ひとり暮らしの老後不安を乗り越えるためには
この先、男性の4人に1人、女性の5人に1人が生涯独身といわれています。たとえ結婚したとしても、伴侶の死により最後はひとり(とりわけ女性に多い)になってしまうのです。では、ひとり暮らしの老いた未来の自分には、どのような不安が待っているのでしょうか?そして、どのようにすれば乗り越えられるのでしょうか?
老化の進行プロセスを知る
老後のひとり暮らしの不安は、具体的なイメージができないと、いたずらに大きく膨らんでしまいます。そこで、まず、60代以降のあなたの身体機能が老化によりどのように低下していくのかをバック・トゥ・ザ・フューチャーすることから始めましょう。老化は60代から死ぬまでの間、3段階で進行していきます。そして老化のバロメーターは運動能力、とりわけ「歩行能力」に象徴されます。
●第1期(65~74歳):
速度が遅くなる。長距離歩けない。階段・坂道がつらい。外出の範囲は維持。
●第2期(75~84歳):
足があがらず転倒しやすい。バス・電車の乗り降りができない。手も胸から上にあがらず、物を持ち上げられなくなる。外出は自宅周辺中心となり生活圏が縮小。
●第3期(85歳~死ぬまで):
手すりや介助がないと歩けない。ひとりでは外出できない食事、排せつ、入浴が生活のすべてとなる。室内中心の暮らしへと生活圏は更に縮小。
老化の進行は生活の範囲を縮小させる
こうした身体機能の低下は、暮らしの範囲を縮小させることにつながります。ではどのように縮小していくのでしょうか?ここでは主に、「家事」と「人との交流」という視点からご説明します。▽「家事」の視点から
第1期:掃除・片づけ、洗濯、料理は、40代のころに比べて軽々とこなすことはできないが、滞ることはない。
第2期:掃除・片づけができなくなる。洗濯も大物が無理になる
第3期:皿洗い、皿拭きといった断片作業しかできなくなる
▽「人との交流」の視点から
第1期:仕事からリタイアすると、仕事関係の友人知人を喪失する。役割のない役割に落ち込み、鬱になることも(特に男性)
第2期:伴侶の死、友人の死により身近な人との関係が多数喪失する。
生きがい、生活の張りをなくし、家事放棄、生活が破綻することも
第3期:近所づきあいを喪失。元気だったころの自己を喪失。認知症になることも
老化の進行プロセスを知ることで見えてくるのは、老後の最大の不安とは生活のすべてが縮小していくことではないでしょうか。
- 今までやれていた家事がどんどんできなくなる
- 今までできていた外出がどんどんできなくなる
- いままでの人との交流がどんどん少なくなる
老後の暮らしの不安は3つの習慣で乗り切る
では、自分の生活の範囲がどんどん縮小していく不安は、どうすれば解決できるのでしょうか?今のうちからやっておくべきことは何でしょうか?私は、30・40代のうちからやっておくべきことは「3つの習慣」を身につけることだと考えています。1つめは「家事の習慣」、2つ目は「運動の習慣」、3つ目は「人付き合いの習慣」です。この3つの習慣を身につけ継続していくことが、生活の範囲の縮小を防ぎ、老後のひとり暮らしを自由で豊かなものにしてくれると確信しています。
もっとも優先すべきは家事の習慣
日々の生活の基本は家事です。家事が滞れば、ひとり暮らしは成り立たなくなります。老化の第3期に入り外出できなくなったとき、家事は唯一の運動となります。運動できなくなれば、やがては、寝たきりや認知症になる確率が高まり、ひとり暮らしができなくなってしまいます。家事は老化第1期ではあまり滞りません。第2期に入ると掃除・片づけ、次いで大物の洗濯ができなくなります。入浴も転倒が怖くて、おっくうになっていきます。この時期に多くのひとり暮らしの家は倉庫化、ゴミ屋敷化します。若い時、どんなに片づけ上手だった人でも、手足が思うように動かなくなればゴミ捨てすら、やりたくてもできなくなります。「親の家の片づけ」が話題になっている昨今ですが、これは誰しもが避けられない問題、かつ、明日は我が身の問題でもあるのです。
第3期に入っても、最後まで残る家事は料理です。ただし種類はお味噌汁のように食べ慣れた、しかも調理が簡単なものに限られてきます。入浴も介助なしではできなくなります。預金管理や諸手続きといった身の回りのことも、人の手を借りなければ、生活が滞ってしまいます。
今から家事の習慣を身に付けておけば、あなたが第3期の老化の段階にはいっても、最低限の料理をし続けることができます。食事と排拙が自力で出来る限りは、自宅でのひとり暮らしは可能なのです。
老化の進行プロセスから逆算すると、家事のなかでもとりわけ、「掃除・片づけ」「料理」が重要だと考えます。
家事のなかでも重要なのは掃除・片づけ
では、まず「掃除・片づけ」です。いずれは、あなたの住まいが倉庫化、ゴミ屋敷化するのを最小限にくいとめるには、今から、掃除・片づけを励行し、不要な物は捨て、必要な物は使ったら必ず定位置に戻すという、掃除・片づけの方法を身に付けることが大切です。老いてから新しい習慣を身につけるのは至難の技ですから。
では具体的にはどのように、片づけの習慣を身に付けるのでしょうか?
