただ一人。ナビゲーター(兼お目付役)には、贅沢にもブガッティの開発テストドライバーが同乗してくれることに。
ブガッティシロン

ボディサイズは全長4544mm×全幅2038mm×全高1212mm、車両重量は1995kg。カーボンモノコックボディが用いられた

その名前を聞いて、驚いた。アンディ・ウォレスとロリス・ビコッキ。アンディは、トヨタにも乗っていたから日本でもお馴染みのレーシングドライバーだ。マカオGPやル・マン24時間レースの優勝経験もある。

一方、ロリスは、スーパーカーの世界では有名なプロフェッショナル。70年代にランボルギーニで活躍。後に“カンポガリアーノ”のブガッティ、さらにはパガーニやケーニグセグの開発にも関わっている。

現在、二人はブガッティの契約テストドライバーとして、開発現場をサポートしている。というわけで、ボクの隣にはアンディが座ってくれることになった。PRのレディ曰く、「彼は片言の日本語を話す」というのがその理由だったらしいけれど、案の定、ほとんど忘れていた。


助手席の気分はまるでラグジュアリーカー

ブガッティシロン

伝統の馬蹄形グリルやブガッティライン(内外装のCライン)が特徴的なデザイン

まずは、アンディが見本のドライブ。ポルトガル郊外のカントリーロードは、一見きれいなように見えて、その実、アンジュレーションが多く、ところどころ大いに荒れている。そして、広くはない。スーパーカーを走らせる、しかも1500馬力で幅も広いモデルにとっては、決して適しているとは言えない環境だったにも関わらず、アンディはまるでアウディTTでも転がすかのように、あっけなく走り出す。

もっとも、横に乗った筆者にしたところで、贅沢な素材に囲まれたゴージャスな空間に、ソリッドながら素晴らしい乗り心地と、ノイズや振動の類もきっちり抑えられた快適な走り様に、気分はまるでラグジュアリーカーの助手席だ。

先代に当たるヴェイロンも、スポーツサルーン感覚でドライブできるスーパーカーだとよく言われたが、ヴェイロンがスポーツサルーンなら、シロンは完全にラグジュアリーサルーン感覚である。快適性の面でも進化の幅は相当なものだと言っていい。
ブガッティシロン

ステアリングにはドライブプログラムモードやスタート/ストップなどのバタンを配置。運転席回りはできるだけスイッチ類を減らした、シンプルなデザイン

ブガッティシロン

500km/hまで刻まれたスピードメーターが備わる

アンディはどんどん速度を上げていく。オーバースピードでコーナーに入っても全く大丈夫、と、実演してみせる。確かに車体はフラットな姿勢を保ったまま、路面に張り付くようにしてコーナーをクリアしていった。かなりの横Gだったが、不安などまるで感じない。すさまじい信頼感だ。一旦停止からのフルスロットルでは、首が折れるかと思ったほど。背中がシートに張り付き、身体の自由が奪われる。それでも尚、ジェットコースターに乗っているときのような、“信頼に基づいたスリル”を感じただけだ。

ドライバーが、シロンを知り尽くしたプロである、というだけじゃない。クルマそのものの信頼性の賜物だろう。


その動きはもはや“ライトウェイトスポーツ”

ブガッティシロン

ライブプログラムモードを装備、EB(フルオート)など5つが選択できる。通常最高速は380km/h、2つ目のキー(スピードキー)を用いたハイスピードモードでは最高速420km/h(リミッター作動)を可能とする

十分ほどだったか。アンディの説明を交えたドライブは唐突に終わり、シロンはあぜ道の入り口で無造作に停まった。

いよいよボクの番だ。「クルマの動きに慣れるまで、自分のペースで落ち着いて走れ」、とだけ言って、アンディはもったいぶることなく席を替わる。

ゆっくり走り出す。1500馬力に1600Nmなどという桁違いの最高パワー&最大トルクスペックを思い出すと、脳みそと右足もついつい緊張してしまうけれども、そんなことなど忘れて、フツウのオートマチック車をフツウに転がすように走り出せば、案の定、シロンは拍子抜けするくらい、穏やかに走り始めた。ヴェイロンよりもいっそう、従順で快適だ。
ブガッティシロン

