食と健康

「甘いものは別腹」は本当!?感覚特異性満腹感とは

【管理栄養士が解説】「甘いものは別腹」と言いますが、理論的に考えれば、お腹(胃)が物理的にいっぱいならば、それ以上は美味しく食べられないはずです。満腹状態でも甘いものが進んでしまうのはなぜでしょう? ダイエット中でカロリーを気にする女性にとっても困った存在の「別腹」の科学的なメカニズムと対策ポイントを解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

「甘いものは別腹!」…お腹いっぱいなのにどうして入る?

ケーキを持つ女性

デザートなど美味しいものは満腹でも食べられる人は多いと思います。別腹とはよく言ったものです。別腹はなぜ起こるのでしょう?そのメカニズムを考えてみます

コース料理やバイキングをお腹いっぱい食べた後は、「お腹が苦しい!」「デザートはもう食べられない……」と満腹感を感じるもの。しかしそんな満腹状態でも、「甘いものは別腹!」と食後のケーキやお菓子が進んでしまって困っている人は少なくないようです。

しかし、 ヒトの体に胃は1つ。これが物理的に満腹感を感じるほどいっぱいになれば、理論上はそれ以上食べられないはずです。お腹いっぱいなのに、甘いものならまだまだ食べられてしまう……。これはどういうことなのでしょうか? 「別腹」のメカニズムと対策のポイントを管理栄養士が詳しく解説します。

別腹は感情次第!? 感覚特異性満腹感とは

別腹は「エモーショナルイーティング」とか「感覚特異性満腹感」とも呼ばれることもあります。感情で食べる……、納得できるようなできないような言い方ではありますが、実は医学的にも大まかな部分が解明されています。

別腹の仕組みは大きく3つ知られています。

  1. 脳が快楽を得られることを学んでいて「食べろ」と指令を出す
  2. 味が変わるので食べられる 
  3. 胃のぜん動運動によって胃の内容物が小腸へ送り出される

以下で、それぞれのメカニズムを詳しく説明します。

別腹のメカニズム1:脳が「食べろ!」と指令を出す 

脳は「不快を避けて快楽を得る」ように働きます。不快を避けるのは、主に命を守るため。危険を避けなければ、命がいくらあっても足りません。危険を避けるといってもさまざまなものがありますが、精神的に「イヤだな」と感じるのも、過去にイヤな思いをしたものを覚えていて、同じことを繰り返さないために脳が不快なものを避けようとしていることが原因で起こります。

同じように、脳は不快だけではなく「快楽」も記憶しています。嬉しかったことや楽しかったこと、さらに美味しかったものまで、脳はきちんと覚えているのです。そのため、「美味しい」と記憶された食べ物が目の前にあれば、「これは美味しいぞ! 食べなさい!」と脳が指令を出すのです。

別腹のメカニズム2:味が変われば食べられる

もう1つ、脳の仕組みとして「同じ味ばかりだと飽きて食べられなくなる」というものがあります。基本味として、塩味、酸味、うま味、苦味、甘味の5つが知られています。一般的に、食事は塩味、酸味、うま味で構成されていることが多く、甘味が不足しているのです。

中枢は同じ味に対して満腹情報を出すため、塩味、酸味、うま味には満腹情報が出されていても、甘味はまだ満腹情報が出ていないことになります。つまり、デザート類は甘味の要素が強いので、別腹として食べられてしまうというのです。

別腹のメカニズム3:胃のぜん動運動で内容物が小腸へ

満腹状態で目の前に好きなものが出されると、胃が消化活動の一環であるぜん動運動を始め、食べ物を腸へ送り出します。すると、胃の上部に少しスペースができて「食べられる」とサインが出ます。このスペースは、「オレキシン」というホルモンによって作り出されます。詳しくは、「お腹いっぱいでも甘~いデザートは入るのはなぜ?甘いものは『別腹』ってホント?」を併せてご覧下さい。

本来であれば、胃のぜん動運動は食後2~3時間かけて行われますが、「好物」を見たという刺激で摂食中枢が刺激されて起こることがあります。この現象は、エックス線によるレントゲン写真でも確認されています。

別腹対策のポイントは「見ない! 近寄らない!」

別腹のメカニズムから言って、これを阻止するためには「見ない」ということがまず最初にあげられます。コース料理のように最初からデザートがセットになっているものについては、そういった食事の頻度は普通はそこまで多くないでしょうから、日ごろのご褒美として食べていいと思います。

ただし、普段の生活ではコンビニやスーパーに行った際、菓子や甘い菓子パン、シュークリームやプリンが並んでいる棚には近寄らないことです。満腹のときでさえ、美味しそうなものが目に入れば、食べたくなるのです。コンビニやスーパーに寄るのは、満腹状態のときばかりではありません。とくに、ランチを買いに出るときなどは空腹な上、半日働いて疲れていますから、余計にこういったものが美味しそうに見えるのです。つまり別腹対策のポイントは、美味しそうなものの売り場には近寄らない、そして買わないようにすることです。

空腹感をなくすには栄養バランスが大切

デザートを買う代わりに、きちんと栄養素がそろったランチを選びましょう。「おにぎり2個とお茶」や「菓子パンとコーヒー」といった内容を食事代わりにするのはよくありません。栄養素のそろったランチは、「主食(ご飯、パン、麺)」「主菜(肉、魚、卵、豆腐)」「副菜(野菜料理)」の3つがそろったもの指します。いずれも毎日同じ組み合わせではなく、月曜日は「おにぎりとから揚げとほうれん草の胡麻和え」、火曜日は「サンドイッチと温泉卵とサラダ」など、食材が被らないようにしていくことがコツ。不足する栄養素に偏りがなくなるため、空腹感を感じにくくなり、甘いもの欲が少なくなるはずです。

最初のうちは、栄養のバランスがとれた組み合わせにデザートを一緒に買ってしまうことがあると思います。しかし、そのうちデザートを食べる前に満腹になり「ムリして食べている」と感じるようになるはずです。そうなれば、デザートを買うこと自体、少なくなるでしょう。

そもそも、デザートはムリして食べるものではなく、楽しんで食べるものですから、満腹状態なのに無理やり流し込まれたのではデザートもかわいそうですよ。デザートを食べるなら、別腹ではなく、お茶の時間をとって、優雅にいただくようにしましょうね。
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