日本人の1万人に10~15人が患っている「パーキンソン病」
日本では、約11万人の方が患っている「パーキンソン病」。50~65歳に発症することが多く、患者さんは年をとるにしたがって増える傾向にあります。パーキンソン病は、神経難病の1つ。症状を和らげる薬や手術はありますが、根本的な治療法はまだ研究中です。有名人では、永六輔さんやマサ斎藤さん、マイケル・J・フォックスさん、ボクシングのモハメド・アリさんが知られています。
パーキンソン病の発症メカニズムと特徴的な運動症状
パーキンソン病とは、脳の奥にある「黒質」という部分の神経細胞が減り、神経同士をつなぐ物質の「ドーパミン」が少なくなるために起こる病気です。ドーパミン神経は運動をコントロールしているため、パーキンソン病になると4大症状といわれる特徴的な運動症状が出現します。■パーキンソン病4大症状
- 安静時振戦:手足がふるえる
- 無動・寡動:体が思い通りに動かなくなる
- 筋固縮・筋強剛:筋肉が硬くなる
- 姿勢反射障害:体のバランスが悪くなる
自律神経障害や睡眠障害も? パーキンソン病の非運動症状
パーキンソン病では、運動の障害の他にも色々な症状がみられます。これらは「非運動性症状」と呼ばれます。たとえば、意欲の低下や認知機能の障害、幻視、幻覚、妄想、嗅覚の低下、痛み、しびれ、浮腫(むくみ)、自律神経障害、「睡眠障害」などです。自律神経障害には便秘や頻尿、発汗異常、起立性低血圧があります。睡眠障害は、非運動症状の中で最もよく見られるものの1つで、患者さんの約8割が悩んでいる症状です。パーキンソン病患者さんの睡眠障害を放っておくと、その後の生活の質(QOL)が悪くなってしまいます。そのため、睡眠障害にはきちんと対応しなければなりません。また、患者さんが睡眠障害を起こすと、介護する家族などにも大きな負担がかかります。介護者にとっても睡眠障害は、見過ごせない問題なのです。
睡眠障害には「不眠症」「日中の強い眠気」「レム睡眠行動障害」「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」などがあります。睡眠障害の原因や症状、対処法について以下で詳しく解説します。
夜中や早朝に目覚めてしまう…「不眠症」の原因はさまざま
不眠症には4つのタイプがあります。寝つきが悪い「入眠障害」、夜中に目覚める「中途覚醒」、朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」、十分に眠った気がしない「熟睡障害」です。パーキンソン病の患者さんの場合、健康な人と比べて入眠障害や中途覚醒、早朝覚醒が増えます。特に、中途覚醒の頻度は健常者の3.2倍、早朝覚醒は2.1倍にもなります。パーキンソン病の患者さんは体が硬く、睡眠中も思うように動けません。うまく寝返りができないので、体の違和感が強くなり目が覚めてしまうのです。また、神経や筋肉が過敏になっているため、こむら返りがよく起こります。悪夢を見ることも多く、これも不眠の原因になります。さらに、トイレが近いため、夜中に何度も起きなければなりません。
不眠症の対策の基本は、生活習慣の見直しと寝室の環境の整備です。パーキンソン病の患者さんは、体を動かすことが苦手なので、運動量が不足したり日光に当たる量が少なくなったりします。体や脳が疲れなければ夜は眠くなりませんから、日中はなるべく屋外で体を動かすようにしましょう。
不眠症に対して病院で行われる治療は、主にパーキンソン病治療薬の調整や睡眠薬の処方です。また、うつ病が原因で眠れないときは抗うつ薬、頻尿で不眠が起こっているときは抗コリン薬などが処方されます。
不眠の影響も? 「日中の強い眠気」の原因と治療薬
また、パーキンソン病患者さんの15~50%が、日中の強い眠気に悩まされています。特に男性や病気の経過が長い人、パーキンソン病が重症な人、ドーパミン作動薬の総量が多い人は、日中の眠気が強くなる傾向があります。いきなり眠ってしまう「突発性睡眠」も問題です。これはパーキンソン患者さんの約6%に見られます。車の運転中などの起こると大きな事故になりかねないため、注意が必要です。
不眠症のため夜に良く眠れず、その結果として日中に強い眠気が起こる場合は、夜にグッスリ眠れるよう、睡眠薬が処方されます。また、パーキンソン病の治療薬の副作用として、眠気が強くなることもあります。そんな時は主治医と相談して、薬を減らしたり別の薬に変えてもらったりしましょう。どうしても日中の眠気が取れずに困るときは、神経刺激薬のモダフィニル(一般名:モディオダール)やカフェインが処方されることもあります。
パーキンソン病の15~60%に合併する「レム睡眠行動障害」
また、睡眠には2つの種類があります。体の眠りの「レム睡眠」と、脳の眠りである「ノンレム睡眠」です。夢は主にレム睡眠中に見ます。夢の中と同じように現実でも体が動くと危ないので、レム睡眠中には脳と筋肉をつなぐ神経がブロックされています。ところが、この神経のブロックがうまくいかず、夢の通りに体が動く病気が「レム睡眠行動障害」です。レム睡眠行動障害は、パーキンソン病の患者さんの15~60%に合併しています。レム睡眠行動障害では、手足を大きく動かしたり、立ち上がって歩き回ったりします。そのため、寝床の周りや寝室に危険なものを置かないようにしましょう。ベッドパートナーも、別の部屋で眠った方が良いこともあります。
レム睡眠行動障害を持つパーキンソン病患者さんでは、起立性低血圧や色覚を見分ける機能の障害、ドパミン作動薬の効きにくさ、認知症の発症のしやすさなどが見られます。
健康保険での適応は認められていませんが、レム睡眠行動障害の患者さんには、抗てんかん薬の1つであるクロナゼパムや漢方薬の抑肝散がよく効きます。レム睡眠行動障害で困っている方は、主治医や睡眠専門医に相談してみてください。
脚の不快感…パーキンソン病に合併する「むずむず脚症候群」
「むずむず脚症候群」という、変わった名前の病気があります。「レストレスレッグス症候群」、あるいは「下肢静止不能症候群」とも呼ばれています。夜になると強くなる脚の不快感のため、どうしても脚を動かしたくなる睡眠障害の1つです。パーキンソン病にむずむず脚症候群が合併する頻度は、研究によりまちまちです。最も多いものでは、パーキンソン病患者さんの約半数に起こるとしています。パーキンソン病になってからの期間が長い人や症状が強い人、抗パーキンソン病薬の投薬期間が長い、認知機能に障害がある人、ウェアリング・オフが多い人などがかかりやすくなります。
むずむず脚症候群の原因は、ドーパミン神経の働きがうまくいかないことだと考えられています。そのため、治療にはパーキンソン病と同じくドーパミン作動薬である「ビ・シフロール(一般名:プラミペキソール)」や、「ニュープロ(一般名:ロチゴチン)」などが主に使われます。場合によっては、違う働きをする「レグナイト(一般名:ガバペンチン エナカルビル)」が処方されることもあります。
多くのパーキンソン病の患者さんが、睡眠の問題を抱えています。睡眠障害の原因を突き止め、自分でできることをやってもうまくいかないときは、早めに主治医や睡眠専門医にご相談ください。グッスリ眠ることで患者さん自身はもちろんですが、介護にたずさわっている人も生き生きと暮らせるようになります。