まず、掃除・片づけをハレとケに分けて実践しましょう。ハレ掃除・片付けとは、日頃手が及ばないところを、思い切っておおがかりに、掃除・片づけすることです。時期はお誕生日、クリスマス、お正月など、1年の節目となるイベント開催の前に年2~4回、週末の2日間を使うのがお勧めです。すっきりした住まいで、晴れやかな日を迎えることができるでしょう。
掃除は、日頃手の届かない室内外の床面、壁面、天井面まわりが中心となります。換気扇、照明器具、窓ガラス、居室内や水回りの床・壁、バルコニーなどを掃いたり、拭いたりします。
片づけは、クローゼット、押入れなどの中にある着なくなった洋服、使わなくなった電気製品、家具、食器、小物などを一斉に自分の家から外へ出す、というものです。粗大ゴミもこの期に外へ出してしまいましょう。あえて、外へ出すという表現を使ったのは、捨てるだけではなく、友人に譲る、オークションやバザーに出す、フリーマーケットへ参加するなど、色々な方法を駆使することで、捨てるという後ろめたさを払拭して、積極的に処分しようとする士気を高めるためです。
ケ片づけとは毎日、寝る前5分間と週末1時間の掃除・片づけです。寝る前に、明日のゴミだしの準備と、出しっぱなしの物を定位置の置き場所に戻します。週末の1時間の掃除・片づけは30分ずつの2パートに分けます。
パート1は定番の掃除機かけ、毎日5分では手が回らなかった物の整理整頓と燃えないゴミ・新聞などの整理です。パート2は特集として、キッチン台・シンク、トイレ、洗面・浴室など使用頻度の高い水回りの掃除と整理整頓です。気分が乗れば30分が1時間になるかもしれませんね。
夜歯磨きしないと、気持ちが悪くて眠れないという人は多いと思いますが、同様に片づけしないと、気持ちが悪くて眠れないと思えるところまで継続できるようになれば片づけの習慣は身に着いたといえるでしょう。
料理は最後に残る家事
次に「料理」の習慣を身につける具体的方法です。人間は食べる物でできています。また、ひとり暮らしを続けるには健康であることが必須です。ですから自分の体に合った良いものを規則正しく食べないわけにはいきません。でも、わざわざ時間と手間をかけておいしい料理を作ったところで、ひとりで摂る食事はおいしくない!という声が聞こえてきそうですね。
ひとり暮らしの定番料理は1週間のサイクルで回していきましょう。平日は忙しく、料理に多くの時間を割くわけにはいきません。そこで、週末の半日を食材の買い出しとまとめ調理にあてることにしてはいかがでしょうか。
買い出しは、季節の野菜と肉・魚を中心に1週間分、まとめ買いします。買い出しから戻り、ちょっと一息入れたら、買ってきたすべての野菜を一気に下ごしらえします。主に固めにゆでておきます。野菜は鮮度が命なので、買ってすぐの調理が一番おいしく食べるコツでもあります。
魚や肉は1食分ずつ小分けにして冷凍。翌日食べる分は前日寝る前に冷蔵庫へ移動させておきます。ついでにご飯も炊いて1食分ずつラップにつつみ冷凍しておき、そのつどチンすれば便利です。こうしておけば、野菜と肉、魚を組み合わせてお浸し・サラダにしたり、スープの具にしたり、炒めものにしたり、と応用がききます。レシピもネット検索すれば、簡単でおいしいものがヨリドリ、ミドリです。
そして月に1~2回は特集料理と称して友人との食事会で変化をつけましょう。あなたと同じようにひとり暮らしの友人同士で料理を持ち寄、食事会を開くのはいかがでしょうか。
ちょっと気張って新しいレシピに挑戦する機会が得られます。何より、大勢でワイワイ食卓を囲むのは楽しいものです。食事を通して培う人間関係はより緊密になります。週末の特集片づけの後であれば、胸をはって友人を迎えることができますね。
家事がしやすい住まいの特徴
家事の習慣を身に付けるには、住まいもおおいに関係してきます。どのような住まいが望ましいのでしょうか?要点は次のとおりです。
■間取り・設備
- 室内のすべてが見渡せるようワンルーム化
- キッチン、トイレ、洗面室、浴室間をスムーズに移動できるような配置
- ゴミが室内に滞留しないように台所に近いところに分別ゴミ箱を置くスペースの確保
- 勝手口の確保。室内に加えて勝手口の外に分別ゴミ箱置きスペースの確保(一戸建て)
- 収納スペースの縮小(必要最低限のものしか置けないくらいにとどめる)
- キッチンはダイニング・リビングに近接していて対面式
- 300リットル程度の冷蔵庫、電子レンジ・電気釜が置けるスペースの確保
- 夏の調理が暑くならないIHクッキングヒーター
- 雨に濡れずに行けるゴミ捨て場がある
- 毎日、24時間捨てることのできるゴミ捨て場がある
- 粗大ゴミ置き場がある
- 各フロアーにゴミステーションがあれば尚可
- 物を買いだめしなくて済むように、駅から自宅までの間にスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどの買い物施設がある
- 近くにフリーマーケットをやる公園、リサイクルショップがある