レザーをはじめ最高級の素材のみを用いた室内空間。顧客のオーダーに応じた内外装の仕立てに

石畳の道も気にせずに進む。シロンじゃなくても、アクセルとブレーキともに繊細なペダルタッチで走らなければならないが、まるでフツウに、とぼとぼと走ってくれた。街行く人が、それを見て、不満そうな表情をみせる。

微妙な操作にも実に正確で優しい反応しか見せず、ごくまれにギア選択を悩んで“バゥ! ”っと唸ることもあったが、総じてパワートレーンの躾が行き届いているという印象を受けた。世界最速のスーパーカーの動きであることを思い出せば、もはやそれは感動と言っていいレベルだ。

車体との一体感にもすさまじいものがある。ボディやパワートレーン、シャシー、サスペンション、タイヤを、バラバラと感じさせない。すべてがこつ然一体。そういう意味では、このシロンもまた、正にVWグループのクォリティ。ある意味、その信頼感こそが最大の魅力なのかも知れない。

車幅が2mを超えるというのに、狭いカントリーロードでも意に介さず、器用にこなす。車両感覚が掴み易いということもまた、一体感の恩恵だろう。

そのうえ、ステアフィールもまた、実に正確かつ自然である。ドライバーの意思に、これほど忠実な動きをみせるスーパーカーも珍しい。初期型のヴェイロンは直線番長的だったし、後期の1200馬力スーパースポーツになってから多少、ハンドリングマシンへと変身したものだが、シロンの動きは最早、ライトウェイトスポーツと遜色ないもの。ちなみに、シロンには新たにアダプティヴシャシーコントロールという車両制御システムが搭載されており、5つのモードから好みのドライブフィールを得ることができるが、そのひとつが何と、ドリフトモードだった。今回は、ハンドリング性能に自信のある証拠と言っていい。

よくまとまったクルマだから、動きに慣れるのに大した時間はかからない。さすがにアウディR8のようにはいかないけれども、ランボルギーニアヴェンタドールよりはずっと短い時間で慣れることができた。


スピード感はフツウのスポーツカーのおよそ半分

ブガッティシロン

開発時に最初に決定されたのがスタイリング。そのスタイリングを変える事なく性能や機能の目標がクリアされていったという

徐々にスピードアップ。すさまじいスタビリティの高さに仰天する。スピード感は、フツウのスポーツカーのおよそ半分といったところ。100km/hくらいの感覚でクルーズしていると、実際には軽く200km/hオーバー。しゃかりきに高性能を試さずとも感動できる。それこそが、本当によくできたスーパーカーの証というものだろう。

ブガッティシロン

キャビン後方に配置された、ほぼ新設計の8L W16クワッドターボエンジン。1500ps/1600Nmを発生、7速DSGと組み合わせられる

アンディの許可を得て、長い直線路でシロンをいちど停め、ローンチコントロールは使わずに、マニュアルモードでフルスロットル。シフトアップはクルマに任せて最高回転域で繋いでいく、というパターンで加速した。

その加速の凄さを、どう表現したものか。身体中の血液が後頭部や背中に張り付いて、そのまま破裂するんじゃないか、と思ったほど。にもかかわらず、恐怖心はさほどない。メーターを見る余裕こそないが、アンディとはちょっとした会話もできた。しばらくフルスロットルを続けていると、アンディが叫ぶ。

「ストップ!」

ブレーキを強く踏んだ。強烈な減速Gを伴って、あっという間にクルマが平常心を取り戻す。ドライバーもまた然り。加速も減速も、ともに素晴らしいという性能は、速いクルマの必須条件だ。

ブガッティシロン

ブガッティは1909年、イタリア生まれの天才エンジニア、エットーレ・ブガッティがアルザスに興したスポーツカーブランド。その創始者のイニシャルを用いたエンブレムがリアにも配される

試乗の途中でガソリンスタンドに寄った。アンディが、センターステーに並ぶ小さなメーターのボタンを押す。上から順に、7250rpm、320km/h、1150ps、とあった。本日の記録、であった。

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